第六話 『北天の騎士と幻の竜』 その23


『GHAAAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHッッッッ!!!!』


 紅蓮に渦巻く竜の劫火が、歌と共に放たれる!!特大の『火球』が夜空を撃ち抜きながら、金色に輝く呪印に目掛けて真っ直ぐに飛び抜けていく。呪印に導かれ、『火球』は稲妻のような速さで岩壁に衝突したよ。


 金色の閃光が夜空の闇を払拭し―――次の瞬間には、うねる北海の白波を消し去るほどの衝撃波といっしょにやって来た爆音に、体も鼓膜も揺さぶられていた。


 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンッッッッ!!!!


 ゼファーとオレの全開の魔力を捧げた攻撃だからな、これほどの威力が出るのは当然至極さ。しかし、それでも岩壁には大きな亀裂が新たに刻みつけられていた……。


『……たりない……こわれて、いないよ……ッ』


「構わないさ。直撃した部分を中心に、やけにヘコみやがった。内側に崩れかけているんだよ」


『なら!』


「ああ。『ヒュッケバイン号』たちが、後に続いてくれる!!」


 竜とヒトが組んでも、力が足りなかったとすれば?


 ……もっと大勢の力を重ねようじゃないか。オレとゼファーが、海上を見る。暗む海のなかを征く、最速の海賊船、『ヒュッケバイン号』をな。


 操舵輪を握りしめたまま、黒毛の海賊が叫ぶのさ!!


「オレたちも続くぞ!!サー・ストラウスとゼファーの力に、『アリューバ海賊騎士団』の力も合わせるんだッ!!……カタパルト!!放てええええええええええええええええええええッッッッ!!!!」


「了解だあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッ!!!!」


「ぶちかましてやるぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!!」


「北海最強は、オレたちだあああああああああああああああああああああああああああああああッッッッ!!!!」


 海賊たちの歌声と共に、海賊船のカタパルトがうなり声を上げた!!機構が軋むほどに揺さぶられながら、北海最強の海賊船たちが『火薬樽』をぶっ放す!!


 旗艦である『ヒュッケバイン号』を含む、四つの海賊船たちから連続的に放たれた『火薬樽』は、空中でヒュルルルル!という伸びる歌で軌跡を飾りつけながら、次から次に『弱点』に対して炸裂していく。


 それらの一撃一撃は、ゼファーの火力には届かないが、『火薬樽』が炸裂すればするほどに、『弱点』の亀裂と、そしてヘコみが深まっていく。とっくの昔に、内側は大崩れしているのさ。


 天才と自称するだけのことはあり、ホフマン・モドリーの読みは完璧だったようだ。四連続の『火薬樽』の炸裂を浴びて、岩壁の一部が、ボロボロと崩れ始めている。亀裂が縦にも横にも走っていく……いや、縦に走る亀裂の方が大きいな。


 その亀裂に無敵を誇っていた『岸壁城』の岩壁が、敗北の兆しを与えられる。崩れる岩の欠片が、どんどんと増えていく。


 モドリーの考えをロロカ先生がオレに分かりやすく教えてくれていたんだがね。何も力で大穴開けようというワケじゃないそうだ。


 岩壁そのものの『重量』を使うことで、破滅的な破壊を呼ぶそうな。あの大きなヘコみが深まっていくように見えるが……実は、そうじゃない。深くなっているんじゃくんて、あのヘコみから『上』の岩壁が、前に剥がれ落ちようとしているのさ。


 亀裂の走りが止まらないのも、それはしょうがない。あの現象を引き起こしているのは火力ではなく、もはや岩壁そのものの重みだからだ。この土地の岩は、縦に割れやすいそうだな。


 大地の質を知り尽くして、なおかつ天才の頭脳があったとすれば、こういう破壊をデザインすることもやってのけられる。本当に、天才野郎なのさ、ホフマン・モドリーは。


『あはは!『どーじぇ』、くずれるよっ!!』


「ああ、『岸壁城』の側面一つ、ぶっ壊してやったぜ!!」


 崩落は止まらない。縦に走った亀裂に、横に走った亀裂も合わさりながら、岩壁の東側が、あの雷雲の中とそっくりな音が聞こえるのさ。土砂崩れにも似た破滅の音を轟かせながら、不敗の歴史をもった壁が、見事なまでに崩れ去っていく。


 ……東側の岩壁の四分の一が削がれるように崩れていたよ。だから、『中身』が見える。『岸壁城』の『地下の部分』さ。物資もあり、人員もある……まるでダンジョンのように複雑な構造をしていたな。


 これだけ掘り返していれば、オレたちがやらなくてもいつか崩れる時が来ていただろう。百年か、百五十年ぐらい先のハナシだったかもしれないがね。


 さてと。


 これだけでは、『岸壁城』は攻略することが出来ないな。どうするのか?決まっているな。せっかく、敵の要塞の『中身』が、無防備なまま、さらけ出されているのだ。


 徹底的に打撃してやるに決まっているじゃないか?


 北側から、あの最新型のカタパルトを搭載しているという海賊船が回り込んでくる。彼らには多くの矢が降り注がれているが、海賊たちはどうにかこうにか生き抜いている。船員たちは負傷しているかもしれないが、まだまだ仕事が残っていた。


 岸壁を崩すために、最も強い威力の『火薬樽』を放たなかったのは、この時のためだ。強打を放つヤツは、取って置き。美味しいトコロを任せるのが、王道の使い方だ。彼らはこの戦において、最も多くの仕事をこなしてきた。


 そろそろ、最後の仕事をするわけだ。


「放てええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッッ!!!!」


 特大の『火薬樽』が、『岸壁城』の『中身』に撃ち込まれていた。そこは、おそらく地下1階といった場所にあたるだろう。その広めの空間に、特大の『火薬樽』が叩き込まれていたよ。


 広めなのには理由がある。兵舎と倉庫を兼ねているからだ。このあいだ誰かが『火薬樽』の保管庫を施設ごと破壊しちまったからな。地上部分には『火薬樽』を置いていたりはしない。


 置いておくとすれば?……地上に速やかに『火薬樽』を供給することが可能な、その地下1階部分の倉庫だという読みがオレたちにはあるのだが―――正解しているのかな?


 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンッッッッ!!!!


 ……ゼファーとオレの生み出したほどの威力じゃないが、十二分に破壊力のある爆炎が地下1階の倉庫部分を爆破していたよ。『火薬樽』ってのは、錬金術師が作ったものだ。一定の衝撃を与えるまでは、実は爆薬ではないそうだ。


 一定以上の衝撃を与えた瞬間から、中に詰められた火薬だとか金属の粉とか、錬金術師の不思議な薬品なんぞが入り交じって反応を起こす。そうすると、とても爆発しやすい不安定なシロモノに変化する。


 カタパルトで射出した衝撃で爆発しないのは、その瞬間はまだ爆薬じゃないからだ。


 だが、衝撃を与えるか、あるいは『炎』を浴びせかければ、すぐに反応が促進されて爆発すると、『蛮族でも分かる錬金術』には描いてあったな。アホみたいに難しい数式と一緒に。


 細かな錬金術学的な根拠は知らないが、そこに『火薬樽』が保管されていたことは事実であり、特大の『火薬樽』の一撃は、そいつらに誘爆をもたらすに十分な衝撃と、『炎』の熱量を持っていたようだ。


 幾つもの爆発が折り重なって、酷い地響きと一緒に、殺戮の衝撃波となっていた。灼熱か暴力的な風の力で吹き飛ばされるか―――『岸壁城』の内部では、その強力な死の火力が暴れていたよ。



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