第六話 『北天の騎士と幻の竜』 その21


 勇敢極まる『アリューバ海賊騎士団』の海賊たちは、ガハハ!と大笑いしながら、『ノブレズ』の港に停泊していた商船やら、船着き場に設けられた桟橋なんかに海賊船を衝突させていく!!


 商船の船体や桟橋を構成する木々が、破裂するように飛び散っていく。加速した圧倒的な重量物が、衝突したんだ。『ヒュッケバイン号』は大きく揺れて、オレたちは弾き飛ばされそうな衝撃を、ニヤニヤした顔でこらえていたよ。


 こういう瞬間って、何だか楽しくなるんだよね。


 船底から伸びる衝角やら、補強された船体の前面は頑丈なものだから、こんなことしても海賊船には壊滅的なダメージはない。戦うための船ってのは、頑丈なのさ。港の施設をあちこちぶっ壊しながらの乱暴な接岸となった。


 海賊船からは戦士たちが飛び降りていく。『北天騎士団』と『バガボンド』の精鋭たち、総勢1500!!それだけの戦士が海賊船から放たれ、『ノブレズ』の港の中へと突撃していった!!


 一斉に雪崩込むのさ。


 こういうときは、数と力と結束、そして速度がモノを言うのだ。より多くの戦士で突撃すればするほど、弓兵は迷ってくれるからな。狙いを定めて放たなければ、矢などマトモに命中することはない。


 大勢の走り回る標的、しかも夜の闇のせいで遠近感も狂っているからな。狙われにくくなるし、敵の射撃が当たりにくくなるというのが全員で突撃することの利点だ。


 ……それに、例え矢で自分が射られたとしても、仲間がその代わりに敵と間合いを詰められるからでもある。多い方が強いんだよ。さてと……そういうわけで、オレたちも参加だ!!


「行くぞ、ゼファー!!」


『うん!!』


 我々も突撃する。猟兵全員と、そして、ゼファーもまた地上を『走る』。べつに飛ぶだけが竜の強さじゃない。9メートル近くあって、黒ミスリルの鎧を身につけた巨獣が突撃して来る。それは、言うまでもなく脅威的な突破力だ!!


 黒い突撃は並みの馬よりも遙かに速く走り、敵兵どもを蹴散らして行く。オレたちはゼファーの開けた穴をこじ開けるようにして、帝国兵を攻撃すればいいのさ!!


「ひいいいいいいいッ!!?」


「りゅ、竜だあああッ!!?」


「で、デカすぎるうッ!!?」


「怯むな!!一斉射撃の準備だ!!弓で射抜けば、あんなデカブツ――――――」


『GAAHHHHOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHッッッ!!!』


 隊伍を組み上げようとしていた弓兵どもに、ゼファーの『炎』が津波のように襲いかかる!!弓を構えている場合ではない。全身が灼熱のブレスに焼かれていくのだからな!!30人ほどの弓兵どもが『炎』に呑まれてのたうち回った。


 その隙を逃すほどに、練度のある戦士は甘くはない。


「チャンスだ、突撃するぞ『北天騎士団』ッ!!オレに続けッ!!港の占拠は後続に任せろッ!!市街地にまで突破し、敵陣を貫いてやるぞおおおおおおッッッ!!!」


 ジグムントが叫び、そして北天騎士たちが応えていた。


「おうよ!!」


「『ノブレズ』を奪還してやる!!」


「『ベイゼンハウド』から、帝国人を追い返してやるんだ!!」


「ジグムント・ラーズウェル団長に、続けええええええええええええええッッッ!!!」


 竜の火焔が作った道は、未だに炎が踊っている。


 しかし、地面が燃えていることになど、北天騎士たちは気を取られることはないらしい。相当な熱量を全身に浴びることになるだろうが、まあ、血肉が燃えたぎっているこの状況であれば、全く気にはならんか。


 炎をブーツの底で蹴散らすようにして、北天騎士たちはいきなりの敵陣突破を仕掛けていく。勝負勘に優れたベテランらしい判断だったよ。敵の混乱に乗じて、陣を崩す。戦闘の主導権を掌握することに努めているな。


「させるな!!」


「コイツら、城塞の外から攻めてくる『北天騎士団』と、合流するつもりだぞ!!」


「そうなれば……そうなれば、我々は囲まれた上に貫かれてしまう!!各個撃破される、総崩れになってしまうぞ!!」


 そうだ。そいつを狙っているんだよ、ジグムントと北天騎士たちは。だからこそ帝国兵も突撃して来やがるんだ。


 弓を捨てて、剣や槍を用いての近接戦闘戦に入る。ゼファーの突撃で、弓の間合いはとっくに潰されている。オレたちはもう敵に近づいているんだ。だから、ヤツらは肉体を壁と化して『北天騎士団』を止める他ない。


 ……そいつは『北天騎士団』にとって有利でもある。個々の戦闘能力が高いからな、北天騎士たちは……体力も十分。海賊船のなかで、今までたくさん食って寝て、体力を回復させていたからな。


 ……まあ、本調子の者ばかりではないだろうが―――だからこその速攻でもある。動ける内に、とにかく殺す。それが、この突撃の目指すところだ。


「邪魔者は、全て斬り伏せろッ!!」


「了解だああああッ!!」


「帝国人、我らの剣を、受け止められると思うなよッ!!」


 北天騎士の『剛の太刀』が、帝国兵の鋼を圧倒していく!!剣戟の音が響き、帝国人どもは必至に北天騎士たちによる突撃に対応しようとするものの、技巧を伴う強打の前には、帝国の海兵隊では分が悪い。


「くそう!!」


「コイツら、強い!!」


「おうよ!!帝国人ども!!『北天騎士団』は、最強不敗の伝統を持っている!!我々は誰にも負けんのだッ!!」


 圧倒的だ。北天騎士の剣が次から次に敵兵をあの世に送っていく。思わず見とれてしまうほどの強さだ。目の前の敵兵を竜太刀で斬り裂きながらも、オレは幼い頃に憧れた伝説の勇者たちの背中に心を奪われる。


 ああ。


 この戦列に加われていることを、光栄に思うよ。


 突撃が開始して、たった5分だ。そのあいだに、港を守ろうとしていた帝国兵の陣形は崩壊している。斬られた敵兵からあふれ出た血のせいで、海が赤く染まろうとしていたよ。


 ジーンの策がここでも生きている。港に突撃したそれぞれの海賊船には、与えられた仕事が異なっていた。正面に突撃をかました『ヒュッケバイン号』を含む三隻は、そのまま単純に敵陣を貫く係だ。


 『ヒュッケバイン号』たちから、それぞれ左右200メートルずつ離れた場所に突撃した海賊船たちから出撃した戦士たちは、敵集団を大きく取り囲むように走り、包囲を完成させた。


 結果としては最高の形になっているな。港の敵が総崩れになるのも時間の問題だ。


 ……混乱に乗じることが出来ている。


 オレたちの方が、とんでもなく有利な戦況さ。まあ、敵の密度が薄いから、突破することも可能―――帝国兵の多くは、『岸壁城』に立て籠もろうとしているらしい。


 悪くない考え方ではあるがな。あの城は守りが固い。まともに攻め込もうとしても、落とせるような砦ではないのだ。


 だからこそ、策は用意してあるのだが……今は、目の前の敵に集中しよう。オレは竜太刀と共に暴れ回り、何人もの帝国兵を斬り裂いていく!!


 猟兵たちも続き、『北天騎士団』と『バガボンド』が突破するための道を開いていくのさ。市内に戦士たちを導く。それが、今は最優先すべき事案である。


「とにかく敵を貫け!!城門を内側からこじ開けて、『北天騎士団』の本隊を、『ノブレズ』市内にどんどん入れてやれ!!」


「イエス・サー・ストラウス!!」


「北天騎士の皆さんを、サポートします!!」


「合流して、帝国軍どもを数で圧倒してやりますよ!!」


 『バガボンド』の戦士たちも、北天騎士に負けていない部分はあるな。若いから、体力がいい。装備の重量に脚が負けちゃいない。よく鍛えてくれているよ、イーライは。


 500ほどの戦士が港を駆け抜けていく。


 突破は成功している。あとは、この港にいる敵兵どもを皆殺しにするとしよう。そいつで、第一段階は成功だ。


 敵を斬りながら、再びよそ見をする。『ヒュッケバイン号』が動き始めていた。ジーンは畳みかけるつもりだ。混乱する敵を、より崩す―――『北天騎士団』と共に無敗の伝説を有する『岸壁城』、そいつを陥落させるためにな。



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