第一話 『ベイゼンハウドの剣聖』 その24
……シャーロン・ドーチェは相変わらず頼りになる。ふざけたり、シビアなこともズケズケ言うが、オレのしたいことを応援してくれている。
さてと。色々と情報が手に入ったな。『ハイランド王国軍』は、難攻不落の『ベイゼンハウド』も攻撃する予定があったらしい。エイゼン中佐が『呪法大虎』の提案に反対した理由の一つかもしれん。
『ベイゼンハウド』に侵攻することを、秘密にしておきたかった可能性はある。作戦ってのは、可能な限り秘密にしておくべきだからな……。
それに……ジグムント・ラーズウェルは須弥山側の人物。ハイランド王国軍からすると、須弥山の影響力を持つ政権を、『ベイゼンハウド』に作りたくはないのかもしれない。
……だが、本格的に問題があるのなら、ハント大佐も『呪法大虎』に釘を刺す。それをしなかったということは、ハント大佐も『ベイゼンハウド』侵攻には考えるところもあるのだろうな。
騎士の国ではあるし、他国に対する侵略戦争をしたことは歴史上ない。そもそも帝国軍でさえ陥落させることが出来なかった、難攻不落の土地でもある。
『虎』ならば、この土地を攻略することも不可能ではないと思うが、その被害を考えると、好んで戦うような相手ではないのは事実だな―――。
「―――ソルジェよ、どんなコトが書いてあったのだ?」
好奇心一杯の双眸をこちらに向ける、オレの愛しい美少女エルフさんがいたよ。
「……懐かしいメンバーに会えそうだぜ」
「懐かしいメンバー?」
「ああ。敏腕ルード・スパイの、アイリス・パナージュお姉さんと、『ピアノの旦那』さ……」
「おお!……ハイランド王国以来ではあるな。彼らも、まさかこの土地に来ていたのか」
「そうだ……とりあえず、全員、こっちに集合!!ハナシを聞いてくれ!!」
猟兵とゼファー、そしてカーリーを集合させる。
「シャーロン・ドーチェから情報が入った」
「誰よ、それ?」
「オレたちの仲間だよ、カーリー。とっても切れ者だけど、ふざけた男だ」
「なにそれ?どっちなのよ?」
「仕事は出来るから安心しろ」
「……分かったわ。それで、そいつが何を言ってきたの?」
「ジグムント・ラーズウェルからの手紙を、あいつも怪しんでいる。数年ぶりに届いた手紙。本当に彼の文書なのか、帝国人の策略なのか、よく分からんのは事実。これは確認するしかない」
「ぼ、ボクの鼻の、出番ですね!?」
「そうだ。オレたちにはジャンの嗅覚がある。手紙を書いた人物を、追跡することは可能だよ。そいつが、帝国軍人だったら、そいつを拉致して拷問し、情報を吐かせて―――」
「―――なんだ、どうして黙るのだ?」
……12才の少女には、具体的に言うべきじゃないな。ミアは、まあ慣れているから別に大丈夫だと思うが……。
「血なまぐさいことを言うのなら、平気だもん!わらわは、『十八世呪法大虎』の候補者よ。邪悪な呪術の拷問が、どういうものなのかを、それなりには学んでいるわ!」
……そうは言っても、刺激的なワードは子供の心を傷つけるかもしれない。傭兵だって職業倫理を守りながら、暴力を使っているんだってことを知らない子に荒々しいコトを話すと、誤解されちゃうそうだ。
考慮しよう。
「敵サンを捕らえて、情報を聞き取る」
「拷問するのね!」
台無しだな。オレの気遣いとかいらなさそうだ。『呪法大虎』って職業も、闇の多そうなお仕事だよなあ……。
……まあ、傭兵だって、状況次第で何でもやる。『正義』のためなら、ヨゴレ仕事も厭わんよ。
「……とにかく、まずは十都市連合の一つ、『ガロアス』に向かう。そこの近くに生えている『銀月の塔』とやらに赴き、ジグムント・ラーズウェルと接触するぞ」
「……いよいよね」
『チビ虎』の顔が真剣さを深め、その金色の尻尾がゆっくりと風に揺らぐように動いた。集中力を高めている―――彼女が『会えないと困る人物』は、やはり彼なのか?……それとも、別に……。
……いや、深くは考えまい。今は、はぐらかすだろう。狩人の目をしている。集中力が高い。今は嘘を突き通せるだろうな……。
「そうだ。とにかく、まずは『呪法大虎』の依頼を果たす。予定の場所に行き、彼と思われる人物と接触して、ジャンで確かめる」
「……りょ、了解!」
「……その者が本当にジグムント・ラーズウェルだったら、どうするのだ?」
「基本的には確保しておきたい。つまり、オレたちと行動を共にしてもらう。嫌がるかもしれないが……彼は名のある男だ。帝国軍も、彼の反乱を警戒して、拘束するかもしれない」
「そうですね。我々と一緒に動き回るのが、安全です……彼に、『ベイゼンハウド』の現実を変える力は、それほどないでしょうから……」
「イエス。現状は、良好とはとても言えないであります」
「……ああ。この土地の状況は、オレたちにも彼にも不利だろう」
「……じゃあ、手詰まりなの、お兄ちゃん?」
不安そうな顔をミアが浮かべる。お兄ちゃんは首を横に振る。ありがとう、シャーロン。この首を横に振るための理由を与えてくれて。
「懐かしくて、頼りになる連中がいる」
「えー、誰?」
「アイリス・パナージュお姉さんと、彼女のパートナーである『ピアノの旦那』だよ」
「わー!アイリス、久しぶり!」
「……誰?猟兵団の仲間?」
「ううん。ルードのスパイ!」
「げ!?」
カーリーは、ルードのスパイにいいイメージが無いらしい。ハイランド王国では、彼女たちは暗躍しまくっていたからな。
「……『呪法大虎』から、悪い噂でも聞いているのか、ルードのスパイの?」
「……外国のスパイなんて、ハイランドにとっては、危険なヤツら……でしょう?」
「ククク。そうだな、その認識は間違いじゃない。でも、今は『自由同盟』の仲間だ」
「……仲間。うん、そうね……わらわたちは、色々な国で手を組んでいる。ひとつの国じゃ、帝国と戦えないから」
「そうだ。帝国はデカい。須弥山から見渡す限りの広い景色。その何百倍も広い土地を支配している」
「……っ!!」
「だが、恐れるな」
「こ、怖がってなんてないし!!」
「……ああ。そうだな。お前は強い子だ、カーリー。オレよりもずっと賢いしな」
「……赤毛?」
「オレは、色々な国が手を組むなんて発想、祖国が滅ぼされて、9年の間もすることが出来なかった」
『ファリス王国』との同盟を裏切られて、セシルとお袋、そして里の連中を虐殺されたからかもしれない。彼女たちだけは、逃す手はずだったのにな……。
……同盟という概念に、強い疑いを持っていたのは事実だ。
「……皆で、手を組む。そうすれば、どんな大きな敵だとしても、必ずや勝利することが出来るんだ」
「……うん!分かってる!皆で、帝国と戦えばいいのよね!」
「そうだ。そうやって勝てばいい。帝国との戦に勝ち、皇帝ユアンダートを焼き殺す。そうして、この大陸に、人間族と亜人種族の共存する『未来』を打ち立てる。力尽くでもな!!」
そいつが、ガルーナの魔王を継ぐ男の使命だよな、我が最初の翼、アーレスよ!!
「……っ!!……赤毛のくせに、なんか、ちょっとカッコいいこと言った」
「ククク!惚れんなよ、12才児?」
「惚れないわ。タイプじゃないの!」
「よく言われるよ。さて……とにかく、オレたちの仲間である、ルード・スパイが二人、十都市連合の一つ、『アルニム』という街にいるんだ。この街の港にある酒場、『スタンチク』。ジグムント・ラーズウェルとの接触後、そこに向かうことになる」
「……その方たちから、情報を得るのですね?」
「そうだ。彼らは凄腕のスパイ。おおよそ一週間前からの潜入らしいが、その150時間以上の時間を、彼女たちならばムダには使うまい」
一週間もあれば、彼らならどんな秘密だって暴いてしまいそうだな。
まあ、それに、シャーロンだってルード王国の安全保障上、真実を全て話すとは限らない。シャーロンは猟兵でもあるし、『ルードの狐』、パナージュ家の一員だからな。
……つまり、彼女たち二人にも『前任者』がいた可能性もある。全てをホイホイと話していい立場ではないからな。まあ、『前任者』がいなかったとしても、あの二人の情報収集能力を信じているよ。
「状況は悪いが、キーマンと情報を確保すれば、何かが見えるかもしれない。この土地の状況はホント、クソ悪い!……オレたちだけでも、ジグムント・ラーズウェルたちだけでも、ルード・スパイだけでも、ハイランド王国軍だけでも、変えることは難しい」
「それなら、することは、ひとーつッ!!」
ミアは空に向かって人差し指を伸ばすのさ。そうだ、することはただ一つ。
「ああ、皆の力を集めてみよう。そうすれば、それぞれだけでは変えられないほどに悪い状況だって、変えられちまうかもしれないからな!!」
「うん!!ちょっとずつでも、力を集める!!そうすることで、私たちも強くなって来たんだもん!!ガルフおじいちゃんも言ってた!!一人の最強だけじゃ、何も出来なくても、皆で集まれば、何だって出来るんだって!!」
愛しい『孫娘』に授けるには、とてもいい言葉だ。
『白獅子ガルフ・コルテス』よ、アンタの見たかった力は、ついに現実となろうとしている。世界をも変えちまう、最強の猟兵たち。それが、アンタとオレたちの『パンジャール猟兵団』だからな―――。
『―――じゃあ、『どーじぇ』!!みんな!!』
「ああ。『ガロアス』に向かうぞ!ジグムント・ラーズウェルに会いに行く!!」
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