第六話 『ヴァルガロフの魔窟と裏切りの猟兵』 その79
ゼファーで四列目の騎兵たちを妨害しに行く。技巧の見せ場だな。より低く飛び、弓兵たちの射撃を躊躇わせるのさ。自軍の騎兵を弓で射殺したくはないだろう。
「ぬう!?」
「う、撃つな!!味方に当たるぞお!!」
「お、おのれえええ!!魔物に乗る、邪悪な蛮族めえええええッッ!!」
並行するように走る敵の騎兵に、『邪悪な蛮族』と呼ばれてしまったよ。そうだな、まあ真実じゃある!!君の頭を射殺す蛮族サンだからな!!
矢を放ち、その騎兵の頭を射抜いてやったよ。
そのまま飛び抜けて、再び矢を放つ。今度は兵士ではなく、馬の首を射抜いていた。そのまま、馬が倒れて、後続の騎兵たちの邪魔をする。
「くそ!!」
「邪魔だ!!」
「大きく、横に広がれ!!外に広がるんだ!!」
愚か者め。ロザングリードがここにいたら、その騎兵たちを罵ったかもしれない。ゼファーに急上昇をさせる。熟練の弓兵たちが、暗がりが薄まった空に浮上したゼファーに対して、いい反応をしていた。
だが、竜騎士の『風』は、こんなとき、竜を守るためにあるのだ。
「―――『大地を掃く秋の終わりの風神よ、落葉を踊らせる風を今ここに』……『ガル・スイープ』ッッ!!」
下級魔術だよ。上空から叩きつけるような『風』を地上に当てて、敵を吹き飛ばすための術。あるいは、呪文の通り、掃除に使うこともよくあるな。落ち葉を掃き捨てるのさ。
……もしくは、竜を目掛けて放たれた矢を、上空からの『風』で、軌道を下向きに変えるということも出来る。威力は無いが、広範囲に効くのが売りではある。
ゼファーは羽ばたき、ゼファーを目掛けて放たれた矢の雨は、下方に軌道を修正されていく。そこには、四列目の兵士たちがいたよ。弓兵たちの矢は、悪くはなかった。良い反応で、悪くない角度。
正直、ゼファーの鎧にも数本当たり、オレの右手も一本の矢を掴まえている。まぐれ当たりじゃない。相当な強者たちが混じっていることの証だ。オレはにやけながら、蛮族の指を使ってオレの頬骨を射抜いていたかもしれない矢を二つにへし折っていた。
「ぎゃあああああああああっっ!?」
「ぬうう!?う、撃つなあッッ!!」
「味方に、味方に当たるうッッ!!」
騎兵たちに降り注いだ矢の方が、深刻だったな。射殺されるほどの威力ではないが、重傷を負わされていく者も出ていた。戦闘継続はムリだし、何より、目の前に降った矢の雨が、四列目の騎兵たちの追撃を緩めてくれる。
混乱を起こした甲斐はあった。ゼファーの尻尾に何本か矢が刺さってしまったが、それ以上に多くの敵を混乱に陥れ、仲間を救うことが出来た。
「よく、がんばったぜ」
『うん。しっぽ、ちょっといたい……っ』
「あとで、リエルの薬を塗ってやる」
だから。今は、もうちょっとがんばれ。
援護を続行する。敵の弓兵どもは、仲間の悲鳴のおかげで、こちらを狙うリスクに気がついたらしい。しかし、今では、全体的に東に向かって走り始めている……ユニコーンが強かろうが、これだけの敵に囲まれては、移動速度も遅くなる。
何人ものユニコーン騎兵が、敵に呑まれ始めていた。ただでは死なないと槍を振り回しているが、後続の部隊は、必死の敵に呑まれ始めているな……辺境伯軍め、やはり、かなりやるじゃねえか。
「おい!!もういいぞ!!全力で、東に退け!!これ以上は、戦わんでもいい!!」
「了解です、社長ううううううううううううううううッ!!」
「引くぞ、コイツら、意外とやりやがるぜえええええッ!!」
ユニコーン騎兵が囲まれていくな。第一列の騎兵たちも、東に向かってくる。乱戦になるから、矢の心配はなくなっているが……弓兵も弓を捨てて、剣を抜いて走り始めている。
乱戦だからな、剣でも騎兵を殺す手段はある。馬を斬り殺すもいいし、騎兵の腹を剣で刺し殺すのもありだよ。柔軟さを持っている。精強な、辺境伯軍ゆえの強さだ。
良くない光景が目立つな。だが、今すべきことは?……そいつだけを考えるべきだ。
「ゼファー!!一列目に、火球を撃ち込めッ!!」
『GAAHHOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHッッッ!!!』
竜の魔力に灼熱する、黄金の爆炎をゼファーは吐き出していたッ!!ユニコーン騎兵に襲いかかろうとしてた敵兵どもが、十人ほどまとめて吹き飛ばされる。
「た、助かりましたあああああッ!!」
「いいから、さっさと、後ろに退けッ!!」
そう叫びながら、オレはゼファーの背から跳ぶ。弓を捨てて、竜太刀を引き抜いていた。二列目の敵兵だ。コイツらも後退するのに邪魔してやがるからな!!そいつを、オレが引き受けるんだよッ!!
「な、なんだああ!?」
「誰か、竜から飛び降りて――――――」
ザギュシャアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!
敵兵を竜太刀で、斬り裂いた。そのまま、暴れて暴れて、暴れまくる!!体力任せに竜太刀を振り回し、敵兵を次から次に斬り殺していく。
『『どーじぇ』ッッ!!えんご、するねッッ!!がおーッ!!』
ゼファーが再び火球を吐いた。三列目を爆撃して、オレの側面を守ってくれる。ありがたい。おかげで、前だけに集中していいわけだな!!
竜太刀を大上段に掲げる!!黄金色に煌めく竜の劫火が竜太刀に走る!!アーレスの劫火は螺旋をまとい、竜太刀に絡みつきながら炎の威を強めていく!!
罪深き、ヒトの業火も混ぜるのだ。紅蓮に輝く、血のように深いオレの背負った業火も乗せる!!竜の劫火と、ヒトの業火が、螺旋となって絡んで混じる!!
両者は黄金と紅が融けた爆炎となり、竜太刀を握るオレさえ焼き殺そうな勢いで暴れていくのさ!!……敵が、恐怖に戦慄するのが分かる。そりゃそうさ、これからお前たちをぶっ殺してやるんだからな!!
殺意を解放した竜太刀の火焔が、熱風となり戦場の土と空気を焦がしていく。オレは牙を剥き、魔剣を放つのだッ!!
「―――魔剣ッ!!『バースト・ザッパー』ああああああああああああああああああああああああああああッッッッ!!!!」
竜太刀を振り下ろし、火焔の一刀を大地に叩き込む!!大地ごと敵の群れを爆破する!!灼熱の暴風が戦場を走り抜け、敵を焼き殺しながら、爆裂の力で引き裂いていく!!
断末魔をも黒く焦がす、煉獄の火焔が、ゼロニアの大地を敵ごと破壊していた!!
……爆ぜた敵兵の血肉が、燃えながらそこらに転がる。焦げた血のにおいが戦場の風に乗り、そこら一帯に広がっていく。
今ので、何人殺したのかは分からない。だが、ユニコーン騎兵たちの背後を襲おうとしていた一団は、焼き潰せている。今、敵は制止している。オレに恐怖を抱き、焦げた空気に静寂が生まれていた。
……役目は果たしているぜ。仲間たちの背後を守り、オレは『盾』になっている。恐怖に呑まれた敵の、震える体を見ていると……何とも、楽しくなってしまうぜ。
とはいえ、ここに留まるのはムチャなことだってのは、オレでもよく分かる。1万の敵を相手に出来るほど、オレだって元気じゃないさ。黄金の炎に焼かれる敵兵の死体を見つめ、左を向いた。ユニコーン騎兵たちは、東への退路に乗った。
そして、気の利くユニコーン騎兵の一人が、オレの視線の意図に気がつき、素早くこっちに走ってくれる。
「社長、乗って下さい!!」
「おう!!」
目の前にやって来てくれたユニコーンの背に乗る。そのまま、ユニコーンは全速力で東に向かって走り始めた。オレに恐怖を感じていた敵が、正気に戻っていた。
「に、逃がすなあああッ!!」
「お、追ええええええッ!!」
「弓だ!!弓で、射殺しちまえッ!!」
まだ生きている仲間に当たるのも、お構いなしか?……ちょっとビビらせ過ぎちまったかもしれんな。オレは苦笑しながら、『こけおどし爆弾』を一つ、振り返ることもなく後方に放り投げていた。
シュバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンンンッッッ!!!
光と爆音が敵に、強烈な恐怖を再現したのだろう。非殺傷の爆薬なのだが、まるで竜の魔力による攻撃魔術だと感じたのかもしれない。絶叫が上がる。恐怖に呑まれなかった者たちも、暗がりにいきなり現れた光りに視界を焼かれて、矢の照準を外していた。
「ぐぎゃあ!?」
自軍の兵士が多い場所で、弓など扱うものじゃない。オレの乗るユニコーンは、閃光を感じた瞬間に素早くステップを踏んで、4メートルほど左手にスライドしていた。
網膜に焼け付いた残像を頼りに射撃をしても、絶対にオレたちには当たらない。
「……君らは、この『爆弾』のことを、知っていたのか?」
「いいえ?……でも、ボクのユニコーンは、賢いですからね!」
「くくく!なるほどな。いい目くらましにはなったはずだ。とにかく、東に向かおう」
「はい。ボクたちが、最後尾みたいですね……想像以上に、コイツらは強かったです。こちらは奇襲だったのに、統制が取れていた」
「ああ。強いだけじゃない。指揮が早いし、指揮に対しても、かなり忠実なんだよ―――」
「―――の、逃すなあああああああああッッ!!」
左手にも敵がいた。弓兵が一人。オレはナイフを投げて、そいつの首に突き立ててやる。それでも、ヤツは意地を見せる。矢を放ち、オレの目の前にいるディアロスを狙った。死にかけの自分では、鎧を着たオレを射抜く威力は出せんと考えたか。
「いい兵士どもだぜ」
左の指で、射られた矢を掴み取りながら、敵の強さを褒めてやる。ユニコーンの速さがあったからこそ、これだけ容易く矢を掴めもする。
「……い、今、ボク、弓で射られませんでしたか?」
「『水晶の角』で聞こえたか?……もう少し、鍛錬がいるようだぞ」
指で矢をへし折りながら、オレは自分の未熟を隠しもする。目玉に投げつけた方が、良かったかもしれん。反省点だ、殺すつもりのヤツに、攻撃を実行させるとはな。
……いや。ノドにナイフを突き立てられていても、反撃した敵を賞賛すべきかもしれん。辺境伯軍の兵士は、かなりの強敵だってことだよ。
侵略師団のヤツらより、強いというよりは、確実にしぶとさがある。エリートではなく、雑草魂か。全滅させるには、もうちょっと痛めつけてやる必要があるかもな……。
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