第六話 『アリューバ半島の海賊騎士団』 その45
戦士たちが、オレの左右を駆け抜けていく。
クソ。怨霊たちに魔力を喰われすぎたのかね、体が、まだ動きにくいぞ……だが、まだ、寝てられんぞ。
フレイヤの機転で、敵を左右に分けられそうだ。分断し、囲めば、数の多さが活きる。このままの勢いを維持すれば、撃破は難しくないが―――。
……しかし。
理想的なタイミングからは、ちょっとだけ遅れた。連中、穴を埋めようとして、走っていた。強兵が敵陣を修復しようと集まっていた。貫くために、もう一押しがいる!!
「ソルジェ団長ッ!!大丈夫ですかッ!!」
カミラが魔力切れを起こしたオレを心配し、守るように近づいてくる。
「……ああッ!!そろそろ、体が動くぜ。だから、もう一発だ。もう一発、大穴を作ってやるぜッ!!来い、カミラッッ!!!」
オレは左眼を見開き、敵の群れを睨みつける。
そして、左腕をカミラの体に回して抱きしめた。
「……敵陣を、さらに崩す!!オレたち夫婦の合体技、見せてやるぞッッ!!!」
「はい、行きましょう、ソルジェさま!!―――『闇の翼よ』ッッ!!!」
カミラがそう叫び、オレたち夫婦は『闇』へと化ける。無数の『コウモリ』に化けて、敵陣を飛び抜けていくんだよ。
「ひいい!?」
「『魔王』が、『コウモリ』に化けたああ!?」
「来るな、来るな、来るなああ!?」
敵は混乱し、オレたちを切り裂こうと鋼を振るが、『闇』の『コウモリ』の前では、あらゆる攻撃はすり抜けていくだけだ。あいかわらず、反則的な力だな……。
無数の『コウモリ』になりながら、無数の魔眼で『ターゲッティング』を使うのさ。敵の首筋と右手首に、呪術を刻みつけて行く。
『……呪いはつけたぜ、誘導可能だ』
『はい!!このまま、敵の影に飛び込むっす!!』
『影!?』
『新パターンっす!!』
そう言いながら『コウモリ』たちが、敵兵の影へと『飛び込んでいく』。そうだ、地面に浮かぶ影のなかに、『コウモリ』は飛び込む。
ふむ。不思議な感覚だ。
たくさんの視線で、空と敵兵の顔を見つめている。敵の影のなかで、カミラの『闇』の魔力が高まっていく。
『行きますッ!!必殺、『カウントレス・バイト』おおおおおおおおおおおッッ!!!』
『闇』の弾丸が、影から飛び出していく!!
無数の『コウモリ』が、これまでにない超高速で飛翔する!!
敵に刻まれた『ターゲッティング』に向かい、オレとカミラが融け合った『コウモリ』が凶悪さを秘めた口を開く。『闇』の魔力が結集したこの『牙』ならば、獲物の肉を噛み千切るだろう。
『吸血鬼』の感覚と一つになりながら、オレも衝動する殺意のままに牙を剥く!!
獲物に向かって、オレとカミラがヤツらの動脈を目掛けて噛みついたッ!!
口のなかに肉を噛む感触が生まれる。
命が流れるその脈管に、オレたちは牙を絡めて、そのまま空へと向かい飛び抜ける。命が爆ぜたよ、オレたちの口のなかでな。
13人の生け贄どもが、その首と手首から、血潮を吹かせていた。
「ぎゃああああああああああああああああああああああッッ!!」
「腕がああああああああああああああああああああああッッ!?」
「ひえええええええええええええええええええええええッッ!?」
「た、助けて、イースさまあああああああああああああッッ!!」
命が噴き出す動脈を手で押さえながら、死に行く者たちは必死に叫ぶ。言葉には魔力が宿るとでも信じているのか?
そのような祈りの声を無視しながら、侵略した土地の人々を殺して来た連中が、何を今さら祈るのだ?
他者の祈りを踏みにじってきた者に……女神イースは応えることなどないだろう。血に穢れた侵略者などに、祈りを捧げる権利などない。
『―――神さまなんて、『私』とソルジェさまがいる戦場にはいない。神さまだって、私たちからは怯えて逃げるから。祈ってもムダだ。救いは来ない。あきらめて、死ね』
『吸血鬼』の言葉が戦場に響き、カミラの魔力が敵の血さえも操った。傷口から飛び出せと命じたんだよ。『吸血鬼』は血を操れる。仲間の深い傷から血の流出を止めることもある力だが。
それを無慈悲に使えば、敵の傷口からの出血を爆発的に加速させることも可能さ。
侵略者どもが、命の赤を撒き散らし……世界を赤く染色しながら死を迎える。
『アリューバ海賊騎士団』の突撃を止めようとしていた、敵の強兵どもの一団を排除したぞ。
『コウモリ』たちは凱旋するように血霧が舞う空を飛び抜けて、敵兵の死体だらけになったその場所に集結していく。『コウモリ』たちが重なり融けて、オレたちはヒトへと戻る。いや、『魔王』と『吸血鬼』にな。
『よくやった、さすがはオレのカミラだ」
『……はい!自分、がんばったっす!」
カミラと一体化していた時間のおかげで、オレの体は魔力を取り戻す。肉体に、力がみなぎっている。
ふむ。カミラが……オレに魔力を分けてくれたようだな。カミラはそれで失った魔力を、敵から奪い返すことで回復させたようだ。なかなかのコンビネーションと自慢できるよ。
集中力を消費するから、連続では出来ない。大技なんて戦場向きではないのだが……敵を一瞬だけ制圧することは可能だ。
戦士たちは学びつつある。
フレイヤの言葉が哲学として刻まれたのだからな。オレたちがあけた穴に飛び込めば、敵は崩れていくのだと。
「サー・ストラウスが、またやったぞ!!」
「あそこに、進むんだ!!」
「帝国人どもを、囲んでしまうぞッッ!!!」
くくく、そうだ。
いい子ちゃんどもだぜ。
オレは戦場の鉄臭い空気を大きく吸う。肺の中にそれを目一杯に取り込んで、戦士たちのサポートをするために突撃していくよ。魔力はある程度戻った、体力も少しだけ回復している。
大暴れするほどの威力は出せないが、それでもオレは熟練の戦士。幼い頃から鍛え続けた技巧がある。生まれもっての戦士であるストラウスの剣鬼が、戦場で突撃しないわけがない!!
竜太刀を振り下ろし、帝国海軍制式装備である薄い鋼のサーベルを圧し斬りながら敵の肉をも裂いた。
そのまま、手首を返して、竜太刀を踊らせる。横に倒した刃と共に、オレは踏み込みながら前へと飛び、新たな敵兵の胴を斬る。
「ぎゃふうッ!?」
腹を裂かれた男は、それでも動き、さらに前の敵へと斬りかかって行くオレの背中を狙おうとする。気づいているが、無視していい。なにせ、カミラ・ブリーズがオレの背中を守っているからな。
「させないっすよッ!!」
カミラの左の拳だろうな。それが敵兵のアゴの骨を砕く音が響き、殴り飛ばされたその肉体が、オレを飛び越えるようにして敵の群れに落ちていく。カミラには、その全身に常に『闇』の魔力を走らせている。
常人では出せぬ力を、いつでも発揮するということさ。技巧が足りないが、その反射速度と無尽蔵の体力、そして、強い力がある。突撃する者の背後を守らせたら、超一流ってことさ。
だから、疲れているオレでも、ただひたすらに前へと進むことに集中出来るんだよ。
敵を、崩している。
雪崩込むオレたちに、敵の陣形が崩され、敵を数の多さで飲み込めているぞ。後ろから走ってきていた男たちは素手の者もいたが、殺した敵兵から拾い上げた武器があるし、倒れた仲間から託された『炎の槍』もある。
オレたちは、ほぼ最大の効率で3000の敵を、5000の兵力で包み込んでいた。分断し、取り囲み、守るために引く敵を攻め、ジリジリと追い詰めているぞ。
『弱兵』で、物量任せに敵を呑み込む。帝国のお得意の戦術だが、今日のオレたちは、それを使えているぜ。
「密集していては、兵力を展開出来ない!!は、早く、門を開けるんだ!!広い戦場ならば、オレたちの方が、素人どもよりはるかに強いんだッッ!!」
「門を、おせえええええええええええええええええええッ!!」
「ひらくッ!!あ、あと、もう少しで……ッ。開くぞおおおおおおおおおおッッ!!!」
敵が閉じられていた門を力ずくでこじ開けようとしていた。ハルバートや手斧を叩きつけて、門をガンガン破壊していたらしいな。
たしかに、今にも開きそうだが……その先にあるのは、君らの楽しめる光景ではないぞ。
「よ、よし、ひ、ひらい―――――――」
『GAAHHOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHッッッ!!!』
竜の歌が、灼熱となって、ようやく開かれようとしていた門の向こう側から、吹き込まれていた。炎の津波が、帝国人どもを焼き払っていく。密集していたからな、足下を走りながら、広がっていくその竜の炎に数十人が一気に焼き払われていく。
「りゅ、竜だあああああああっ!!」
「そ、そんな……ッ」
怯える帝国兵を見ながら、ゼファーは跳躍し、城塞の上へと跳び乗った。敵はその雄大な獣に、どうしたって視線を誘導させられる。だが……それは甘い。ゼファーは連携しているのだ。
「撃てえええええええええええええええええええええええええええッッ!!!」
ロロカ・シャーネルの凜とした号令が戦場を走り、ゼファーに吹き飛ばされた門の向こう側から、エルフの弓が放たれる。ピエトロたちだよ。射抜かれた敵どもが、バタバタと倒れていった。
外の戦場は、すでに『アリューバ海賊騎士団』の勝利に終わっていた。
南北から挟まれてのことだ、2000の軽装歩兵だけでは、竜の援護を受ける5000の戦士の猛攻を、そう長いこと受け止められるハズがなかった。
「て、敵が……な、仲間は、どうなったんだあ!?」
「こんなはずがない……敵の数が、多すぎるだろおおッ!?」
それが『策』ってものさ。
相手の裏をかいて、想定以上の威力を発揮するんだよ。
さて。弓兵たちに撃たれまくり、主力の重装歩兵も大半が死んじまったぞ。
頃合いだ。
「突撃します!!私に、続いてくださいッ!!!」
『ヒヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイインンンンンンッッッ!!!』
『白夜』がいななき、その背に乗るロロカ・シャーネルの突撃が始まる。この戦場で最強の突破力を持つ戦士が、神速を帯びて『オー・キャビタル』に乗り込んでくる!!
槍とユニコーンの脚が敵を蹴散らす……そして、その影から、オットー・ノーランとミア・マルー・ストラウスが突撃してくる。さらに……ジーロウ・カーンと、城壁から飛び降り外へと退避していたはずの『虎』が続く!!援軍オールスターだな。
『質』で上回る戦士たちが、敵兵を血祭りにしていく。
「ワシらもつづくぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!」
戦斧を持った片腕ドワーフの老騎士も、敵に目掛けて突撃を仕掛けるよ。『ナパジーニア』に負わされた傷も癒えてはいないだろうに。さすがは、ドワーフ。
「レパントの一族よ、ワシは、復讐を果たすぞおおおおおおおおおおおおッッ!!」
かつて一族の首が並べられた『オー・キャビタル』に、レパントの血は帰ってきた。一族の魂は、老いた彼を鬼神にさせる。豪腕が暴れ、戦斧が敵を蹴散らしていく。
『アリューバ海賊騎士団』は、セルバー・レパントの突撃につづく。敵を完全に取り囲み、追い込む。
『ぼくも!!いくぞおおおおおおおっ!!』
ゼファーが敵の中央に向かって、飛び込んでいく。その巨体で大勢が潰され、巨大な牙と尻尾、そして蹴爪が暴れ、密集しすぎて動きの取れない敵兵どもを次から次に打ち砕き、殺戮していった。
「今なら、城塞に上がれる!!狩人隊、オレに続いて下さいッ!!」
ピエトロたちが城塞に上がり、そこからエルフの弓兵による射撃の雨が降り注いだ。帝国兵は頭上から射られ、ヤツらはまたたく間に殲滅されていったよ。
あらゆる方向から殺され、竜とエルフの弓兵の矢が、中からも仕留めていくのだ。殲滅の速度は上がる。怯えて慌てる帝国兵どもは、もう戦闘能力を発揮出来ない。
……こうなってしまえば、フレイヤの声に帝国兵も耳を貸すだろうな。
「降伏しなさい!!全員が武器を置くのです!!武器を置かねば、全滅させます!!選びなさい、死か、降伏か!!すでに、勝敗は決している!!」
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