第二話 『魔王は、命の値段を訊ねられ……』 その15

 闇の中でも、あれだけ殺気を放ってくるのなら、オレとシアンには分かる。シアンもきっとしたことあるんだろうね。目隠しされて、刃物をもったならず者たちとケンカさせられるという、よくあるムチャな修行?


 オレは15のとき、性格の悪い竜にやらされたんだけど。君はいくつの時だったのかな?『須弥山』の『螺旋寺』でやったのか、それとも原初の森林の闇で、暗黒での戦闘技法を悟ったのか……。


 今度、一緒に酒を呑むときは、聞き出せそうな気がするのはさ、偶然じゃないだろうさ。


「来るぞ、意識を集中させろ!!」


「おうよ!!」


 闇のなかでモンスターに向かって一緒に走るってのは、楽しいねえ。とくに、世界でも有数の剣士サマと並んで走るのなら、なおさらさ!!


『ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』


 白い悪意が飛んで来る。


 オレとシアンを目掛けて、その巨大なバケモノは跳ぶのさ。星明かりと、音と、魔力と殺気のおかげで、その動作は克明に理解できているよ。避けるのは容易いが―――分かっているな、シアン?


 後ろに行かせるわけにはいかないぞ?


 白くて長い腕が闇の奥から迫る。宙にいながら、その細くて長い腕で、オレたち二人を包み込むように振ってきたのさ。さあて、ゲストを守るためにも、猟兵剣士二人そろって壁になるかね?


 竜太刀と交差された双刀の刃が、『呪い尾』の巨大で白くて長い腕の先端にある、するどく尖った爪を受け止めていた。鋼が鳴るね?この爪は、鉄と同じほどには固いのか?あるいは、それを上回るのかもしれんな……。


 コイツは、この長くて毒々しい残虐な爪で、砦の外壁に容易くしがみついて来やがったのだから。


 うむ……なるほどね。片腕で、このパワーか。オレと真の『虎』―――『虎姫』であるシアンの二人がかりでも、御しきれないほどの筋力がある!!


 これだけ力が強く、それだけの硬い爪を有しているのなら、巨体を支えながら、まるで蜘蛛のように砦の外壁さえも当然の如く走れるのだな……。


「……くくく、強い……なッ!!」


 笑いながら、シアン・ヴァティ姐さんは感想を述べる。うん、オレと同じような習性の持ち主だ。オレだって、この暴れ馬さんみたいな力に圧されながらも……どこか楽しんでいるもんね。


 剣士ってのは、そうでなくちゃな?


「……おうよ。さすがは、『呪い』の産物といったところかね……ッ!!」


『ぎゃがしゃあああああああああああああああああああああああああああッッ!!」


 呪詛を浴びせてくるのさ、『呪い尾』ちゃんはな。


 オレたち二人に、完全に止められて、『彼女』は不機嫌だ。そうさ。うん、コレは……この琥珀色の目をした、巨大で細長い白い猿みたいな醜いモンスターは、元々はフーレンの女性のようだよ。


 『声』で、分かるもん。女の声だね。


 だから、ムダと承知で話しかけるのさ。


「おい、『女』!」


『ぎゃるううううううううッ!?』


「竜の魔力をもつオレの言葉なら、通じるか?……何がどうして、そこまで命をムダにしたのか分からないが……オレとシアンに勝てるわけがないことぐらい、分かるだろ?」


「……おい。コレは、女か?」


「ああ。そうさ。残念ながらな……アンタ、もう止めないか?そんな無様な姿になってまで?……ヴァンなんとかのために、尽くす義理などないだろう?」


『ぎゃるるるるるるうッ!!』


 『女』は止めてくれない。爪の間から血を漏らしながらでも、さらに力を入れて、オレとシアンを押し込んでくる。


「……聞く耳を、持たないようだ」


「……まったく。バカな『女』だよ!……もしも、アンタが、そのナントカくんとやらに、命がけで尽くさなくちゃならない義理とやらを感じているとすれば?……アンタ、そいつに騙されて利用されているだけだぞ!!」


 真実を告げるのさ。オレには分かる。大事な『女』を、こんな醜い姿のゲテモノにして、道具にするなんてことは、男には絶対に出来ないことだ。


「―――使い捨てにしていい程度の存在にしか、君は、どこぞの愚物に想われてはいないんだ……愛されているワケじゃない。もしも、ヤツがそう口にしていたら、ヤツは本当にド酷い嘘つきクソ野郎だぞ」


 モンスターの琥珀色の瞳が、縮瞳する。瞳孔が、困惑の様子を示していた。ああ、きっとオレの言葉は通じている。こんな醜いモンスターになっても、君は……ヒトの心を持っているのだな?


 いいや、わずかに残った、女性としの愛情と理性の混じったものに過ぎないのか……?


 希薄なヒトの心の残滓が、ヴァンなんとかに、愛情を抱いていて、この『呪い』を支える執念になっているのかい?


 オレは、嘘で踊らされる者を見るのに、耐えられない。


 あるいは、嘘でしか君は救えないのかな。偽りの愛に騙されて、道具にされていることを、知らせない方が君の死は安らかだったのか?


 ―――それでもね、オレは、そんな惨め過ぎる君を、切り裂きたくはないぞ。君は、邪悪で性格の悪い男に踊らされているだけなんだからな。


 ……そして。その事実を最初から知っていたんだろ?


 だから、動揺している。愛を疑うのは、元からその愛に疑念を抱いている時だけだ。だからこそ君は……『都合の悪い真実』を吐いてくるオレのコトを、憎しみの瞳でにらむんだ。


『言うなあああああああああああああああああああああああああああッッ!!ヴァンさまは、『私たち』を愛していると、言ってくれたッッ!!価値をくれるって、言ってくれたんだあああああッッ!!』


「……ふん。いくらでも言うさ。その男は、君を利用しているだけだ。そんなクズのために、偽りの感情などのために、命を捧げるな!!」


「……会話、しているのか?」


 シアンが驚いている。そうか、きっと、シアンには『呪い尾』の『言葉』は、ぎしゃあああああ!という風にしか聞こえてないのだろう。


 ザクロアで、ジャン・レッドウッドにドン引きされたのを思い出す。あのオレの忠実な子分、ジャンでさえもだ?死霊と化したヴァシリのじいさまと会話するオレを、変な目で見やがったのを忘れちゃいない。


 だが。シアン姐さんは、オレより年上だから心が広いのか、それとも『呪い尾』についてオレよりずっと詳しいからなのか……オレと『彼女』の会話を否定しなかった。


「……ヴァン・カーリーとやらは、色男のようだな。それに、そそのかされたか」


「らしいね?……なあ、お嬢ちゃん。社会勉強だ。男はね、本当に大切な女にはね、ヤツが君にしたようなことは、絶対にしないんだよ。だから、君は、ヤツのことを拒絶するべきだぞ?君は、ただの道具として、利用されているだけだ」


『……だ、だ、だまれええええええええええええええええええええええええッッ!!』


 『呪い尾』の腕力が、爆発するように増加していた。オレとシアンは、同時にバックステップを踏んでいた。その力は、さすがに逃すしかなかった。ヒトの身では、あの馬力には太刀打ちが出来ないからな。


『があああああああああああああああああああああああああああああッッ!!』


 オレたちを……とくにオレを逃したことが口惜しいのだろう。『呪い尾』は、叫ぶ。声は聞こえなかった。あるのは、ただオレにある殺意のみだね。


「……説得は、不可能だろう。どうせ理性は、壊されている」


「……そういう製法なのかい?」


「さあな。詳しいことは知らん。秘匿された技法だ。そもそも、私は興味がないからな」


「だろうね。コイツは……酷い『呪い』だ。なんて、醜悪な姿だ……これが、元々、女だというのだから……辛い現実だよ」


「だが。見れば分かる。あれだけ肉体が変われば、元には戻らないだろう。それに、変異したのは『脳』もだろう?」


 シアンの琥珀色の目が、『呪い尾』の長く伸びた後頭部を見ていた。おそらくは、あそこに大脳があるんだろうが……どうにも原形を留めていない。縦には長いが、やけに薄く平たくなっている……。


「……多分ね。あの歪んだ肉体を、確実に制御するために、脳の構造も変えたんじゃないかと思うよ。残っている理性も……どこか、不安定だし、そうだな……こんな会話では、やはり救ってやれないか」


「……すみやかに殺してやるのが、救いだ」


「……ああ。同感だよ。それに……今の『彼女』の方が、ヴァン・カーリーとやらの道具でしかない時より……マシかもな」


 『偽り』の愛情に踊らされるより、オレに対する『本物』の怒りと憎悪。


 それが目的で戦う方が、ずっとマシだ。オレの価値観では、そう判断するよ。今、オレに殺意する君の方が、さっきより―――ずっと自然な気がするのさ。


「難儀な性格だな、我が長よ…………来るぞ」


「ああ。仕留めるぞ!!」


『がああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!』


 もう言葉をも捨てたのかもしれない。ヒトの感情や知性など、あの状態になれば、枷でしかないのかもな。


 ああ……オレは、余計な言葉を吐いていたのかね。偽りの愛に踊らされていた方が、幸せだったか……?


 分からんね。


 分かることは、オレはこんなところで死ぬわけには行かないということと、ヴァン・カーリーとやらを、近いうちに殺すことだけだ。


 オレは、この子を利用したらしいそのクズ野郎を、間違いなく生かしておくことは無いよ。それは、絶対にありえないことだな。


 醜い爪が殺意に走り、闇の奥から降ってくる。速いな。そして、リーチもある。さらに言えば、怒らせてしまったせいか、『呪い尾』はオレだけに集中していた。


 もしかして、シアンの威力を侮ったか?彼女の双刀の威力ならば、即死させられることはないと……?


 いいや。たんにオレに死ぬほど腹を立てているだけだろうな。ああ、いいぜ?怒りとは、自分のためだけの真実の感情さ。君は今、自分のためにオレを殺そうとしている。


 ならば?受けて立ってやろう。


 君の怒りをぶつけてこいよ?


 苦しいときは、歌うのさ!!そしてね、拳に力を込めて、振り落とせ!!……そうすりゃよ、ちょっとは楽になるってもんさッッ!!


『がああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!』


 叫びの歌を放ちながら、琥珀の双眸の怪物は、オレに左の爪を叩き落としてくる!!


 アーレスの竜太刀で、オレはそれを受け止めるのさッ!!


 ……くくく、とんでもねえ、威力だ!!オレの体を伝わって、鉄靴に伝わった衝撃が、床石をバギリと割ってしまうぞ……そうだ、それでいいんだぜ。オレは、なんだか君を傷つけてしまったようだからな。


 これぐらいの痛みなら、付き合ってやるよ―――だが。


 ……だが、これまでだよ。


 反対側の拳が迫る!!右の拳、左に比べてちょっとだけ大きな拳だよ。そいつが唸りながら突き出される。技巧を感じるね?左の腕は、囮にして……大本命は、その右の正拳。


 左で固定したオレを、その右の一撃で壊すつもりだな?いい判断だし、悪くないリズム。だからこそ……残念ながら、読めていたよ。この状況を回避する手段はいくつかある。竜太刀に隠れるようにして踊ればいい。


 竜巻のような力が君の左の指と爪を切り裂き、オレは拘束を外して自由になる。そしたら?……君をいくらでも切り刻めるよ?右の拳なんて、ヒョイと横に躱しながら竜太刀で切り裂ける。


 でも、逃げることは選ばない。君の怒りは、正しいよ。だから、正面から受けて……そのまま壊してやる。オレは、左腕を伸ばすのさ……『ハンズ・オブ・バリアント』。その青い魔力の焔を帯びた、竜の爪をね。


 そうだ。『奇剣打ち』が創った『竜爪の篭手』が起動する。『ハンズ・オブ・バリアント』と、精緻に組まれた鋼の装置が融け合って、青の焔を帯びた竜の爪が出現していた。


 オレの指の動きに合わせて、巨大な竜の爪が開いたよ。


 『呪い尾』の正拳突きを握るようにして、受け止めるためにね。


 ガゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンッッ!!


 『魔装の竜爪/ターロン・オブ・バリアント』が、『呪い尾』の正拳を受け止めていた。さすがだな、カルロ一族よ。やはり、この篭手は、ストラウスの技巧と完全に融合するではないか。


『ぐるるるうううううううううううううッ!?』


「……ほう。新しい武器か」


 シアンの瞳が、オレの新たな力を見つめている。そうだな、君には初披露だったな。


 オレは闘志を放ち、握力を使う。指の動きに連動し、竜爪が閉じられるのさ。巨大な竜の爪が、『呪い尾』の正拳を、鋭さと強靱さを使って、握るように潰していく!!


『があああああああああああああああああッッ!!』


 骨を砕かれ、筋肉を裂かれながら、『呪い尾』はオレから逃げようとした。だが、オレはもう仕留める気でいる。逃げようとした君を、もちろん追いかけるよ。君の巨体は軽やかで、とっても速いが……。


 『雷抜き』なら追いつけるさ。ドワーフ王家から学んだ、脚への『チャージ/筋力強化』だ。シアン並みの『瞬間移動』だよ。彼女のそれより鋭角的だが。


 間合いを詰めて、竜太刀を振り抜く。『呪い尾』の脚を切り裂いていた。


『ぎししいいいいいいいいいいッ!!?』


 『呪い尾』が盛大に転倒する。オレはそこに接近していく、竜太刀を振り上げるのさ。君に終わりを与えるために。


 『呪い尾』は抵抗を示す。その長い尻尾をオレ目掛けて放ってくるが、オレは無視するよ。シアン・ヴァティの『瞬間の赤熱/ピンポイント・シャープネス』を帯びた双刀の斬撃の交差が、そのトゲ付きの尾を切り裂いてくれるのだから。


 本当に瞬間移動さ。筋力と柔軟性を使い、弓と矢のような理屈で、大地を蹴って神速を帯びる。そんな彼女が、オレの前を疾風のように過ぎ去りながら、鋼の牙で、『呪い尾』の残虐なる尾を切り裂いたんだよ。


 闇のなかに琥珀の瞳が輝いた、シアンは敵をにらみながら冷たく語る。


「……させんさ」


『がああああああ……ッ!?』


「うおらあああああああああッ!!」


 ザグシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッ!!


 『呪い尾』の胴体深くまで、竜太刀が入ったよ。


 ああ、罪深さを帯びた返り血を浴びる。


 ……フツーの生き物なら、これで終わりだが……『須弥山』の『呪禁者』とかいう、この王国の秘匿された呪い屋どもの業は、深くて邪悪か。


 白い巨体はそれでも、動く。後ろに跳んだ。心臓も少しばかり斬ったはずだが、それでは死ねんのか?……悲劇だな。オレもシアンも、残酷をもって殺さねばならないと、覚悟したぞ。


 シアンが跳ぶ、双刀が『呪い尾』を刻む。オレも続けて斬りかかる。『呪い尾』が暴れ回るが、オレとシアンのコンビの前に、暴れて振り回す爪は、どんどん切り裂かれていく。


 竜太刀が左腕を豪快に切り落とし、『呪い尾』の背中に飛び乗ったシアンの双刀が、その白い首筋に、獣の牙の如く突き刺さる。突き刺すと、彼女はえぐり傷口を広げにかかるぞ。


 血潮が噴き上がる。『呪い尾』は、どうにかシアンを振り落とそうと暴れるが、シアンは先んじて飛び降りていた。報復の感情があふれて、シアンをにらむ。


『お、おまえを、ころしてやるうううううううううううううううううううッッ!!』


 ―――いいや、それはさせない。


 オレがいるからだよ。


 致死性のダメージを受けて混乱し、集中力に欠けた者は、間合いに入られることを防げなかった。シアンにばかり気を取られたか?まあ、シアンはそうなることを誘って跳んでいたわけだがね。


 オレは、君のすぐ側にいるぞ?『呪い尾』の瞳が動き、オレを見ていた。死を理解したそのとき、君は……暴れなかったな。


 深々と、アーレスの竜太刀が君の腹から刺さり、胸の奥にある心臓をもえぐるのさ。脈打つ命の鼓動を、竜太刀は下から上に切り裂きながら突き上げる。完全な破壊をもたらすために、剣士ってのは、こういうとき指の中で、剣をねじる。


 心臓をさらに砕き、傷口を広げて出血を早めるためだ。血潮は爆発するように噴き出して、オレの体を赤に染めていく。


 だが、赤い流出が勢い保っていたのも、数秒のことだ。首を切られ、心臓を破壊された―――君に、ようやく死は訪れるよ。


 君はゆっくりとうなだれて……オレは、声を聞くのさ―――。





 ……君の命に、値段をあげるよ。


 たったの、200シエルで親に売られた君にね?


 これほどまでに価値の無いはずの命に、価値をあげるんだ……。


 さあ、オレのやさしいメフィー。


 オレのために、命に価値を帯びてくれ。


 この国の『未来』のために!!





『……わたしの、いのちは……いくら、ぐらいになったかな……?』


 ……ああ。


 ちくしょう……。


 ……オレは、何てことをしているのか?『呪い尾』の原材料は、女だった。女だったけど……想像するよりも、ずっと若い、子供みたいな年齢だよ。


 恋愛感情とかではなかったようだ……魔眼が、見せてくたから。


 君は、ヤツを、父親のように思っていたのか?だから、『須弥山』の『螺旋寺』での修行にも耐えた?……あのクソ野郎が、ロリコン野郎専用の売春宿っていう地獄から救ってくれた、『恩人』だと信じて。


 ……おい、アーレスよ。


 こんなものを『見せる』のは、彼女を殺してしまったオレへの怒りか?……それとも、ヴァン・カーリーへの憎悪ゆえか?


 ……どちらにせよ、背負うよ。そして、ヴァン・カーリーは絶対に、オレが殺すんだ。


 だから。今は、ちょっと指を離してもいいよな?アーレス、オレはお前から指を離して、オレが殺す彼女のことを抱きしめるのさ。


「……白い尻尾のメフィー・ファールよ。君の命は、どれだけの黄金よりも、どんな宝石よりも価値がある!かけがえのない価値のあるものだぞ!!」


 伝えなければならない言葉は、命の終わりに間に合っていたのか。


 オレにはよく分からなかった。メフィー・ファールの死体が……ゆっくりと砂に変わっていくのは理解出来た。これが、『呪い尾』の末路かよ……何も残らんのか、全てを呪いなんかに喰わせるのか!!


 かけがえのない価値があるはずのものが、オレの指の間からこぼれていってしまう。何とも無価値なものであるかのように。


 ……オレはね、シンプルだから。悲しいときにも、歌うんだ。


 崩れていく彼女を、抱きしめようとしてるのに、砂が、指の間をこぼれていくんだから。


 悲しいから、歌うんだよ。


 言葉にもならない、音で、ただ、星の浮かぶ空に向けて……叫ぶんだ。


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