第72話 裏口を目指せ!

「くっ……。守りが固すぎる! みんな、一時撤退だ!」


ノエルは撤退の命令を出した。

ノエル傭兵団は、正門から脱出することができなかった。


正門は大きな鉄扉で閉ざされ、警備も厳重だった。

警備兵の多くは「重装歩兵」と呼ばれる、分厚い鎧をまとった兵種であり、

いかにノエルたちが強いと言ってもダメージが通らなかった。


唯一、ノエルの宝刀(なまくら刀)と、リッターの斧だけが

重装歩兵にダメージを与えることができるが、

この二人だけでは敵が多すぎて対応できなかった。


ノエル傭兵団は、物陰に隠れ、機会をうかがった。


暗い物陰の中で、ノエルはリンツやクリムに相談をもちかける。


「正門から出るのは無理だ。敵が多いし、門が閉まっている。

 ……こんな大きな館なのだから、正門以外の出入口はあるはずだ。

 召使いとかが利用している小さな出入口くらいはあるだろう」


「ノエルさん。それならいい話がありますよ」


「クリム。何か策があるのか」


「はい。裏口があります。

 昼間ブラブラ歩いてたら見つけました。

 こんな豪華な館なのに、しょっぼい造りをした裏口がね」


クリムは『しょっぼい』にアクセントを置いた。

だいぶしょぼいようだ。


「そうか……。裏口はどういう様子だった?」


「昼間の様子では、警備兵も2~3人いたかいないかくらいですね。

 相当うすい警備でしたよ。マジです」


「なるほど。さっきしょぼい造りと言ってたけど、壊せそうなのものか?」


「ぱっと見、簡単に作られた感じだったので、

 複数人で力任せに殴れば壊れるはずです」


「それなら、わざわざ鍵を探す必要もなさそうだな。

 鍵を探している間に、敵に追いつかれたらたまらん」


「そうでございますね。

 ただひとつ問題が……」


「問題?」


「ここから裏口までは、だいぶ遠いです。

 その間に警備兵たちに見つからないようにしたいですね」


「そうか……」


ノエルは思案し、ステラに話しかけた。


「ステラ。すまないが……偵察に行ってきてくれないか。

 警備兵の少ないルートを知りたい」


「えー? 報酬は高いよー?」


そんな言葉で返しても、ステラはあまり嫌そうな顔はしていなかった。


「……盗みはいけないことだ。

 だがこの商館にある金品は、強欲に集められたものだろう。

 ちょっとくらい拝借しても構わないぞ」


「オッケーだよ、兄貴! じゃあ行ってくるよ」


ステラは笑顔を浮かべると、さっそく物陰から出ていった。

ステラを行動させることにノエルは不安があったが、今は緊急事態。

信じて任せることにした。


「ノエルさん。それでは、我々はここで待機ですね」


「ああ。下手に動けば見つかるだろう」


「かしこまりました」


ノエルとリンツが会話を交わした直後のことだった。


「お、お前たちは!」


物陰を覗くような目。

その目の主は、あきらかに警備兵のかっこうをしていた。


しまった! 見つかったか!

ノエルは宝刀の柄に指をかけた。

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