第45話 強欲なる商人

ミスティ公女を護送するための旅が始まった。

ノエル傭兵団は、王都へと出発。

オーラン領を出て、隣のベーク領に差し掛かった。

しかしそのとき、ベーク領内で、危険な陰謀が渦巻いていることを、

ノエルたちは、まだ知る由もなかった。


ベーク領内のとある商館で、密談が行われていた。


その商館のとある一室では、豪奢な衣装に身を包んだ中年男が高笑いをあげていた。


彼の名は、パヴェール。

豪商としてベーク領の経済を一手に担う人物だった。


「ミスティ王女がこちらに向かっているというのは、本当だな?

 ……くっくっく。

 すべてはシナリオどおり、ということか」


そして、豪商パヴェールの目の前には、黒い衣装に身を包んだ、怪しげな男女がいた。


「そのとおりだ。パヴェール殿。

 我々、帝国の諜報部隊の情報に、ぬかりはない。

 あとは、邪魔な護衛どもを始末し、ミスティ王女を奪うだけ」


「護衛の始末は任せるぞ、ブラジェ、ディーヌ。

 それと例の約束……忘れるではないぞ。

 お前たちが、王国内で身を隠して活動できるのも、

 私が活動拠点を与えているからだ。わかるな?」


「わかっている。

 パヴェール殿が、われわれ帝国軍に活動拠点を与える見返りとして、

 帝国での商売利権を与える。ほかの商売人よりも優先的に。

 ここに契約書状もある。心配めされるな」


「うむ。その契約書、なくすでないぞ」


「しかし、パヴェール殿。

 どうして、そこまで帝国での商売利権にこだわるのだ?

 あなたは、ベーク領やブラン王国内でも、かなりの利益をあげているはず」


「わからんのか? 諜報ふぜいにはわからんだろうな……。

 私はもっと自由に貿易がしたいのだ。

 もともと、私は、帝国とも貿易していた。

 しかし戦争のせいで、帝国との貿易は規制されてしまった。

 規制なんてクソくらえだ。

 私は、自国の外でも貿易がしたい、商売がしたいのだ。

 もっともっと利益をあげて……世界の富は私がいただく」


「……」


ブラジェは、内心「この強欲野郎」と思ったが、口には出さなかった。


「とにかく、私にとって、王国は、今とても邪魔な存在だ。

 貿易に規制ばかりかけやがるからな。

 帝国のほうが、まだ貿易や商売には寛容だと思っている。

 私は、あえて帝国側につく。

 だから、帝国と手を結び、お前たちに、王国内での活動拠点を提供しているのだ」


「それはわかっている。

 ……そろそろ作戦会議を行いたいので、私たちは失礼する」


「ああ、よろしく頼むぞ」


ブラジェとディーヌは、背を向け、退室した。

退室してしばらく。

パヴェールに声が聞こえないことを確認し、悪口を出し始める。


「あの強欲商人め……。

 われわれの足もとを見て、ズケズケとものを言う。

 ディーヌ。もしこの仕事が終わったら、

 あの商人には、いろいろ冤罪を擦り付けて、始末したいと考えている」


「ふっふっふ。ブラジェも性格が悪いわね。

 ああいう馬鹿は泳ぐだけ泳がせておいて、

 自滅させるのが一番スマートなのよ。

 手を回しすぎると、かえって面倒なことになるわ。ブラジェの悪い癖よ」


「そうか?

 ……あの商人には、いろいろ恨みがある。

 直接、手を下してやりたい」


「ブラジェがそう言うなら、止めはしないけど。

 まあ、せいぜい頑張ることね」


ディーヌは、自分のポニーテールを触りながら、不適な笑みを浮かべた。


「そんなことより……ミスティ王女の護衛を始末する方が先よ。

 情報によれば、騎士らしき者が数名いるらしいわ。

 油断できないわね」


「いくら騎士とて、暗闇や死角から襲いかかれば、敵ではない。

 今まで、われわれが何人の敵を殺めてきたと思っている」


「それはそうだけど、念には念を入れるべきよ。

 ……まずは私が出向くわ。

 ブラジェは、あの強欲商人を陥れる罠でも考えなさいな」


「そうだな……。成果を期待しているぞ、ディーヌ」


ブラジェは、出撃するディーヌの後ろ姿を見送るのだった。

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