第14話 盗賊妹の不満

「なんで俺がこんなところに来なければいけないんだ……」


「文句言わないの。ノエルは、この村の自警団の戦力に数えられてるんだから」


俺の不満を、シャロ(シャルロット)が不満で返す。


自警団の詰め所には、多くの人々が集まっていた。

俺、シャロ、ステラの三兄妹。

ブラウン、フレッド、ハンナ、ジュゼットをはじめとする自警団の面々。

そして軍師見習いのクリム。


きょうは、クリムから話があるらしい。


俺は話を聞くつもりはなかったが、

自警団の一員(いつの間にかそうなってた)として、

不本意にも参加することになった。


「皆さん。山賊たちの根城がわかりました」


クリムがそう告げた。


「村の人たちの情報や、昨日とらえた山賊の話を

 総合的に聞いた結果、根城はこのあたりです」


クリムは、大きな木の板に地図を張り付けると、

地図のとある箇所に「〇」を大きく書いた。

クリムが言うには「〇」の場所が、山賊の根城らしい。


「この村からそう遠くはありません。

 今のうちにつぶしておきましょう。

 また襲ってくるやもしれません」


クリムは、山賊の根城を攻めることを提案した。

どうだろうか。

今すぐ攻めるのは危険かもしれない。

俺は意見を伝えることにした。


「山賊の根城の正確な場所を把握したほうがいいと思う。

 クリムの書いた地図は、まだ情報でしかない。

 あと、敵の戦力も調べたほうがいいかもしれない」


「そうですね。

 まず、斥候(せっこう)を送り込みましょう」


「せっこう? 何それ」


シャロ(シャルロット)は、きょとんとした顔で質問する。


「敵の情報を調べる役割のことです。

 斥候の報告をもとに、作戦を進めていくのです」


「敵の懐に忍び込むってこと?」


「厳密には少し違うのですが、

 敵の懐に忍び込んで、いろいろな情報を調べることもします」


「うわー、危険。誰がやるの? チラチラ」


シャロは、俺のほうをチラチラ見てきた。

やれ。そう言っているように聞こえる。

おい、俺はお前の兄だぞ。


「私、斥候するよ! いいでしょ!」


突然、ステラが自信たっぷりに立候補する。


「お前はだめだ」


「どうしてさ! 兄貴!」


「ステラみたいな子供には、危険だからだ」


「子供じゃないやい!」


ステラは昔に比べて、背も伸びて、脚も長くなったし、身体に丸みが出てきた気がする。

それでも、俺にとってはまだ子供も同然だった。


「とにかく、だめだ」


「兄貴のけち! もういいよ!」


ステラは怒って、椅子をバタンと立ち上がると、その場から走り去った。


「ステラ!」


シャロは、ステラを追おうとするが、俺は止めた。


「やめとけ。ステラがわがままなのはいつものことだ」


不服そうな顔をして、シャロは席に座り直す。

シャロは、何かに気づいた。


「あれ? ノエル。

 服のボタンが1つとれてるわよ」


「なにっ。ステラの奴……!

 勝手にボタンを奪っていったな」


ステラの、いつもの喧嘩の復讐方法だった。

またやられた。本当に気づきにくい。

以前は小銭を奪われた。

ああもう。めんどくさい妹だ。


「あはは……。

 斥候の話に戻りましょうか」


クリムは苦笑を浮かべている。

ほかの自警団員たちもシラケ顔だ。


「ステラさんのあの素早い身のこなしと、

 盗みのテクニックは、まるで怪盗のようですね。

 ……斥候も、似たようなことはするのですが、

 ノエルさんの言う通り、子供ですし、

 軽率な行動をとるかもしれません。

 もう少し、斥候の候補者を考えましょうか」


その後も会議は進められた。


結局、俺(ノエル)とクリムが斥候の役目をつとめることになった。

そしてもうひとり、山の道を歩くためのガイドとして、シャロが選ばれた。

シャロは、周囲の山において、山菜取りの名人でもあった。さすが自然の民。

俺が剣ばかり握っている間、シャロは山菜と農具を握っていたのだ。


シャロに頼るのはしゃくに触るが、そうも言っていられない。

俺は、傭兵稼業ばかりやっていて、この辺の山の登り方など、

すっかり忘れているのだから……。


山賊の根城への偵察は、明日実行することにして、俺たちは自宅に戻ることにした。

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