第13話 AIに囲まれた世界〜食事が運ばれてきたが…

『はい、お待たせしました。こちらがメニューです。』 

『えぇ、こんな分厚い辞典みたいなのがメニューって?』

『そうねぇ…最近はメニューを見ても解らないかも…情報が多すぎてねぇ?例えば、こちらの親子丼についてのメニューを開いてみて?』

『こうですか?』

『こちらの親子丼ですが…まずは親子丼に使われる卵ですが、有機栽培のエサを食べて、母親のピコヨさんから生まれた卵になります。では、消費者に一言お願い致します。『私は騙されてたんですよぉ。美味しいエサを食べる事が出来るって、そう言われて来たら、勝手に寝てる間に受精して卵を産んだわぁ。そうしたら、消費者に親子丼の卵に使われるって言うでしょ?』

はい、『現場の声でした。』

では、次に卵を供給するチキンオリオン株式会社(業者)からの声が届いております。『先程、ピコヨさんから卵の供給をしていただいて消費者に親子丼の材料として卵を産んで頂くのに、契約書がありまして、こちらになります。』『あぁ、確かに、署名と印鑑を頂いておりますねぇ?えぇ、それも1個、500万円ですか?』『まぁ、そうなりますが、ピコヨさんはチキンオリオン株式会社との契約を交わしております。』

次に、お米に関してですが…』

『なるほどねぇ、そりゃ、メニューが分厚い辞典のようになるわけですねぇ?』

『そうなりますねぇ。』

『もっと、シンプルで良いのですが?あります?』

『ごめんなさい。ないんですよぉ。』

『えぇ、どうしてですか?』

『プラチナ星は実は地球の4倍の広さがあり、1日365日と地球と変わらないのですが…1日が72時間あるんです。すなわち、1日が3日になるんです。』

『なるほど、時間には困らないという事はメニューを読むのに時間をかけても大丈夫という事ですか?』

『そうねぇ…富裕層ならではの時間の使い方になるわぁ。』

『えぇ、誰も怒らないのですか?』

『怒るって、何?そんな感情はないわよぉ。』

『では、メニューが決まったら、呼んで下さいねぇ?私はその間に買い物に行ってきますねぇ?』

『えぇ、ちょっと、ちょっと、待って下さいよぉ。何でも良いから、食事!食事を下さいよぉ!』


それから、数時間経過して…

『食べたい物は決まりましたかぁ?』

『はい、親子丼で、お願い致します。ピコヨさんの親子丼を下さい。それが食べたいです。』

『あれぇ、どうしたんですか?涙を流して…』

『聞きますか?この親子丼の話しを…ピコヨさんの生い立ちはとにかく、大変だった。ピコヨさんには両親がいたが、病弱の母親とアルコール依存症の父親の間に生まれて、苦労の末に高校まで卒業して、チキンオリオン株式会社に入社して、花形部署の供給課に配属されたんですよぉ。そんな生い立ちの卵で作る親子丼ですよぉ。』

『あぁ…、そうですか。親子丼を一つですねぇ?』

『あぁ、ところで、先程まで身体が元に戻っていないので、カプセルしかダメだと言われて、バーチャルリアリティメガネをかけた方が宜しいですか?』

『大丈夫ですよぉ。すでに48時間経過してますのでご安心下さい。』

『えぇ、すでにそんなに時間が経過しているのですか?』

『こちらをご覧下さい。すでに、アンドロイド依存症はプラチナ星に戻った瞬間からすでに半分もとに戻っており、48時間を経過すると自然に治るんですよぉ。とはいえ、請求金額はかなりの金額になりますが、今回はモアナウイルスにより、壊死した右手も完治し、こちらに手配書が回ってきた時に請求金額は頂いております。』

『えぇ?そうなんですか?私はそんなにプラチナ星ではいなければならない存在だったのですか?』

『もしかして、記憶がないのですか?この星で新田様を知らない人はいませんよぉ。あなたは国宝級のギタリストですからねぇ。』

『国宝級何ですか?』

『そうよぉ。国宝級のプレッシャーに耐えきれずに地球に行き、ネオ東京センターシティーでアンドロイドドラッグにはまり依存症になり、プラチナ星から何度も使者を派遣したけど、その度に、センターシティーのマフィアや闇組織からの邪魔が入り、今回、やっと戻ってきたのよぉ。』

『グゥ〜。』

『あぁ、ごめんなさい。すっかり、忘れていたわぁ。親子丼です。』

『えぇ?注文するのに、48時間なのに、食事が運ばれてくるのは48秒とは…』

『はい、食べたら、国宝級のギタリストの音色を聞かせてねぇ?』

『あぁ、でも、ギターが手元にないけど…』

『ほらぁ、目の前にあるわぁ。』

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