第24話 真里姉と新装備の性能


「成果を試すなら、せっかくだから新しい所に行ってみようかな。確か”試しの森”の奥だっけ」


 きっと出てくる相手のレベルも高いだろうから、普通のポーションの他に、高いけれどちょっと高級なポーションも1つだけ補充。


 VITの低い私は、普通のポーションでも7割回復するから十分なんだけれど、念のためにね。


 そして出発前に、ルレットさんに作ってもらった装備を改めて確認、と……。



【大蜘蛛の粘糸】

  ジャイアントスパイダーの糸から作られた、武具としての糸。

  装備者の意志により、糸に粘性を帯びさせることができる。

  粘性による影響はステータスと【操糸】のスキルレベルに依存する。

  (装備特性)粘性、DEX+7



【ミストシルクのシャツブラウス】

  ミストワームから採れる糸で編んだシャツブラウス。

  魔法に対する防御力に優れ、スキル使用時のMP消費を軽減する。

  (装備特性)MP消費軽減(小)、MID+4



【ウィンドレザーのロングスカート】

  ウィンドホースの革を薄く加工し作られた、見た目より軽いロングスカート。

  革を薄くしているため防御力は高くないが、移動時に風の抵抗を軽減する。

  (装備特性)風抵抗軽減(小)、AGI+3、DEX+2



【ウィンドレザーのシューズ】

  ウィンドホースの革を薄く加工し作られた、軽いシューズ。

  移動時の速度が上昇する。

  (装備特性)移動速度+5%、AGI+2、DEX+1



「……えっと、これは相当な代物なんじゃないのかな?」


 攻撃力や防御力も格段に上がっているんだけれど、何よりこれまで使っていた初心者セットにはなかった、装備特性という項目。


 明らかに強くなるであろう要素が、こんなにたくさん付いている……。


 どうしよう、値段を聞きたいけれど怖くて聞けない!


 お返ししたい料理が増える一方な気がする。


 というか、返し切れるのか私?


「……いやいや、ここで悩んでも仕方がない!」


 頭を振って一旦悩むのを止め、ついでにマレウスさんからもらったのも見てみる。



【魔銀の糸(中)】

  魔銀を鍛錬し特殊加工された、武具としての糸。

  魔力の伝導効率が良く、装備者の意志により伸縮性が生まれる。

  伸縮性はステータスと【操糸】のスキルレベルに依存するが、

  糸の太さにより制限がある。

  (装備特性)MP消費軽減(小)、伸縮性



 【大蜘蛛の粘糸】より攻撃力が高いけれど、こっちは装備特性でDEXが上がらない。


 そしてどっちにも固有の装備特性がある。


 悩ましいけれど、使ってから考えることにしよう。


「ネロ!」


「ニャア!」


 喚びかけに応え、ネロが元気よく現れる。


 最初に選んだのは【大蜘蛛の糸】。 


 さて、行きますか。



 ”試しの森”の奥を抜けるまで、当然ボアやフォレストディアに襲われたのだけれど、もはや全く相手にならなかった。


 より素早く動けるようになったネロが、単体なら私が攻撃を指示する前に一撃で倒してしまうし、複数現れた時も私が【大蜘蛛の糸】を絡ませキュッとやったら、その瞬間にHPが消し飛んだ。


「強くなり過ぎじゃないかなあ、これ」


 あまりの変わりように少々、いや、だいぶ不安になるんだけれど……。


 でも素直に嬉しかったのが、装備特性の移動速度+5%。


 数字だけ見るとそれ程恩恵はなさそうだけれど、体感すると明らかに違うのが分かる。


 同じく装備特性でAGIが上がっているのを加味しても、これまで牛歩並だったのが、人並みになった感じだよ。


 人並み……良い言葉だよね。


 ……言ってて悲しくなんてないんだからね?



 ”試しの森”を抜けると、目の前に広がるのは折り重なる山だった。


 その山は様々な広葉樹や針葉樹が雑多と生えており、人工ではない自然の山そのものに見えた。


 もしこれが現実で紅葉の季節だったなら、色取り取りいろとりどりの樹々が山を賑やかに彩ったんだろうな。


 そんな光景を思い描きつつ、山へと足を踏み入れる。


 幸い勾配はそんなにキツくなく、私でもなんとかなりそうだった。


 やったことはないけれど、登山よりもハイキングに近い感じなんじゃないかな?


 いつも通りネロに先行してもらい、しばらく歩いていると、ネロが小さく警戒の声をあげた。


「ニャ!」


 立ち止まったネロの側に寄って前方を見ると、モンスターの集団が見えた。


「【ゴブリンソルジャー】3体に【ゴブリンマジシャン】、【ゴブリンシーフ】か」


 初めて見る、人型の相手だ。


 ゴブリンは頭に小さな角が生えていて、子供くらいの大きさだけれど、目が異様に大きく口が耳元まで裂けている。


 歪に並んだ歯の間からは唾液が落ち、正直ちょっと近寄り難がたい。


 ゴブリンソルジャーは刃の欠けた剣を、ゴブリンマジシャンは棒のような杖、ゴブリンシーフは錆び付いた短剣を持っていた。


 防具はボロ切れ一枚を纏っているだけで、こちらにはまだ気が付いていない。


 最初だし慎重に行きたいところだけれど、奇襲できるなら仕掛けたい。


 狙うなら、魔法で遠距離攻撃してきそうなゴブリンマジシャンかな。


 私の糸では防ぎにくいからね。


 樹を登りネロに回り込んでもらおうとして、ふと閃いた。


「そっか、どうせ奇襲するなら……」


 私は樹の裏で、あることを試してみた。


 予想通り、ゆっくりなら問題ない。


 満足いく結果に、私はネロを伴い行動に移った。



 ゴブリン達は、シーフを先頭にしてソルジャー3体が続き、後方にマジシャンが控える隊形をとっていた。


 もっとも軍隊のようなそれとは違い、仲間同士ふざけ合いながらの弛みまくったものだけれど。


「これなら安全に対処できそうだね」


 ”眼下”に広がるその光景に、思わずニヤリとした。


 私が試したのは、糸を使って体を樹の枝の上に引き上げること。


 以前はVITが低いのと急激な負荷でHPが減ったけれど、多少なりともVITが上がり、そしてゆっくりやればHPが減ることはなかった。


 そしてシーフとソルジャーが通過したのを見計らい、するりと糸を伸ばし、音も無くマジシャンの首に巻き付け一気に引き上げた。


 上がった【操糸】のスキルレベルと高められたDEX、それに自重が揃い威力が増したのか、マジシャンの足が地面を離れて直ぐそのHPは0になった。


 他のゴブリンはマジシャンが消えたことに、まだ気付いてすらいない。


 その隙に、糸を3本操ってソルジャー3体に同時に仕掛ける。


 マジシャンよりVITかHPが多いのか、空中で少し藻搔いたけれど、マジシャンと結末は変わらず。


 残ったシーフは流石に気が付いて、私目掛けて近付こうとするけれど、こっちは樹の上ですぐには来れない。


 短剣を樹に突き刺し、登り始めようとするシーフ。


 うん、自ら無防備になってくれてありがとう。


 その背後から、予め待機していたネロが猫パンチを叩き込み、シーフのHPも0になった。


 完勝といっていいんじゃないかな?


 ただなんだろう、あまり戦った感がない。


「……戦いというか、釣り?」


 うん、釣りという表現がしっくりくる。


 待ち伏せて、上から釣って釣って、残った相手はネロが倒す。


「まあ、安全に戦えるのは良い事だよね」


 ドロップを拾い、気を取り直して次を探す。


 ちなみにドロップは【ゴブリンの耳】だった。


 うん、嫌がらせかな?



 その後は同じ方法でしばらく戦い続け、倒す時間よりゴブリンを探す時間の方がかかるようになった頃、少し遣り方を変えた。


 といっても大したことではなく、比較的ゴブリンが出やすい場所の上で私が待機し、糸を伸ばし【クラウン】を使ってゴブリンを集めるようにしただけ。


 けれど、おかげで私は移動する必要がなくなり、かつ、倒す数は増えるという一石二鳥の結果となった。


 慣れた頃に装備特性の粘性を使ってみたけれど、なかなか使い勝手が良い。


 触れるだけで相手に張り付いてくれるから、わざわざ巻き付かせる必要もなく、相手の動きを阻害できる。


 特に効果的だったのは、集めたソルジャーが駆け寄ってくる際、地面に水平に糸を張って転ばせる方法。


 1体が足を引っ掛けて転ぶと、一緒に転ぶ者や、助けようとして逆に糸にくっ付かれてしまう者が続出し、勝手に自縛してくれた。


 あとはこちらの好きにできるので、とても楽。


 倒し過ぎたのか、警戒されたのか、あまりゴブリンが出なくなってきたので場所を変えると、新しく【ウォーキングウッド】というモンスターに遭遇した。


 それは枝を腕として、根を足にして歩く樹だった。


 うん、文字通りのモンスターだね。


 ただこれが思ったより厄介で、糸で釣っただけではHPが全然減らなかった。


 樹だから締めるという行為が効きづらいのかな?


 ネロの攻撃もいまいちで、どうしたものかと思案した私は、【魔銀の糸】を使ってみることにした。


 木を倒すには斧やチェーンソーといった金属の道具がお約束だよね、という軽い思い付きだったのだけれど、その効果はなかなかで、巻き付かせるとHPが徐々に減っていった。


「そういえば伸縮の装備特性は使ったらどうなるんだろう」


 糸だから、今より太くなることはないだろうし、細く伸ばす感じかな?


 そう念じた瞬間、【ウォーキングウッド】が上下に両断された。


 HPは、見たままを反映したかのように0だ。


「……えっと、一体何が起きたのかな?」


 相手を真っ二つにする、そんな凶悪な武具を持った覚えはないのだけれど。


 もう一度試すと、やっぱり巻き付けただけではHPが徐々に減るだけで、伸ばすと同じく真っ二つ。


 何度試しても結果は同じ。


「ちょっと検索してみよう」


 さすがに良く分からないまま、これを使うのは危険過ぎる。


 MWOは、内部から外部のサイトを閲覧することが可能となっているので、こういう時便利だね。


 今の事象を思い浮かべ、”糸”、”切断”といった単語を入力し検索をかけたけれど、それらしい事象は該当せず。


 そこで視点を変えて”切れた”事を中心に調べたところ、ヒントがあった。


 難しい原理は理解できなかったけれど、簡単に言うと包丁で切れるのは、刃が対象に接する面積が小さいから切れるらしい。


「だから【魔銀の糸】糸を伸ばし、細くした結果、急に切れやすくなった、のかな」


 ひとまずそういう事として、今度マレウスさんにでも聞いてみよう。


 金属のことなら詳しいだろうからね。


 そして【ウォーキングウッド】がドロップしたのが、【クルミの木材】だった。


 うん、どうせならクルミが欲しかった。



 それから延々と戦い続け、レベルも上がり今日は切り上げようとした、その時。


 子供の悲鳴が突然山に木霊した。



(マリア:マリオネーターLv15→Lv16)

 STR  1

 VIT   4

 AGI   6

 DEX 64→67

 INT   4

 MID 17→18


(スキル:スキルポイント+22→+24)

 【操糸】Lv13→Lv14

 【供儡】Lv6→Lv7

 【クラウン】Lv9→Lv10


 【捕縛】Lv4→Lv5

 【料理】Lv7

 【下拵え】Lv2

 【促進】Lv3

 【暗視】Lv3

 【瞑想】Lv2→Lv3

 【視覚強化】Lv1→Lv2

 【聴覚強化】Lv2


(供儡対象)

 ネロ(猫のぬいぐるみ) 


(装備)

【大蜘蛛の粘糸】

  (装備特性)粘性、DEX+7

【ミストシルクのシャツブラウス】

  (装備特性)MP消費軽減(小)、MID+4

【ウィンドレザーのロングスカート】

  (装備特性)風抵抗軽減(小)、AGI+3、DEX+2

【ウィンドレザーのシューズ】

  (装備特性)移動速度+5%、AGI+2、DEX+1

【魔銀の糸(中)】

  (装備特性)MP消費軽減(小)、伸縮性

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る