第22話 真里姉と新装備
クラスチェンジした後、目標の1つをクリアした達成感もありすぐにログアウトした私は、ブラインドサークレットを着けたまま、いわゆる寝落ちをしてしまった。
翌朝ベッドの上で目を覚まし、何故か暗いままだと思って顔に手をやってそれに気が付いたけれど、その時には仁王立ちした真人がいて、「寝るならちゃんと寝ろ」と叱られてしまった。
どうやら真人が朝起きて私のベッドに備わっているセンサー情報を見た際、寝返りをあまり打っていないことに気付いて心配してくれたらしい。
言われてみれば、装置が邪魔をして眠りが浅かったのか、眠気がまだ残っている気がする。
過保護過ぎる気もするけれど、5年も寝たきりだった私を診ていてくれたのは、主に真人だ。
素直に謝って、反省。
ゲームを楽しんでも、弟妹を心配させてはいけないね。
気を取り直して洗顔、朝食、食休みからのリハビリ。
リハビリは今朝の件があったせいか、いつもより内容がハードだった。
終わった後はただでさえ思うように体が動かないのに、筋肉痛でさらに動かすのが辛くなっている。
汗だくになったので、真希にお願いしてシャワーを浴びさせてもらった。
さっぱりした後はベッドの上で、MWOにログインした。
MWOでは時間は午後になっていて、エステルさんと子供達に挨拶した後、私は洗浄を依頼していた大量のブラックウルフの毛皮を引き取り、冒険者ギルドに顔を出した。
以前来てから数日経っているから、フォレストディアの解体も終わってるはず。
冒険者ギルドに入り、そっと右手のカウンターを見ると、死んだような目をしたアレンさんがそこにいた。
えっと、私のせいだったりするのかな?
恐る恐る近付いてみても、アレンさんの反応はない。
「こ、こんにちは、アレンさん」
「……やあ……マリアちゃんか」
途切れ途切れの、どこか虚な声が返される。
「フォレストディアの解体が終わっていたら、受け取りたいなと思って来たんですけれど」
「……フォ、フォレストディアッ!フォレストディアッ!!」
突然ガクガクと震え始め、うなされたように連呼するアレンさんを、他の職員さんが奥へと引っ張っていく。
「……あの?」
「ああ、すまんな。あいつ嬢ちゃんがフォレストディアを持ち込んだその日、解体班から結局朝まで解体やらされたんだわ。で、ブラックウルフと違い、フォレストディアはでかいが見た目だけなら可愛いもんだろ? 誰もいない部屋で、無数の光を無くした円つぶらな瞳に見つめられながら解体した結果、罪悪感に囚われたみたいでな。別の場所で解体していた解体班の連中が来た時に、アレンは解体し終わったフォレストディアに向かって泣いて謝り続けていたって話だ」
「うわぁ……」
その光景を思い浮かべると、確かにトラウマものだね。
同情もするし、申し訳なかったかなとも思うけれど、うん、私は解体はやらないと心に誓った。
たださすがに不憫なので、フォレストディアの解体で得られたものを受け取った際、アイテムボックスから煮込みハンバーグを取り出してアレンさんに渡すよう頼んだ。
そして、気付けの言葉を添える。
「煮込みハンバーグっていう料理です。”エステルさん”と子供達で作った料理なんですよ。アレンさんに渡す時に、伝えてあげて下さい」
「初めて見る料理だが、良い匂だな。何だか分からんが、そう言えばいいのか? 分かった」
よし、これでアレンさんのフォローは大丈夫。
解体で得られたものは、【フォレストディアの角】【フォレストディアの肉塊】【魔石(小)】。
皮はあまり価値がないらしく、処分されていた。
【フォレストディアの角】は用途が広く、薬にもなるようで良い値段で売れた。
【フォレストディアの肉塊】は脂身が少ないけれど肉質が硬くないらしい。
薫製にすると美味しいと聞いたので、こちらは売らずにとっておくことにした。
後でバネッサさんに聞いてみようかな?
その後は冒険者がやっている露天を覗きながら、ルレットさんがいつもいる場所へと向かった。
1日後と言われたけれど、そういえば特に時間を指定されていなかったね。
こんな時間だし無理かな、と思ったらいてくれた。
オレンジ色のウェーブした髪に、ぐるぐる眼鏡の目立つ姿、うん、ルレットさんだね。
「こんにちは、ルレットさん」
「マリアさんじゃないですかぁ、こんにちわぁ。ちょうど良いところに来てくれましたぁ。マリアさんの新しい服ができましたよぉ」
嬉しそうにばっと両手に持って広げるそこには、以前言っていた白いワイシャツ風の服に、紺色のロングスカートが。
「凄い、本当に1日で作れちゃうんですね」
「えへへぇ、頑張りましたよぉ」
腰に手を当て胸を張るルレットさんが可愛い。
手渡しされた服をありがたく受け取り、一度アイテムボックスに仕舞ってウィンドウを起動する。
ずっとお世話になった初心者セットに、ありがとうと心の中で声をかけてから、新装備をタップしていく。
「おおぉ〜」
眼鏡の奥で、見えないけれどルレットさんの眼が輝いたような気がした。
一見男性用のワイシャツっぽく見えるけれど、裾と袖の部分には細かなレースが施されていて、控えめに女の子らしさを主張している。
何の素材か分からないけれど、その手触りは絹のような滑らかさで、着心地がすごくいい。
そして紺色のロングスカートは、由緒正しいメイドさんが着るような服の、スカートの部分だけを仕立てたような感じだった。
紺色が深く目立たないけれど、生地には細かなタックが入っており、ふわりとせず甘くないのが良い。
オシャレ経験ゼロの私が言うのも何だけれど、とてもセンスが良いと思う。
何より、これならルレットさんが言っていた大人びた感が十分でるはず!
「とても素敵です! こんなオシャレな服、現実でも着たことがありません」
「そう言ってもらえるとぉ、作った甲斐がありますねぇ。それとぉ、こちらもどうぞぉ」
渡されたのは少し黄色味を帯びた糸と、ロングスカートに合わせたような紺色の靴。
「その糸はジャイアンスパイダーの糸を加工したものですよぉ。靴は余っていた皮で作りましたのでぇ、よろしければどうぞぉ」
「ありがとうございます。こんなにもらってばかりで、いいんですか?」
「いえいえ〜、むしろマリアさんのおかげでぇ、私は儲かっているんですよぉ?」
「? 何かしましたか、私」
「第2の街ですよぉ。他の冒険者が取引できない中ぁ、私だけがあそこでしか買えない物を買えますからねぇ、稼ぎ放題なんですよぉ」
そういえば、第2の街の住人の方は冒険者と仲が悪いんだっけ。
貿易を例にすればいいのかな。
しかもそれを一手に担っているとすれば、利益は相当なものかもしれない。
「ですのでぇ、気になさらず受け取ってくださいねぇ」
「分かりました。ありがたく使わせてもらいますね」
お礼を言って前回作った狼骨と野菜のスープをルレットさんに渡し、私は気分良く街を歩き始めた。
ウィンドウには今の装備の私が映っているけれど、うん、これなら小学生っぽさが抜けて大人びた感が出るはず。
鼻歌でも歌いたいけれど、歌えないのでネロを喚んで肩に乗せ教会に向かう。
途中すれ違う冒険者が何か呟いていた気もするけれど、もう「なんで子供が?」とか言われないはずだから気にしない。
もっとも、これが盛大なフラグになっていたとは、当時の私は知る由もなかった。
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