百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜
Act.8-132 ラングリス王国の革命 scene.3
Act.8-132 ラングリス王国の革命 scene.3
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
王太后付き侍女のオシディスが謁見の間に連れて来られる。
謁見の間の様子を一目見て状況を理解したオシディスは、モルチョフを一瞥して「使えない奴」と見下した。……心の声が丸聞こえだよ?
「アネモネだったかしら? クラウディアを唆してこの国に深く干渉して実験を握ろうとするだけで飽き足らず、わたくしの侍女を売国奴呼ばわりするなんて、不敬罪だわ! 今すぐこの女を捕らえて断頭台に掛けなさい!」
「随分とこの女を信用しているみたいだねぇ。……へぇ、なるほどねぇ。王太后殿下の生家のノワイユ公爵家の侍女で、彼女と共に王城にやってきた王太后殿下にとっては心の支えに等しい存在、怒髪天を突くのも致し方ないと思うよ? でも、よくよく思い出してみたらその片鱗があったんじゃないかな? クラウディア女王陛下を傀儡にしてこの国を牛耳る院政的な政治手法、提案したのって彼女なんでしょう?」
核心をつく質問をすると、エリザヴェータが青褪めていく。
「不敬だ! この女を捕らえて打ち首に処せ!」
『……もう我慢できませんわ! 高々小国の王太后如きが、余程死にたいようですね! 不敬罪はどちらなのか、その身体に絶対零度の極寒と共に刻んで差し上げましょうか?』
「スティーリアさん、落ち着いてねぇ。……エリザヴェータ王太后殿下、もしボクが間違っていたら謝罪するよ。その上で、もう二度とこの国に干渉しないことを誓おう。賠償金でもなんでも支払うよ。ボクの首が欲しければ……まあ、どうなっても知らないけど、断頭台に掛ければいいんじゃないかな? ただ、もし、彼女が本当に彼女が『這い寄る混沌の蛇』の関係者だったらどうする? いくら知らなかったと言っても蛇の間者に思うように動かされ、売国の元凶となっていたという事実には変わらないよねぇ? ……もし、オシディスが『這い寄る混沌の蛇』の関係者であったなら、もう二度とクラウディア女王陛下を傀儡にしようとしないことを約束してもらおう。彼女は貴女が思っているほど子供ではない。まだ少し未熟かもしれないけど、女王として国を引っ張っていくための力と、このラングリス王国という国をこういう国にしたいというビジョンを持ち合わせている。彼女の理想を、くだらない欲のために踏み躙ろうとするな」
覇王の霸気を若干込めてエリザヴェータを睨め付けると、エリザヴェータはヘナヘナと座り込んだ。
それよりも今重要なのはエリザヴェータの専属侍女――オシディスの正体が『這い寄る混沌の蛇』の関係者であるか見極めること。
「さて、侍女オシディス。貴女がモルチョフと同じ『這い寄る混沌の蛇』の関係者でないことをこの場で証明してくれないかな? 何、方法は簡単だよ。天上の薔薇聖女神教団の教典をただ黙読するだけで良い。それで、彼女がこの国を混沌の渦中に陥れた戦犯か一目で分かる。エリザヴェータ王太后殿下も彼女が無実であると証明して一刻も早く憂いを断っておきたいでしょう?」
「――その必要はございませんわ」
オシディスの雰囲気が誰もが分かるほど大きく変化した。
「流石は百合薗圓ですわね。冥黎域であるレナード閣下を退けるほどのお方に目をつけられるとは私もつくづく運がない」
「――オシディス、どうしちゃったの!? 貴女が邪教徒じゃないって証明しなさいッ!」
「五月蠅いですわねぇ。……本当に愚かな女でしたわ。こうもあっさりと私の甘言に乗っかって女王陛下を傀儡にしてしまわれるのですから。色々と策を考えていたのに拍子抜けでしたわ。エリザヴェータ、貴女はよく働いてくれました。ただ、最後の最後で私の期待に応えてくれなかったようですが、所詮は捨て駒……大した期待もしていませんでしたから、まあいいでしょう」
エリザヴェータの表情が絶望に染まっていく。その姿を恍惚とした表情で身体を震わせ、「そうです、その表情が見たかった。信頼を裏切られ、絶望するその姿ッ! 本当は革命の戦禍の中でどうしようもなくなったところで正体を明かしてやりたいと思っていましたが、これはこれでたまらないですわァ!」と叫んだ。
「随分と悪趣味だねぇ」
「全く、心外ですわ。私の師である冥黎域の十三使徒の一人フランシスコ・アル・ラーズィー・プレラーティ様の方がよっぽど悪趣味ですわよ。何人もの子供を攫って人体実験を行って一度だけ死を回避する『
……喋る必要もないのに、冥黎域の十三使徒の一人フランシスコの情報をペラペラと話してくれてどうもありがとう。まあ、随分と外道みたいだねぇ、そのフランシスコって奴は。
「私も元々は善良な少女でしたわ。遠い国で優しい父と母と共に暮らしていました。しかし、戦禍に巻き込まれて両親を失った私は路上での生活を余儀なくされました。野垂れ死ぬかと思っていた時、救いの手を差し伸べてくださったのがフランシスコ様だったのです。彼の屋敷には他にも沢山の子供達がいて愛情を与えてくださいました。毎日繰り返される薬物実験も、遺伝子操作も耐え抜きました。ただ、毎日『這い寄るモノの書』を読む時間は苦痛でした。ただ、フランシスコ様に喜んで頂くために欠かさず読み続けました。そして、読むうちにその魅力に取り憑かれ、今では私の愛読書になっております。フランシスコ様は『つまらない書物』などと言っておられましたが、あの方が見る目がないだけですわ」
恐らく、フランシスコとアポピスは何らかの取り決めをして協力し合っている関係にあるんじゃないかな? 研究資金、人脈、物資、そう言った研究に必要なものを供給してもらう代わりに優秀な人材を『這い寄る混沌の蛇』に提供する。
「私は大陸を横断し、ノワイユ公爵家に潜入しました。『這い寄る混沌の蛇』の信徒として絶望を与えるために。侍女としての仕事に励んだのも、全ては信用を勝ち得てエリザヴェータを傀儡としてこの国を混沌の渦中に落とすためであって、それ以上の意味はありませんわ。……さて、百合薗圓。私が何十年と掛けて必死で用意してきた計画をこんなにもあっさり潰されるおいうのは業腹ですわ。落とし前はきっちりと付けさせて頂きます! そして、貴女を殺して革命を成功させる! そして、いずれは大陸全土を絶望に染めて差し上げるのです! それが、私の愛した両親を奪ったこの世界への復讐なのですわァ! オホホホホ!」
「……何を言っているのか理解して言っているのか? それは、お前のような大切な人を失った人をこれから数多く生み出すという意味なんだぞ」
「そんなこと知ったことじゃありませんわ。それに、私だけが大切な人を奪われるなんて、そんなの不公平じゃないですかァ? 苦しみを味わったなら、その苦しみを無くすために行動するべきだって? 憎しみの連鎖を断つために我慢をしなさいって? 身勝手に戦争を引き起こし、苦しみを撒き散らした者達が子供に諭すように道徳を語るってその方がよっぽど歪んでいるとは思いませんかァ? 自分達だけは高みの見物、弱者がいくら死のうと知ったことじゃない癖に、自分達の立場が危うくなると、命の危機が迫ると一転して道徳を語り、『他人を傷つけてはなりません』と説く、そこの無責任な王太后とか貴族達の方が私なんかよりよっぽど害悪ですわよね? だから、みんなみんな苦しめば良いんですよ、絶望に放り込まれれば、みんな等しく底辺なら、みんなみんな平等ですわァ」
血液から巨大な鎌を作り出して構えたオシディスが床を踏み抜く勢いで蹴って加速――同時に血液が生み出された水と混じって無数の小さな円月輪へと姿を変え、回転しながら無差別攻撃を開始する。
「スティーリアさんッ!」
『承知致しましたわッ!
スティーリアが「
「吸血鬼の血液操作能力ねぇ……遺伝子操作って言っていたけど、もしかして魔族の遺伝子を取り込んでいるのかな?」
「吸血鬼だけではありませんわ。――
まさか、吸血鬼だけではなくエルフの遺伝子まで取り込んでいるなんでねぇ。しかも、失われた五大術式まで獲得しているなんて。
しかし、色々な遺伝子を取り込んでいるのに姿は人間のそれと変わらないみたいだねぇ。……もしかしなくても、ヘリオラよりこいつの方がタチが悪いんじゃないかな?
ボクの目の前に転移したオシディスが血の鎌を大振りした。咄嗟に武装闘気を纏わせた『漆黒魔剣ブラッドリリー』で受け止める……少し重いねぇ。やっぱり薬物で身体強化もしているのか。
「
「
武装解除魔法を特定のエネルギーによって構成された術式を対象とし、無意味なエネルギーの羅列へと分解する魔法で無効化しつつ、至近距離から「
火・氷・雷の三属性の魔力を強引に重ね合わせることで生み出した虚数エネルギーにより対象を最小の単位までレベルまで分解消滅させる究極の分解魔法……流石にこれを喰らえば撃破……。
「……危なかったですわ。死ぬかと思いました」
「いや、間違いなく一回死んだよね?」
これが、一度だけ死を回避する『
……死を回避するというから、蘇生魔法的なものかと思ったけど、どうやら違うみたいだねぇ。
「死んだ」という現実そのものを石を引き換えに無かったことにするのか、石そのものに瀕死になるほどのダメージを肩代わりさせるのか、まあ、どちらでもいいし、こういうアイテムには微塵も興味ないんだけど、実際に全くダメージがない様子でピンピンしているから、こいつが持っている『
……これ、長期戦覚悟しないといけないかもしれないなぁ。
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