Act.8-96 ペドレリーア大陸探索隊~動 scene.7

<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ>


 本日の王女宮筆頭侍女の業務も無事終了。このままいつも通りビオラ商会関連の仕事をしてから探索の続き……と行きたいところだけど、今回はフォトロズ大山脈で魔王の娘と会う必要があるからねぇ。まずこっちを優先しようかな?


 同行するメンバーはラインヴェルドとアレッサンドロス、ディグランの三人。……まあ、ディグランはフォトロズ大山脈を挟んでオルゴーゥン魔族王国と隣接するド=ワンド大洞窟王国の国王だから流石に蚊帳の外というのはまずいと思ったし、状況によってはブライトネス王国に入国させる必要があると思ったからこういう人選になったという感じだねぇ。


 フォトロズ大山脈の山小屋には褐色の肌に碧眼と金色の瞳のオッドアイ、黒いツノの生えた深紅のドレス姿の少女が金色の髪を白いウィンプルで隠した修道服姿の碧眼の美しい女性と共に居た。


「……何者だ。ドワーフに、人間!? どういうことだ」


「アスカリッドさん、安心してくださ〜い。お久しぶりですわ、ローザさん。……紹介致しますわ。こちら、若くして多種族同盟という組織の長を務められている公爵令嬢のローザ様と、ブライトネス王国という人間の国の国王を務められているラインヴェルド陛下、私の上司に当たる天上の薔薇聖女神教団の教皇のアレッサンドロス、ド=ワンド大洞窟王国のディグラン陛下。――こちらの少女がお伝えした魔王の娘のアスカリッド・ブラッドリリィ・オルゴーゥンさんですわ」


「天上の薔薇聖女神教団……もしや、そなたは修道女だったのか!?」


「ちょ〜っと違いますわ〜。私は天上の薔薇騎士修道会副騎士団長のエリーザベト=グロリアカンザス。魔族のアスカリッドさんに分かりやすい言い方だと天上光聖女教の神聖護光騎士団団長ヴェルナルドの妹、といった方が分かりやすいのかもしれませんね〜」


「な、何!? 天上光聖女教だと!? ……屈辱じゃ!! 魔族と敵対する光の者に囚われるなど!!」


「別に捕らえたつもりはないのですよぉ。アスカリッドさんも美味しい美味しいってシチューを食べていたじゃないですか〜」


「…………くっ、何が目的だ、人間! 我は魔王の娘じゃ! 例え囚われようと誇りが失われることはない! 我を捕らえて奴隷にするつもりなら、我の剣を打ち破ってみよ!!」


 闇の魔力を纏わせた魔剣を振り翳してくるアスカリッドと、あらまあとほわほわした表情で様子を伺っているエリーザベト。

 そして、剣を抜き払って好戦的な笑みを浮かべるラインヴェルド……これはまずいねぇ。


「ディグラン陛下、ラインヴェルド陛下を止めてくれませんか!!」


「おい、そりゃないぜ! ほら、魔王の娘がどれくらい強いか試してみたいじゃねぇか!!」


「今はそのタイミングじゃないから空気読んで!!」


 ディグランがラインヴェルドの剣を受け止めている間に床を蹴って加速――アスカリッドの剣を武装闘気を纏った人差し指で受け止める。


「捕らえるつもりも奴隷にするつもりもないよ。まずは話を聞いてもらいたい。その上で好きに判断してくれればいいよ」


 魔剣を掴んで取り上げると、ボクを睨め付けるアスカリッドの目の前にクッキーと紅茶を出し、他のメンバーにも紅茶と茶菓子を出した。

 しかし、怒っていてもクッキーには手を伸ばすんだねぇ、アスカリッド。



「……うむ、俄には信じがたい話だが、信じるしかないようだな。吸血鬼の姿を見せられれば信じる他ないだろう。……なるほど、道理で亜人種の王がこの場にいるのだな。しかし、亜人差別の激しい人間が対等な関係を築くとは」


「亜人差別が激しいのは魔族も変わらないよねぇ? 『スターチス・レコード』の物語的には魔王がラスボスだけど、話を聞く限り君のお父さん――オルレオス・ゼルフェイ・オルゴーゥンは『唯一神』ではない。討伐対象ではないし、魔族との関係は必要に迫られたら考えればいいんじゃないかって思っているんだけど」


「少なくとも、多種族同盟は魔族を排斥せず受け入れる意思があるということじゃな」


「そういうことになるねぇ。まあ、それは魔族が望むならだけど。人間の国全てが多種族同盟に加盟している訳じゃない。シャマシュ教国なんか亜人差別の急先鋒のままだし。敵対する気ならそれも選択肢だし、お互い不干渉を貫くっていうのならそれもそれでいいんじゃないかな? 潰せというなら徹底的に潰すけど」


「……話を聞く限り、多種族同盟そのものを相手する以前にド=ワンド大洞窟王国と全面戦争を繰り広げるだけで普通に魔族は滅亡する。……ところで、我は人間の世界を見てみたいと思って魔王城から逃亡してきたのじゃが、人間世界を見て回るのは可能か?」


「別にどこを見て回ろうとアスカリッドさんの自由だけど……具体的にプランとか決まっているの?」


「特に決まっておらん。人間の世界は初めてじゃからな」


「……どうします?」


「亜人種族は受け入れられてきたが、魔族ってなると別のハードルがなぁ。ってか、そもそも仮に旅をするとして旅費とか大丈夫なのか?」


「ふふふ、無一文じゃ!!」


「……それ、威張るところなのか?」


 あまりない胸を張って高笑いするアスカリッドにジト目を向けるディグラン……うん、ボクもそれは胸を張っちゃいけないことな気がする。


「人間世界を見て回るなら別にブライトネス王国を見て回れば十分だと俺は思うんだけど? 実際、今最も発展しているのはブライトネス王国だろ?」


「ド=ワンド大洞窟王国も洞窟を利用したテーマパークで一攫千金を狙っているが、まだまだ完成には程遠い。緑霊の森はエルフ達が景観を変えない方向で街づくりを進めているから見応えのあるものとなると厳しいだろう。……多種族同盟の国家であれば、やはりビオラ商会のお膝元であるブライトネス王国が一番だと我も思う」


「まあ、そういうことになるねぇ。そこで、提案なんだけど……ボクの家はラピスラズリ公爵家という貴族の家柄なんだけど、そこでメイドとして働きながら王都を探索してみるっていうのはどうかな?」


「…………王女の私がメイド、じゃと!?」


「ただのメイドじゃないよ? ラピスラズリ公爵家はブライトネス王国を守る毒剣の一族なんだ。暗殺術、戦闘術を学ぶことができるし、メイドとして培った技術はこれから一人で生きていくのならきっと役立つと思う。実際、アスカリッドさんの剣はボクの素手に受け止められた。これくらいの力量さがあるんだ。その力量差を埋める技術を学べるだろうし、悪い話じゃないと思うんだけど?」


「……しかし、我は王女なのだ。その我がメイドなど」


「ボクもメイドに混じって仕事をしているし、楽しいよ? キツいことも多少はあるだろうけど。三食寝床付き、働いたら給金も貰える住み込み生活……どう?」


「三食……しかも、寝床付きで給金も。しかも、自衛の技術や生活の技も学べる…………くっ、仕方ない、これは仕方ないことなのじゃ! 我は魔王の娘の姫としての誇りを捨てた訳じゃない、捨てた訳じゃないのじゃ! ……よろしくお願いします」


 意外と素直な子みたいだねぇ。

 その後、アスカリッドをラピスラズリ公爵家に連れて行って事情を説明――無事、メイド見習いとして預かってもらえることになった。

 早速教官のジーノに連れて行かれてボコボコにされたみたい。「こんなの、聞いていなかったのじゃ!!」と叫びながら睨め付けてきたけど、まあ、これまでみんなも通ってきた道だからねぇ、頑張れ。



 ビオラ商会での仕事を終えて、ラインヴェルド達と合流。

 その後、アクアとディランをオルレアン教国に向かうポラリスとミゲルのもとに送り届けてから、ダイアモンド帝国の帝都でトーマス、ミレニアムと合流し、パーティはボク、ミスルトウ、プリムヴェール、マグノーリエ、ラインヴェルド、オルパタータダ、バルトロメオ、トーマス、ミレニアムとなった。

 このメンバーでダラス、カルコスがいるプレゲトーン王国を目指すグループと合流を果たし、このパーティでプレゲトーン王国で起こる革命を止めることになる。


「しかし、凄いな。空間移動の能力は……この辺りだとプレゲトーン王国まで後一日というところか?」


「ここから悠長に馬車を乗り継いで行くつもりはないよ? 『飛空艇ラグナロク・ファルコン号』を使って一気にプレゲトーン王国の革命派が拠点にしている辺境の街サイラスに赴く。到着予想時刻は今から三十分後、吹っ飛ばしていくよ!」


 怯えるミレニアムを『飛空艇ラグナロク・ファルコン号』の内部に転移させると、後のメンバーは普通にタラップから乗り込んでいく。


「なるほど、これが飛空艇というものか。空飛ぶ船とは珍しい」


「こ、これちゃんと飛ぶのですか!? お、落ちたりとかは!?」


「うーん、どうだろうねぇ。敵に襲撃されて船が落とされるような事態になったら……まあ、大体迎撃できるから大丈夫だと思いたいけど」


「なんか、フラグみたいだなぁ。じゃあ、俺、落ちる方に一票で!」


「それでもって、強敵と俺達が戦うんだよな!? 勿論、俺達にも出番作ってくれよ!!」


「……ゴホン。真面目な話、『飛空艇ラグナロク・ファルコン号』が堕ちる可能性はどれくれいあるのか?」


「お父様、縁起でもないこと言わないでください」


「レイド級の魔物か、或いは『唯一神』級の攻撃を浴びたら流石にねぇ……」


 なんか今のでフラグ立った気がするなぁ、と思った瞬間――空に青白い稲光のようなものが走り、青い光が空を包み込んだ。


 いつの間にか透き通る身体を持った、様々な鳥獣を混ぜて捏ねたような翼の生えた触手の化け物に四方を囲まれ、進行方向をその全貌を正しく認識することは叶わないほどの膨大な情報量を持つ豪奢なドレスらしきものを身に纏っているナニカが防ぐように立っていた。


「――ッ!? アザトホートのコケラ・ツァディクに、真聖なる神々プレーローマのエンノイア!? はっ、なんでこんなところで野生のラスボス!? アザトホートのコケラだけでも厄介なのに」


「……ローザ殿、エンノイアとはどれほどの強敵なのでございますか?」


「ボク達が基準に置くヨグ=ソトホートよりも強敵なアザトホート、エンノイアはそのアザトホートを超える『Eternal Fairytale On-line』の全てのプレイヤーでの参加を前提とした真のエンドコンテンツ――『ファイナルレイド・創造主の真聖なる神々プレーローマ』のレイドボス。……ラインヴェルド陛下、オルパタータダ陛下、バルトロメオ陛下、絶対にアレ相手に暴れようなんて思わないでくださいよ。一秒も持ちませんから」


 ……リーリエですらどれくらい持つか分からない。ギミックは設定したから覚えているけど、一歩間違ったら本当に死ねるくらいの難敵だよ。


 エンノイアはカーテシーをすると、飛空艇に乗るボク達にも聞こえる声で語り掛けてきた。


『貴方達の旅はこれで終わりです』

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