Act.8-26 誕生日会の二次会と、ドリームチームトーナメントと……。 scene.6 戊

<三人称全知視点>


音纏オトマトイ打音スフォルツァンド


 『Eternal Fairytale On-line』の吟遊詩人の特技から抽出したという音属性の魔法で音を武装闘気を纏わせた細剣を構え、神速闘気を纏ったイフィスは地を蹴って加速した。


「蒼氷の女王の尖兵」


 狙うは紅羽を撃破して一番に本陣に辿り着いたミーフィリア。

 『氷の尖兵を作り出す魔法』、『作り出した氷を分解する魔法』、『空気中の水分と氷像の水分を凝固させる魔法』の三つからなる複合魔法で凝固と分解を繰り返すことで移動、大気中の水分から水分を補填することで再生も可能な不死身の氷の尖兵を生み出す戦術級白兵魔法を発動し、イフィスを迎え撃つ。


三閃刺突華デルタ・スティング


 立ちはだかる氷の尖兵に首、心臓、肝臓を狙い刺突を放つも、刺突部分から衝撃波を浴びた氷の尖兵はすぐに再生を開始する。

 その再生の間にも攻撃が止むことはない。氷の尖兵は無数にいるのだ。破壊しても破壊してもすぐに別の氷の尖兵が入れ替わるように攻撃を仕掛け、破壊された氷の尖兵もすぐさま再生する。


「――埒が明かないわねッ! なら、これならどうかしら? シューティングスター・ペネトレイター!」


 全身に光を纏ったイフィスは氷の尖兵を押し退けるほどの猛烈な速度で走り出すと、突進して突きを放つ……挙動をキャンセルし、そのまま二十四の刺突を高速で放つ二十四連撃細剣ウェポンスキル「テンペスタース・ファンデ・ヴー」を放つ。


 ウェポンスキル「シューティングスター・ペネトレイター」は全身から光の尾を発しながら突進して剣で攻撃を行う最上位の細剣ウェポンスキルである。

 本来なら一回で、システムで決められている挙動を止めるためにはスキルキャンセルをしなければならないが、その場合には例外なく硬直が発生する。


 ところで、ウェポンスキルとマジックスキルにはゲーム時代、攻撃後の硬直や技ごとのクールタイムというものが存在していた。

 しかし、異世界化後には同じウェポンスキルの連続発動が可能になり、正確にスキルを発動し終えた後には硬直が発生しないことが実際にウェポンスキルやマジックスキルを行使した者達によって証明されている。


 正しくウェポンスキルを使えば硬直は発生せず、スキルキャンセルをした場合にのみ硬直が発生する――ローザはこの点に注目し、硬直の発生しないスキルキャンセルを模索した。

 そして完成したのがシステム外スキル《チェイン・スキルコネクト》だ。


 仕組みは複数のウェポンスキルを重ね合わせ同時に発動することで、途中から別のウェポンスキルの動きを上書きし、発動するというもの。

 これにより、あるウェポンスキルの挙動から別のウェポンスキルに、更にそのウェポンスキルの挙動から別のウェポンスキルの挙動に、と繋げることが可能になった。


 結果として、型が決まっていて読まれやすかったウェポンスキルに大きな幅が生じ、更にウェポンスキルの重ね掛けにより攻撃の威力を足し合わせることが可能になった。

 例えば、今回の場合「シューティングスター・ペネトレイター」の攻撃力が「テンペスタース・ファンデ・ヴー」に加算されているため、普通に「テンペスタース・ファンデ・ヴー」を放つよりも威力が大きく向上している。


「空間瞬間転移魔法-アプリション・アンド・ディサパーリション-」


 ミーフィリアは素早く転移魔法を発動し、二十四連撃細剣ウェポンスキルを躱すと、イフィスから大きく距離を取った場所に姿を現した。


「――灼熱の女王の白霧」


 そして、『作り出した氷を分解する魔法』、『氷を熱して水蒸気に変える火魔法』、『水蒸気の分子を加速させる火魔法』からなる大規模術式を発動し、氷の尖兵を次々と水蒸気爆発させる。


「流石に、水蒸気爆発を耐えるということはできないだろ……ッ!?」


 見気を使って水蒸気の内部を念のため確認していたミーフィリアの表情が驚愕の色に染まる。

 猛烈な速度で接近する存在の反応――あれだけの破壊攻撃を浴びてなお、イフィスは戦闘不能に陥っていなかったのだ。


「……武装闘気か? いや、闘気を駆使したとしても、あの水蒸気爆発の威力に耐えうるとは思えない。……錯覚する時間の連続クロノス・スタシス凝固する時間の長針クロノス・ランス凝固する時間の短針クロノス・ソード


 クロノスタシスの錯覚のように相手の時間感覚を狂わせることで自分の位置を誤認させ、その間に誤認によって生まれた自身の時間残像を囮にした奇襲や撤退を可能にする時間魔法で無数の残像を生み出し、時間属性の魔力を束ねることで時の魔力に守られた存在にもダメージを与えることが可能な槍を作り上げて無数に展開し、更に振るうことで時を切り裂くことができる剣を作り上げ、左手で構えた。

 完全な迎撃体制を整え、ミーフィリアはイフィスの出現を待つ。


 金色の輝きを纏ったイフィスの身体はボロボロだった。焼け爛れ、無数のポリゴンが吹き出しているが、辛うじて形を留めている。


「……テンペスタース・ファンデ・ヴー!」


 先程の同じコンボ――自分の放てる最高の一撃に全てを賭け、イフィスはミーフィリアに迫った。

 イフィスも理解している――この攻撃が通らなければ、イフィスに勝利はないだろう。それに、身体も限界だ。いつ消滅してもおかしくない。


 無数の時間の槍がイフィスに殺到し、ミーフィリアの剣が振り下ろされた。素人の剣捌きだったが、その一太刀がイフィスの二十四連撃細剣ウェポンスキルの流れを狂わせた。

 結果、システム外スキル《チェイン・スキルコネクト》が崩壊し、硬直が発生する。


 その一瞬の隙が仇となり、ミーフィリアの素人の剣と無数の時間の槍に切り裂かれ、刺し貫かれ、無数のポリゴンと化して消滅した。


「…………やはり、上手く扱えない。どこかで剣を学んだ方がいいだろうな。ローザ嬢に頼んでみるか」


 ミーフィリアが剣術という新地開拓の計画を練り始めた丁度その時、試合が終了し、ミーフィリア達はバトルフィールドの外へと転送されて会場に戻った。



 このトーナメントにおいて、最もローザの真意を理解し、行動したのはヴァケラーであったと言えるだろう。


 第一回戦第六試合でトネールが率いるパーティと対戦することになったヴァケラーが率いるパーティは冒険者八人、フォルトナ王国の司書一人、ルヴェリオス共和国「黄月騎士団イエロームーン」の騎士団長という構成になっている。

 この圧倒的に冒険者の多いパーティを普段慣れたパーティで組ませるのが最も安定していることはヴァケラーも当然理解していた。


 しかし、ヴァケラーが行ったのは各パーティの分断――できる限り、所属がバラバラの者同士を組み合わせてチームを構成することで、このトーナメントの目的である「共に戦う経験の少ない者同士の共闘」を実践したのである。


 一つ目はジャスティーナ、リヴァス、ティルフィからなるチーム。

 二つ目はターニャ、ハルト、ジェシカからなるチーム。

 三つ目はジャンロー、ディルグレン、ダールムントからなるチーム。


 彼らの相手は、奇しくもヴァケラーと逆――即ち、それぞれ慣れた相手と組むという方針を選んだトネールパーティのメンバー達であった。


 ジャスティーナ達はアクアとディランを、ターニャ達はプルウィア、ネーラ、ヴァルナーの三人を、ジャンロー達はバルトロメオ、ソットマリーノの二人とそれぞれ戦うことになる。

 果たして、対極にある方針を選んだ二つのパーティのどちらに勝利の女神は微笑むのだろうか?


 まずは、最初の激突が起きたジャスティーナ達とアクア達の戦いから見ていくとしよう。



「相手はアクアさんとディランさん……初戦からいきなりお二人と戦うことになるとは、本当に運が悪いですわ」


 司書であるジャスティーナだが、友人のフレデリカが所属し、三つ子の弟達がちょっかいをかける漆黒騎士団とは何度も任務を共にしたことがある。

 ジャスティーナは漆黒騎士団の団長オニキスと副団長ファントの強さを身をもって知っていた。また、五年以上前にローザ達がフォルトナ王国に潜入した際はアクアとディラン……ドネーリーとも臨時班で何度か組んだことがあり、二人が転生して新たな力を獲得していることも察していた。


 漆黒騎士団最強と言われる団長・副団長コンビ――その転生体であるアクアとディランが今のオニキスとファントと戦った場合、どちらが勝るかはジャスティーナにも分からない。

 つまり、両者の強さは合算すればほぼ互角ということだ。


 ジャスティーナはオニキス、あるいはファントに剣を向けることはない……が、もし仮に戦えば勝利は不可能に近いと実感している。

 一人だけでもそうなのだから、完璧な連携で何倍にも実力を高めてくる漆黒騎士団団長・副団長コンビを相手にして果たして勝機はどれほどあるだろうか?


「確かにあの二人は強いからな。俺もルヴェリオスのスラム街の屋敷でお二人と戦ったことがあるが、全く勝てる気がしなかったぜ。……あの二人にボコボコにされた日のことは今でも鮮明に覚えている。初対面でいきなりボコボコだぜ……今でも若干トラウマなんだが。とはいえ、この五年で俺も強くなった。あの時のリベンジマッチ、今度こそ勝利したいな」


「おいおい、それだと俺達が寄って集ってボコボコにした悪い奴みたいじゃねぇか? なぁ、相棒? 俺達別に何も悪いことしてないよな?」


「あの時はプルウィアさんもリヴァスさんも敵対してボコボコにしないとアジトに連れて行ってもらえない状況だったし、お嬢様に指名されて望まれた通りに戦った訳だからディランの言う通り俺達は何も悪くなかったと思うが? ちゃんと殺さないように加減して戦ったぞ?」


「……それ、分かっていたけど改めて面と向かって言われるとキツいな」


 古傷を抉られたリヴァスが苦笑いを浮かべる。


 確かにあの時は「不殺」という条件がつき、どうしてもアクアとディランは本気を出すことはできなかった。

 しかし、今回は違う――制限を外れた二人は間違いなく好きなだけ全力で暴れるだろう。


 その本気の二人に勝つことできれば、名誉挽回を果たすことができる。

 勝機は薄いが、その分だけリヴァスは燃えていた。


「それじゃあ、始めるとすっか? ――いくぜ、相棒!!」

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