Act.8-7 誕生日会の二次会と、ドリームチームトーナメントと……。 scene.2 中

<三人称全知視点>


「遠隔設置――爆裂連罠陣!」


 無数の設置型爆発魔法陣が一瞬赤く輝き、透明化して大地と同化する。


「幻惑の森――幻氷の大角礫・連撃!」


 罠魔法を設置し終えたジェイコブに無数の刺々と前方に三角錐が突き出した巨大な氷の塊が放たれた。


「――ッ! カレンかッ! 簡易設置・即効発動――煉柱連罠陣」


 ジェイコブを囲むように無数の設置型魔法陣が設置され、赤く煌くと同時に無数の火柱が噴き出した。

 火柱の輪に呑まれ、巨大な氷の塊は次々と蒸発していく。


「っ、この、面倒ですね! 身の毛もよだつような美しい断末魔、全然聞かせてくれないじゃないですか! 真っ赤なお花も咲かせないで私の攻撃を全て無効化するなんて最悪の気分ですよ!」


「…………こっちは何回も斬られて最悪の気分なんだが。【大海嘯】!」


 【大海嘯】のスキルが発動され、マイルに津波が襲い掛かる。ブルーベルが液体化して津波を浸食し、津波と一体化したブルーベルは四方八方から同時に出現し、武装闘気を纏って波と自らを硬化させると同時にマイルの足を固定――全方位から同時に『黒刃天目刀-蛟-』を構え、一斉に斬り掛かった。


 ここは森の一角――ややジーノの本陣に近いこの場所で対峙したのはジーノチームがジェイコブ、マナーリン、マイルの三人、ネストチームがカレン、ブルーベルの二人というメンバーだった。

 数的にはジーノチームが有利な布陣で戦闘を開始した戦いはクイネラを撃破したエリシェアの参戦によって人数的には拮抗した。


 現在カレンはジェイコブと、ブルーベルはマイルと死闘を繰り広げている。

 どちらかに加勢して戦闘を有利に進めようとしていたマナーリンも戦場に到着したエリシェアに阻まれ、互いに加勢もできないまま森の三箇所で一対一の戦いが繰り広げられていた。


「なかなかやりますね!」


「……っ、恐ろしい攻撃よね。でも、当たらなければ意味がないわ」


 マナーリンの『明星の星球式鎖鎚矛モルゲンシュテルン・クラッシャー』の軌道を読んで紙一重で躱すと、エリシェアは無数の苦無を裏の武装闘気を駆使して作り上げ、「裏武装闘気-全方位苦無嵐撃-」を放つ。


「全方位攻撃ですか、考えましたね。ですが、こういう戦い方もあるのですよ!」


 強引に『明星の星球式鎖鎚矛モルゲンシュテルン・クラッシャー』を引き戻すと、そのまま縦横無尽に鉄球を振り回した。

 完璧な軌道で流れるように振り回される鉄球は全ての苦無を打ち落とし、或いは吹き飛ばし、無力化して見せた。


「それでは、大人しく負けを認めなさい」


「――お断りですッ!」


 絶妙な回転が掛けられ、大幅に威力が増した『明星の星球式鎖鎚矛モルゲンシュテルン・クラッシャー』がエリシェアに放たれる。

 一方、エリシェアは裏の武装闘気を駆使して無数の黒い壁を作り出し、『明星の星球式鎖鎚矛モルゲンシュテルン・クラッシャー』を防がんとする。


「そんなものでは私の攻撃を止められませんよ! 武装闘気!」


 『明星の星球式鎖鎚矛モルゲンシュテルン・クラッシャー』が武装闘気によって黒く染まり、更に威力を増す。

 極限まで強化された『明星の星球式鎖鎚矛モルゲンシュテルン・クラッシャー』は次々と壁を破壊していく……が。


「……あら?」


「その壁は囮です。気づきませんでしたか?」


 壁が崩れ落ちる中、その先にエリシェアの姿は無かった。

 『黒刃天目刀-濡羽-』の抜き払われる音が響いた。気配を最小限まで消し、マナーリンの背後に回ったエリシェアが、無防備な背中を晒すマナーリンに斬り掛かる。


「勿論、お見通しよ! 裏武装無数手裏剣」


 マナーリンの背後に無数の手裏剣が出現し、エリシェアへと放たれる。

 その予想外の奇襲攻撃にエリシェアは対応し切れず、無数の手裏剣をその身で受けた。


「これで負けてくれたかしら?」


「……まだ、ですッ!」


 ポリゴンが身体の各所から噴き出す中、エリシェアは最後の力を振り絞り「裏武装闘気-全方位苦無嵐撃-」を放つ。

 狙いはマナーリン、そしてブルーベルと戦うマイルだ。


「――ッ! マイルッ!」


「マターリンメイド長、分かっています! この、うざったいですよ!! 粘液女!!」


「ブルーベルさん!」


「分かっている! ――【水神顕現-龗-】!」


 剣先から生み出された多頭の水竜がマナーリン、そしてマイルへと殺到する。

 ブルーベルの溶け込んでいない純粋な水攻撃のため完璧な制御はできないが、武装闘気を纏った武器によるダメージを負うこともない。


 武装闘気で硬化したブルーベルが溶けた水によって動きを封じられ、武装闘気を纏わせた武器によって攻撃してブルーベルを撃破して脱出しようと目論んでいたマイルはその多頭の水竜の攻撃を無力化できず、呆気なく飲み込まれた。最後に悪足掻きで全身から流した神光闘気が振り下ろした剣伝いにブルーベルへと伝わり、ブルーベルを焼き尽くして撃破するが、同時に水を突き破って全方位から殺到した苦無がマイルに限界量のダメージを蓄積させ、その身体を無数のポリゴンへと変えた。


 一方、ブルーベルが消えてなお威力が衰えなく殺到する多頭の水竜は大きく顎門を開き、マナーリンを一呑みにする。

 呑まれたマナーリンは呼吸を止めて無数の手裏剣を放ったが、今度はエリシェアが新たに放った無数の苦無と相討ちになって一撃も浴びせることはできなかった。


 武装闘気を纏わせた『黒刃天目刀-濡羽-』を構え、マナーリンを呑み込む水竜諸共一閃――マナーリンは斬撃をその身に浴びて無数のポリゴンと化して消滅する。

 しかし、同時にマナーリンが見気を駆使して視界が塞がれる中で放った無数の手裏剣が全てエリシェアに命中し、ダメージに耐え切れなくなったエリシェアの身体が今度こそ無数のポリゴンと化して消滅した。



 クララが戦場に到着したのは、マナーリンとエリシェアが相打ちになった直後だった。


「……爆発の原因はやはりジェイコブ料理長でしたか」


 戦場では爆破魔法を駆使するジェイコブか防衛に回り、カレンが水属性魔法を駆使しながらジェイコブを討ち取らんと攻撃を仕掛け続けている。


「カレンさん、助力必要ですか?」


「クララさん!? そうね、お手伝い頂けると嬉しいわね……ジェイコブ料理長強いから」


「おっ、おい!? 二対一かよ!? たく、マナーリンとマイルもやられてこちとら孤立無援だっていうのに……仕方ねぇ! 二人纏めて爆殺してやるよッ! 遠隔設置――爆裂連罠陣! 簡易設置・即効発動――爆裂連罠陣!」


 新たに無数の魔法陣を設置し、更にカレンとクララの足元に魔法陣を展開し、即座に爆破するジェイコブ。

 当然カレンとクララはその攻撃を黙って受ける筈もなく、地面を踏み抜く勢いで蹴り、爆速で駆け抜けていく。勿論、二人の目標は爆破魔法をせっせと設置するジェイコブだ。


「全く、回避されると悲しくなってくるぜ。遠隔設置――爆裂連罠陣! 簡易設置・即効発動――爆裂連罠陣!」


 カレンとクララの行動を鈍らせるべく更に魔法陣を撒き散らすジェイコブ。

 次々と爆発しては新たな魔法陣が増えていくという戦場は次々と魔法陣が形成されて足の踏み場が無くなっていく。カレンとクララが魔法陣を踏み抜くことも一度や二度ではなく、その度に爆発から回避するために神速闘気を駆使して回避した。

 しかし、その全てを回避できる訳ではない。カレンもクララも爆発の余波を受けてボロボロになっていった。

 気を抜けない状況が続く。もし、仮に足を止めればその瞬間に無数の魔法陣が爆発して二人に回避不能のダメージを叩き込むことになるだろう。


「…………流石は、【爆殺の魔術士】といったところですか。風の触手エア・テンタクルス!」


「なるほど、爆発魔法陣の影響がないように直接仕掛けてきたってことか。クララさんの十八番、直接のパスを使わず遠隔発動ってことは再生能力のない風の触手ってことか。こんなおっさんに触手プレイとか需要はないと思うぜ? 極小規模連鎖爆発陣!」


 器用に無数の小さな魔法陣を展開し、風の触手の尽くを焼き尽くすジェイコブ。自らも僅かに爆発を浴びるが、痛痒に感じていないようだ。


「カレンさん、これ無理ですね。私の唯一の魔法――風の触手エア・テンタクルスが防がれたら、もう遠距離攻撃手段はありません」


「諦めるの早くないかしら!? ほら、裏武装闘気と風の触手エア・テンタクルスを組み合わせて攻撃するとか、遠距離がダメなら近距離まで近づいてジワジワ攻撃するとか、いくらでもやり方があるわよ!」


 『黒刃天目刀-濡羽-』に水を纏わせて火柱や爆発を切り伏せながらカレンが諦めムードに入ったクララにツッコミを入れる。


「作戦会議しているところ悪いが、俺にも筒抜けだからな? ってか、話していていいのかよ?」


「……まあ、かく言う私もジェイコブ料理長に対して打てる手はほとんどありません。逃げ続けていてもジリ貧ですし最後の賭けに出ますから、クララさんはできるだけ遠くに逃げてください」


「――ッ! 分かりました。手伝いに来て何も役に立てなくて申し訳ありません」


 クララはあっさりと退却した。途中幾度となく爆発魔法陣を踏み抜いたが、超人的なスピードで爆発を潜り抜け、煤塗れになりながらも逃亡に成功した。


「……結局、あの子は何をしに来たんだ?」


「ジェイコブ料理長が強過ぎるから、私もこういう手を打つしか無くなったんですよ。クララさんの助力はありがたかったですが、肝の風の触手エア・テンタクルスが通用せず、彼女自身が万策尽きたと思っている今、ここに留まっていただいても仕方ありません。……ジェイコブ料理長、ここで私と心中してください」


「可愛いカレンさんに頼まれたら断りたくねぇけどな……俺はジーノさんから声を掛けられてチームに参加している身だ。お前を討ち取り、俺は生き残る。俺のありったけの魔力で滅び去れ! 爆裂極大罠陣!」


 カレンの周囲を包み込むほどの巨大な魔法陣が展開される。ジェイコブは素早く魔法陣の範囲から退散すると、指を鳴らして魔法陣を起動させた。


「それを待っていました! 幻氷の大角礫・氷島」


 カレンが自分の全ての魔力を使い果たし、生み出したのは巨大な氷の礫だった。

 氷山にも匹敵する巨大な礫は爆発魔法を逃れて上空に打ち上げられ、カレンが爆発魔法に巻き込まれて蒸発するのとほぼ同時に落下――発生した爆発魔法によって溶かされて急速に気化し、水蒸気爆発となって魔法陣の範囲から逃れていたジェイコブをも吹き飛ばす。


「んにゃろ、ここまで計算尽くかよ!!」


 水蒸気爆発に巻き込まれたジェイコブも致命傷を負い、カレンとジェイコブの戦いは両者痛み分けで終わった。

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