百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜
Act.7-34 Somewhere……♪ scene.2 下
Act.7-34 Somewhere……♪ scene.2 下
<三人称全知視点>
帝都の表通りにて……。
「ここが帝都か!」
田舎の家族が持たせた海産物が詰まった袋片手にその青年はお上りさん丸出しの感想を抱き、キョロキョロと辺りを見回していた。
居合わせた帝都の住民達は「田舎者ね?」、「田舎者だわ」、「田舎者よ」と囁き合っているが、海で鍛えられたと自負するヴァルナーは決して動じた素振りを見せない。海の男はつまらないことでは動じないのだ。
……しかし、そんなヴァルナーも数時間後には顔を真っ青にしていた。
「……ま、迷った」
広大な帝都は田舎者には過酷な世界だったようだ。
方向音痴でもないヴァルナーだが、帝都の中で迷子になってしまった。
「こりゃ、どうすりゃいいんだ? 集合時間まで後一時間もねえぞ!!」
「……どうしたの?」
切羽詰まったヴァルナーの姿を不憫に思ったのか、将又単純にヴァルナーの声が煩かったからなのか? エナメル質の黒いセーラー服を着た、黒髪に真紅の瞳が特徴的な少女がヴァルナーに声を掛けてきた。小首を傾げた姿が可愛らしい。
「お嬢ちゃん、帝都の人だよな?」
「お嬢ちゃんじゃなくて、ネーラ=スペッサルティン。……それで、どうしたの?」
「いや、道に迷って……俺、帝都に来たの初めてなんだ。このメモに書いている場所に行きたいんだけど……」
「そこ、私も今から行くところだよ。一緒に行く?」
「……もしかして、同僚なの?」
「悪かった?」
「いや、そうじゃなくて……」
まさか、こんな少女が自分と同じ治安維持組織「ヴァナルガンド」のメンバーであるとは思いもよらなかったヴァルナーはネーラと名乗った少女に訝しむような視線を向けた。
自分を見縊ったヴァルナーの視線に気付いたのか、ネーラが訝しむ視線を向けた。
「もしかして、こんな女の子が戦える訳がないと思った?」
「いや……」
「人を見た目で判断するのは良くないと思うよ」
「そうだな……」
気まずい雰囲気の中、二人は帝城インペリアル……のお膝下にある治安維持組織詰所という建物に辿りついた。
「よく迷ったね。こんな分かりやすいところにあるのに」
「……悪かったな」
詰所の中にはいくつも部屋があった。その中で会議室と書かれた表札の掛かった部屋の扉を開ける。
中には既に先客の姿があった。その男は何故か壁に向き合うように机から背を向けて座っており、その手には本を一冊持っていた。
丈の長いボロボロなコートを着たボサボサの髪の男だ。僅かに垣間見えた容貌は中性的で、身なりを整えればイケメンとして通用するだろう。
「おや、もう来たのかい? まだ集合時間は随分とあるよ。君達もここに集められた口かい?」
「はい! 帝国海軍からこちらに転属することになりました、ヴァルナー=ファーフナと申します!」
「元暗殺部隊所属ネーラ=スペッサルティン」
「ご挨拶ありがとう。私はカルマ=スパルダ、元帝国の資料科の職員だよ」
ヴァルナーは戦闘員でもない文官が治安維持組織のメンバーに組み込まれていることに疑問を抱いた。
見たことのない衣装を纏った女の子に、文官――これで果たして、帝国を脅かすシャドウウォーカーという集団を討伐できるのだろうか?
「ところで君達、壁は好きかな?」
「…………はぁ?」
「私は壁が大好きだ。元来、壁は人の営みを遮るものとして疎まれてきた。しかし、少し発想を転換すれば壁は無限の可能性を生む。丁度、壁に絵画を描き、新たな世界を創造するようにね。壁の外にもまた世界がある。その外の世界と内なる世界は同一ということだ。壁とは遮るものではなく無限の可能性そのものであり、その材質は砂漠と同じだ。孤立と安心感が同居する壁は素晴らしい。いや、壁だけではない。無機物全てが世界で最も素晴らしいものだ。私が本を好んでいるのも無機物なのかもしれない……」
「……あの、何を言っているのか?」
「難しい話だったかな? まあ、私が壁フェチだと知ってくれればそれで十分だよ」
「はぁ……」
ネーラは全く興味が無かったのか、スースーと寝息を立ててうつ伏せで寝ていた。
「相変わらずだね。カルマさんは」
扉を開けるなり、幼い容姿の雀斑だらけの垢抜けない麦藁帽子の赤毛の少年はそう言葉を発した。
手にはパンの入ったカゴを持ち、その手にもパンを持っている。天真爛漫な笑顔が愛らしい少年だ。
「貴方もこちらに配属されたのですか? アルゴン=レイリーさん」
「まぁねぇ。初めまして、僕はアルゴン=レイリー、宮廷画家の一人だよ。カルマさんは帝都図書館で知り合った友達でね。……まさか、こうして同じチームで活動するとは思っていなかったよ」
「初めまして、帝国海軍から来たヴァルナー=ファーフナだ。……しかし、文官に宮廷画家って本当に大丈夫なのか?」
「えっ? 僕もカルマさんも強いよ? もしかしたら君よりも強いかもしれないね」
意味深な言葉を呟くと、アルゴンは席に座るなり再び食事を始めてしまった。どこに食べたものがいくのか、再現なく食べ続けている。
「こちらが集合場所ですわね」
「お邪魔しまーす」
アルゴンに続いて現れたのは、二人の対照的な女性だった。
一人は白いドレス姿で、帽子と日傘で顔が隠れている令嬢風の女性だ。部屋の中でも何故傘をさす女性は豪奢な黄昏の光が反射した稲穂に喩えたくなるほどの金髪を持っている。
露出は少なく、高貴な身分らしい気品が漂っている。
もう一人は真っ赤な露出度の高い魔女のような衣装を纏った赤毛の女性だ。部屋に入るなり、その衣装すらも脱ぎ捨て、堂々と下着姿で真昼間から酒を飲み始めた。
抜群のプロポーションであるが羞恥心が皆無なようだ。耐性のないヴァルナーは思わず目を背けてしまう。背徳感が募るヴァルナーを知ってか知らずか、赤毛の女性は「可愛いわね。食べちゃいたいくらい」と艶のある声で誘惑した。
「セリュー=アンテンさんと、フィーロ=トラモントさんですね」
「あら、ご存知でしたか? ええ、私はアンテン侯爵家の長女セリュー=アンテンですわ。ところでお二人は?」
「初めまして、帝国海軍から来たヴァルナー=ファーフナです」
「私はカルマ=スパルダ、元帝国の資料科の職員です」
「カルマ様に、ヴァルナー様ですわね。これからよろしくお願い致しますわ」
「ヒッ……可愛い坊やね♡ お姉さんのお膝で甘えてもいいのよ?」
「けっ、結構ですッ!」
「しかし、【影狸】に【紅糸】、【白墨】とは……今回は随分と頑張ったご様子ですね」
「どこがだよ!?」
「あらあら、もしかしてご存知ないのかしら? ここにいるメンバー全員――そちらの暗殺部隊から出向された方も含めて帝器使いですわ。貴方もそうですわよね?」
「……ああ、俺は「
「ええ、私は生物型の「
「あたしは「
「僕は「
「私は「
「……ああ、通りで。納得だよ」
帝器とは帝国を築いた初代皇帝、あるいは始皇帝の命により造られた皇帝を守護するための超兵器で、S級危険種やゾディアックメタルといった稀少な金属、太古に滅亡した国の技術など既に再現不可と言える物品や人材、技術を寄せ集めて生み出されたもので、その再現は不可能とされている。
その性能は強大で、一騎当千と言える力を発揮する。
最初は所属もバラバラ、武官でもない貴族令嬢、飲んだくれの薄着、宮廷画家、資料科の職員というメンバーに不安を覚えていたが、全員が帝器使いと知り、ヴァルナーが一気に安心したのはその性能を知るが故である。
だが、ヴァルナーの不安がこれで完全に消えた訳では無かった。
次に現れたのは腰辺りまで届く水色の長い髪を伸ばした、青い眼の幼い顔立ちの少女のような容姿の女性。
黒いコートをワンピースのように着た少女は席に座るなり灰皿を取り出して煙草を吸い始めた。
「……帝器使いで強いのは納得できますけど! キャラが大氾濫していませんか!!」
「何を今更」
「……何か文句があるのかな? 青年」
「青年って、俺、貴女よりも年上だと思いますよ!!」
「私は三十代だよ。見たところ、君は十代の青年のようだが?」
「えっ……嘘だろ。三十代……」
「ブルーベル=ヒュミラティ、帝国陸軍特務分室から出向した。ちなみに、帝国工作部隊所属のフィーロは私の飲み仲間だ。……おい、フィーロ、飲み過ぎだぞ。お前は酒に弱い癖に強い酒ばかり手を出すからな?」
「ヒャッ……ブルーベルちゃん♡ 今日も可愛いわね♡」
「こいつは素面だと頼り甲斐があるが、素面じゃなければ雑魚と成り果てるからな。任務の際には酒を隠しておくことをお勧めする」
そのままブルーベルは持ってきたマイカップにフィーロの酒を注ぐと、そのまま一気飲みした。
「……分かってはいるんだが、事案に見えてしまうのは俺だけか?」
「……君も早く慣れた方がいいよ、帝器使いは良くも悪くもキャラが濃いからね」
モグモグと口を動かしながらアルゴンはフォローになっていないフォローをした。
部屋に入る前から現在まで食べ続けているアルゴンも含めてキャラが濃いの一言で片付けられないようなメンバーが揃っている。
「失礼します! 帝国警備隊から参りました! サンセール=ジュライであります!!」
「帝国地下刑務所教誨師のローウィ=デュマガリエフです。
そして、「
その後、メンバーの力量を図るため悪漢のフリをして会議室に乱入したグランディネとの戦いという予想外の出来事もあったが、治安維持組織「ヴァナルガンド」のメンバーは皇帝の代理である宰相に無事謁見し、その日から治安維持と革命軍の討伐の任につくことになったのである。
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