百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を賭けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜
Act.7-21 影の歩行者達との邂逅 scene.2
Act.7-21 影の歩行者達との邂逅 scene.2
<三人称全知視点>
アクアは剣には武装闘気を纏わせず、全身に薄く武装闘気を纏って防御を固め、ディランは刃に武装闘気を纏わせていた。
「まずはこっちから仕掛けさせてもらおうかな?」
そう言うや否や、アクアは地を蹴って加速――目にも留まらぬ勢いでプルウィアに肉薄し、素早く斬撃を放った。
プルウィアは咄嗟に「妖刀・叢雨」を盾に斬撃から身を守るが、アクアの重い斬撃はプルウィアを軽々と壁まで吹き飛ばす。
しかし、ここでそのまま為されるがままに吹き飛ばされ、壁に激突するという最悪の開幕早々の幕引きにならないのが、流石は帝国の暗殺部隊出身というべきか。吹き飛ばされた勢いのまま壁まで飛ばされながらも態勢を整え、そのまま壁を蹴って加速――弾丸のような勢いで飛び出しながら刀を構え――。
「
そのまま刀を高速で振って真空の斬撃をアクアに放ちつつ、アクアに斬撃が届く位置に至った瞬間に素早い疾風のような連続の斬撃を繰り出した。
幼少の頃から暗殺者として育てられてきたプルウィアは実力が非常に高く、圧倒的なスピードと華奢な見た目からは想像がつかない重い斬撃を誇る。並みの人間であれば少し斬り結ぶだけで簡単に押し負けてしまうだろうが。
「なるほど、いい剣だ。俺の騎士団に即決で採用したいくらいだな……って、今の俺はメイドだったか。だけど、それじゃあ俺を倒せないぞ? 俺はもっと強い剣技を知っている。昔の
真空の刃を斬撃で相殺し、その後のプルウィアの斬撃も全て
そのままニヤリと笑ったアクアは防戦から一気に攻勢へと切り替え、オニキスの頃得意としていた力任せの瞬殺を放った。
その威力は全く強化していないため、オニキスには遠く劣るものだった……が、プルウィアの手から「妖刀・叢雨」を吹き飛ばすには十分だった。プルウィアの手から離れた「妖刀・叢雨」はくるくる回転しながら床に突き刺さる。
◆
「さて、相棒の足を引っ張る訳にはいかねぇし……来いよ? おじさんの本気、見せてやるからさ」
「余裕綽綽だな。その余裕がどれだけ持つか見ものだぜ!」
ディランと距離を詰め、高速突きを放つリヴァスの攻撃をディランは涼しい顔で
「なかなか素早い刺突だな? だが、俺の知っている刺突技使いはもっと速い攻撃をしてくるぜ?」
ニヤリと笑ったディランは、そのまま「
オニキスのライバル――ポラリスの刺突に対抗する技として漆黒騎士団の面々には馴染みがあった攻撃だが、リヴァスにとっては予想外の一手だった。慌てて「
「逃すかよ!」
一旦体勢を立て直すべく後退の一手を打ったリヴァスの弱気につけ込む形で、ディランが
楽しさ一色の表情で、全く力むことすらなく軽く撫でるように振るわれたにも拘らず、その斬撃はリヴァスの目で残像が見えないほど素早かった。
感覚に頼って剣を振るっても、ディランの斬撃がその上を行く。突きを知り尽くしたディランの涼しい顔からは想像もつかない嵐のような斬撃の応酬は確実にリヴァスを追い込んでいく。
それでも、見かけ上はディランとリヴァスは互いに傷を負っていない拮抗状態のまま戦いを続けていた。だが、ローザやアクア――強者相手なら出し惜しみせず使う《影軀逆転》のような奥の手、どころかディランの主力たる《影》を一切使わず剣一振りだけで戦っている時点で実力が拮抗している、とは言い難い。
残る手札は一枚――防がれれば一気に劣勢に追い込まれるハイリスク・ハイリターン(他の帝器の攻撃と比べたらローリターンに区分されるのかもしれない)奥の手を隠し持つリヴァスと、武装闘気という手札一枚しか切っていないディラン――どちらが優先かは誰の目から見ても明らかだ。
「――ッ! 奥の手・
このまま戦っても勝ち目はない――そう判断したリヴァスは切り札を切った。
「
「――覇者鳴神ッ!」
だが、その予想外の奇襲技を前にしてもディランは全く動じなかった。
「
リヴァスにはまだ二本の刃が残っていたが、自分とディランの間に存在する圧倒的な実力差を自覚し、アクアと交戦していたプルウィアが負けを認めたこともあって、大人しく刀身のない「
◆
<一人称視点・ラナンキュラス/ビクトリア・
「それじゃあ、予告した通り最も苦痛を感じるやり方で殺させてもらうよ。護光結界。【万物創造】、ホスゲンオキシム」
特定の霊符を複数枚使用して展開できる物理防御と邪を払う効果を持つ結界を【練金成術】を駆使して瞬時に張り巡らせ、その内部をホスゲンオキシムで満たす。
ホスゲンオキシムとは腐食性と掻痒性の性質を持つ糜爛剤に分類される化学兵器の一種で、ハロゲン化オキシム剤の中で最も毒性が強く、マスタードガスよりも皮膚への刺激性が高い化学兵器。その作用は二度の大戦では使用されたことがないことから不明とされているけど、化野の実証実験によって、裏付けがなされている。
人体の表面に付着すると加水分解によって塩酸とアルデヒド基に分離され、塩酸が皮膚や粘膜を焼き、アルデヒド基がタンパク質の側鎖のアミノ基と反応を起こし細胞を壊死させる。
皮膚は三十分以内に皮膚発赤が現れ、二十四時間前後で皮膚が壊死し爛れ、三週間以上は爛れが続く。
眼は激しい痛みを伴い浮腫と眼瞼痙攣を起こし、曝露量が多いと失明する場合がある。
呼吸器は肺水腫を起こし、酷い場合には肺血栓症を起こして死ぬ。
消化器系は胃腸などから出血を起こす。
その他、金属類――鉄などの金属と接触すると非常に不安定になり分解しながら腐食させると言った効果を持つ。
このホスゲンオキシムで満たされた結界内を時間加速魔法を使って加速――顔が爛れる熱さと痛みを感じ、断末魔を上げながらジョンとヴェッキオは転げ回り、その動きすらも加速されていく。
そして、開始から約二十四時間分の時間が経過したところで加速を止めると、完全に目が潰れ、皮膚もドロドロに爛れ、激しい痛みに苛まれた哀れな者達が痛みに悶えながら転がっていた。
「「だ、だずげでぐれ……」」
「嫌だねぇ。君達ができるのは君達の罪を懺悔しながら死ぬことだけだ。まあ、ボクに君達を裁く正当性があるかどうかは定かじゃないけど、ボクにとって、ボクの家族との繋がりを、大切な記憶を穢されるのは最大級の苦痛なんだ。人間の命を奪っていい、正当な理由と言えるほどねぇ。……さて、そろそろ消えてもらおっか? これ以上顔も見たくないからねぇ」
断罪を締め括るべく、「ブラックホール・フェイク」を発動する。結界諸共ホスゲンオキシムとジョンとヴェッキオを飲み込むように黒い球体が出現し、小さくなっていくと共に猛烈な空気が流入し、突風が吹き荒れた。
その突風も空気が流入し切って安定すると同時に止み、最初からその場に誰もいなかったかのように、「ブラックホール・フェイク」に飲み込まれた二人は影も形も無くなっていた。
◆
アクアとディランがプルウィアとリヴァスを撃破し、ボクの方もジョンとヴェッキオの断罪を終え、ようやくスラム街の奴隷売買の一件は一区切りを迎えた。
といっても、問題はここから――プルウィアとリヴァスを説得して暗殺集団シャドウウォーカーに接触するなり、それが無理なら少々手荒だけど二人を人質として扱うなりして、暗殺集団シャドウウォーカーと協力関係を築かなければならない。……とは言ったものの、今の状況で彼らにとってのボク達の心証は最悪。
奴隷を売買する悪徳貴族と、糜爛剤を使って苦しめながら殺害してから遺骸を跡形も消し去った謎の女と仲間達……どっちもどっちだからねぇ。ボクの行いも外道の所業と見られても仕方ないものだし、実際にそうだからねぇ。弁解のしようがないなぁ。
「さて、なるべく穏便にしたいからねぇ。ボクも手荒な真似はしたくないし。……君達の選択肢の一つはこのままアジトまで連れて行ってピトフューイさん達に取り次いでくれること。そっちの方が互いのためだと思うけど、それが嫌なら君達に人質になってもらうしかないねぇ。勿論、危害は加えないけど心証は最悪。結果として交渉決裂……なんてことになったら、ボクもプランBに移行しないといけないしねぇ」
「お嬢様、プランBってなんですか? 全くそんな話聞いていませんが」
「情報が出回る前に皇帝を殺す。そして、その成果と罪を革命軍と暗殺集団シャドウウォーカーに押っ被せられるなら押っ被せて、本国に帰還する。今回の件は外交の面ではかなり黒寄りのグレーゾーンだからねぇ……万が一知られれば周辺国からの批判を受ける可能性もある。同盟国はその限りじゃないけど、シャマシュ教国辺りは騒ぎ出すんじゃないかな? まあ、何も手が打てなくなったら証拠も残さず帝都を消し炭にする……なんて手も考えないといけなくなるけど」
「この帝都を破壊できるほどの力か……ローザ、それは戦略級魔法かな?」
「メネラオスお爺様はいい線いっているけど、ちょっと違うねぇ。基本はさっきの糜爛剤と同じだよ。帝都全域を特殊な結界で覆って、帝都の上空に化野さん作の反物質爆弾を【万物創造】で放り込む。結界によって外部への放射線流出を避けるけど、内部は逃げることができない灼熱と放射線によって地獄と化すだろうねぇ。まあ、あくまで最終手段――罪無き帝国民の命を奪うようなことはボクだってしたくないからねぇ」
実行する気はない……けど、策の一つとしては頭の片隅に留めているっていう感じだねぇ。ただ、「
それで逃げられたら、帝国民犬死じゃん。……まあ、この作戦には実行せずとも発揮するもう一つの効果があるんだけど。
「……つまり、俺達が案内しなければ帝都を火の海にすると、そういうことか?」
「まあ、そう考えてくれていいんじゃないかな? ボクは君達が賢い選択をしてくれると信じているけどねぇ。ねぇ、リヴァスさん? プルウィアさん?」
これ以上ないほどの最強の脅し、というもう一つの効果がねぇ。
悪政から民を解放するべく、帝国腐敗の根源を絶とうとする暗殺集団シャドウウォーカーが民を危険に晒すような選択をする訳がないよねぇ?
「……分かった。アジトに案内してリーダーと面会できるように話をつける。……だから、俺の仲間達には絶対に手を出すなよ!」
「本当に信用ないねぇ、ボクって。……ボクがそんなことする訳ないでしょう? 全く、ボクをなんだと思っているんだい?」
プルウィアとリヴァスが「始まりの街で出会った天変地異を鼻歌でも歌いながら適当に巻き起こす野生のラスボスに、『俺、別にそんなに危険な奴じゃないよ?』って言われた」みたいな信じがたいものを見るような目を向けられ、アクア達には「相変わらずローザお嬢様は、ローザお嬢様しているなぁ。ニコニコしながら息を吸うように脅しているし……まあ、お嬢様はこう見えてかなり優しいから酷い目に遭わされることはないだろうけど」って、プルウィアとリヴァスに少々同情するような視線を、ボクに「安定のお嬢様だな」という生温かい視線を向けられたけど……これ、どう反応すればいいの!?
ボク別に日常的に人を脅してないよねぇ!? 全く、風評被害が甚だしいよ!
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