百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を賭けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜
Act.7-19 アフラの村発ルヴェリオス帝国行きの不定期乗り合い馬車 scene.1
Act.7-19 アフラの村発ルヴェリオス帝国行きの不定期乗り合い馬車 scene.1
<一人称視点・ラナンキュラス/ビクトリア・
戦死者を葬ったり、目撃者に呪いを掛けて口を封じたり、身寄りのない女性達を修道院に預けたり――などの戦後処理を終え、ナタクの村を出発できたのは次の日だった。
『妖刀・紅月影』を左に、「
ボク達はナタクの村を出発してからしばらく進むと見えて来るアフラの村に向かい、そこから帝都行きの乗り合い馬車に乗った。下手に自前の馬車で行くよりも、乗り合いの馬車を使った方が目立たないからねぇ。
皇帝を最短距離で仕留めたいなら、空から奇襲を仕掛けて絨毯爆撃で先制攻撃――敵を炙り出しつつ抗戦して、皇帝を引き摺り出すっていうのが一番楽だけど、今回は革命軍が革命を成功させたという体を装う必要がある。極力目立たないためにもこれがベターなんだよねぇ。
鼠のようなら小物臭漂う馭者の男に乗車賃の帝鋳銅貨を支払った。何やら下卑た表情を浮かべていたし、不穏なことを考えていることが見気で分かったけど、まあ帝都について何かしらのアクションを起こして来るのなら返り討ちにして死体を処分すれば問題ないし、大丈夫じゃないかな? しかし、やっぱり治安が悪いねぇ、ルヴェリオス帝国。
乗合馬車はボク達だけで満席になった。他に乗り込む人はなく、馬車はそのまま帝都に向けて出発する。馭者の男に警戒されないように事前に会話を一切しないという取り決めをしていたため、馬車の中は沈黙に包まれていた。
そもそも、馭者の男はボク達が一つのグループであることも知らないだろうねぇ。別々に乗り込んだし。
馬車は五、六時間を掛けて帝都に入った。
特に検問もされることなく馬車は帝都の門を通過――しかし、全く降ろす気配はなく表通りから裏通りに入り、更にどんどん奥へ奥へと進んでいく。
やがて、一見華やか帝都にあった不浄を全て放り込んだスラム街に辿り着いた。その一箇所で馬車は止まった。スラム街には似つかわしくない、小さいとはいえ屋敷のような建物だけど、飾り立てられてはいないみたいだねぇ。一見すると廃屋にも見えるけど、よくよく見れば手入れされていてボロボロになっているところはない。……スラム街との同化を狙った明らかな工作だねぇ。
「あの……ここは一体どこでしょうか?」
とりあえず惚けてみる。ボクを含め、この場にいる全員が全く気取られないように臨戦態勢を整えているけど、確証を掴むまで動くつもりはない。
アクア達に「また猫被っているよ」とジト目を向けられながら、ボクは何も知らない哀れな田舎の女性を装って尋ねてみた。
「全く、何も知らないというのは素晴らしいことだ、ここまで来てもまだ騙されたと気付かないとはおめでたい奴らだ。お前達はこれから奴隷として売られる。男は労働力に、女は慰み者として働いてもらう。だが、今回は売り飛ばすのには勿体ない上物が沢山いる。後で知られて首を飛ばされたくないから、ヴァルファレッド伯爵様と相談しなければならないが、少しぐらいは味見をさせてもらうこともできるだろう。それくらいの恩恵はあっても良い筈だ。特にお前、お前は美女で素晴らしく身体を持っている。女は須く男に奉仕するためだけに存在している。お前も最高に名誉だろう? 俺達のためにその身を使うことができるのだからな。クフフ、すぐにどうしようもなく淫らな女に変えてやる、楽しみにしておけ」
欅達がこの瞬間にもこの馭者男の頭を真っ二つにして、安らかさの欠片もない残酷で苦痛に塗れた死を与えかねないほどの猛烈な殺意を滾らせていたけど、視線を送ってやめさせた。
こんな小物を殺したって何にもならない。折角、ヴァルファレッド伯爵とやらに会わせてもらえるのだから、どうせなら元凶諸共真っ赤な血で彩ってあげた方がいい。
こいつらの最大の罪は、ボクのラナンキュラスを情欲を満たすための道具として見たこと。墜ちるところまで堕ち、壊れるところまで壊れた正気度がマイナスに突入しているボクが今更快楽によって理性を崩壊させ、娼婦になって快楽を貪るなど万に一つもありえないけど、そのような皮算用をして、毒牙にかけようとした――その事実がある時点で、既に万死に値する。
家族のためならその身を捧げることも厭わないボクだけど……それでも、受け入れられないことはある。家族との沢山の思い出が詰まった、ボクの大切な、大切な大切な大切な、大切なボクの分身達を例え空想の中であったとしても、汚すような考えを抱いた時点で、そいつにのうのうと生きる権利はない。惨たらしく、苦し抜きなどという慈悲もなく、最も苦痛を感じるやり方で息の根を止める。
しかし、こいつ全く殺気に気づいてないねぇ……やっぱり阿保か。まあ、ボク達の強さも測れず、ただの哀れな田舎女達と田舎男達と見ている時点で小物なのは明々白白だけど。
まあ、殺すことが確定している人間が賢かろうと馬鹿者だろうと関係ないか。
◆
廃屋に偽装した小さな屋敷には、質のいい赤を基調にした紳士服に身を包んだ貴族風の男がいた。
大凡スラム街には似つかわしくない身なり――恐らく、奴隷売買の隠れ蓑としてこのスラムを利用しているんだろうねぇ。
「ヴェッキオ、今回は珍しく当たりだったようだな。貧乏な辺境の村の出身者としてはなかなか素晴らしい……いや、ここまでの美貌を持つ者は美形の多い貴族の中でも珍しいか。この銀髪の女は私がもらおう。後の綺麗どころは……迷いどころだな。まあ、全て私がもらってしまうと金にはならないし、選別してから上者の奴隷として売ればいいだろう」
「あの……私には」
「ん? 元々この奴隷は商品だ。お前には安くない賃金を払っているのだから、これ以上に何を望むというのか? まさか、この奴隷を誰か一人でも自分のものにしようと思ったのか? 愚かな考えを抱くな、お前はお前の仕事を全うしろ」
……あっ……これかなりまずいかもねぇ。スティーリア達も必死で自制心を働かせて怒りを抑えているみたいだけど、いつ暴発しても仕方ないところまで来ているし、先代公爵家は自制なんて言葉知らないような自由奔放な人ばっかりだからねぇ。……なんとか言い含めておいたから動いていないけど……って、ディランが「親友にそんな卑猥な視線を向けやがって! ぶっ殺してやる!!」って、すぐに剣を抜いて襲い掛かろうとしているし、限界値だし……まあ、言質取れたから攻撃してもいいんだけど、このままだとボクがぶっ殺す前にラナンキュラスを貶めたこいつらが殺されてしまう。
アクアが、ディランが、プリムヴェールが、マグノーリエが、欅が、梛が、櫁が、椛が、槭が、楪が、櫻が、スティーリアが、スピネルが、カルメナが、フレデリカが、ジャスティーナが、メネラオスが、リスティナが、マナーリンが、マイルが、アンタレスが、シュトルメルトが――それぞれがそれぞれの理由を胸にジョン=ヴァルファレッド伯爵と馭者男ヴェッキオに攻撃を仕掛けるコンマ一秒前に素早く二人の足元を凍らせて自由を奪った。
「悪いけど、こいつらはボクがもらうよ。ラナンキュラスを汚した罪は大きい。惨たらしく、苦し抜きなどという慈悲もなく、最も苦痛を感じるやり方で息の根を止める……この決定に君達も思うところはあると思うけどねぇ」
「……仕方ねぇな。親友にそういう視線を向けた奴は俺の手で殺したかったが、まあそういうことならわざわざ主張するつもりはないぜ? 俺自身が別に被害を被った訳じゃないけどな……まあ、親友を貶められるのは我が身を切り裂かれるよりも辛いことだが」
「……ディラン。……俺は大丈夫だから安心してくれ。こういう奴がいることは覚悟の上だったからな。それに実害を被った訳じゃない。まあ、許せないって気持ちがない訳じゃないがな」
「…………マグノーリエさんにこのような汚らわしい視線を向けた奴をこの手で滅ぼせないというのは辛いことだが……。ローザの頼みということなら仕方ないな」
「私は別に大丈夫です……それよりも、プリムヴェールさんにそのような視線を向けた、弄ぼうとしたことが許せません。ローザさん、よろしくお願いします」
『『『『『『『……お姉様がそう仰られるのなら』』』』』』』
『……本来ならば、私はローザ様よりも先にこの不埒者を断罪すべきでしたわ。言質が取れた後はいくらでも殺せる瞬間はありましたが、先に王手を掛けたのはローザ様です。……私はローザ様を侮辱した屑共を皆殺しにしてしまいたかったですが致し方ありません。どうぞ、思う存分殺して差し上げてくださいませ』
「……まあ、一番被害を被ったのはローザだからな。お前が始末することに不服を唱えられるものはいない」
「……ローザ様、とっととそのキモ男共、始末してください。汚らわしいです」
「……まあ、こういう視線に晒されたことも何度かありますが……こう露骨に向けられるのは。気分が悪いですね」
どちらかといえば、向けられた視線や掛けられた言葉に対する嫌悪感から直結した殺意というよりも、楽しく殺してやりたいという気持ちが強そうなメネラオス達も今回は引き下がってくれた。
足元が凍結し、逃げるに逃げれなくなった、支配者から一転生殺与奪を奪われる側に回ったジョンとヴェッキオが「一体どうなっている! どこで間違えたんだ!」という視線を向けてくる中、ボクはヒールの音を床に反響させながら二人に近づいた。
◆
一つしかない入り口の扉が切り裂かれ、二人の男女が部屋に突入した。
青みがかった銀髪の長髪に
「どうやら、わざわざ会いに行く手間が省けたみたいだねぇ。プルウィアさん、リヴァスさん」
二人が顔に驚愕の色が浮かべる中、ボクは二人の方に振り返り、優しく微笑み掛けた。
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