百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜
Act.6-36 ドゥンケルヴァルトの開拓村と、魔女の森の魔女の女王様と弟子 scene.2 中
Act.6-36 ドゥンケルヴァルトの開拓村と、魔女の森の魔女の女王様と弟子 scene.2 中
<一人称視点・アネモネ>
「さて、建前はこれくらいにして、本題に入りましょう。……ユリア=ウィリディスさんってご存知ですか?」
エリオールの表情が、僅かに陰った。レジーナはボクの眼を凝視し、ボクの真意を探り……結局、見当がつかなかったようで、小さく舌打ちをした。
「ああ、よく知っているよ。あたしがまだ王女様だった頃に宮廷魔法師の一人で庭園を統括する庭師だった。【庭園の魔女】っていう異名で呼ばれていて、人当たりも良くて根強い人気があった。……あたしもよく彼女の庭園に遊びに行ったことがある……あの頃のあたしは公務や淑女のマナーの勉強に嫌気が差してよくユリアのもとに遊びに行った。邪魔をしていることは分かっていたけど、困り顔をしながらも迎えてくれた彼女の暖かさが嬉しかった……全く、柄にもないことを言わせるんじゃないよ。……よく知っているんだろ、アネモネ。あたしはユリアを戦いに巻き込んでしまったことを後悔して、あの腐った国から抜け出した時に今度は自由に生きて欲しいと一緒について来てくれた彼女と別れた。……それから、あたしも手に職をつけなきゃならなかった。魔法の腕を磨き、冒険者として活動するようになった。あの二人のバカ王子と出会ったのはその頃だよ。あのバカ共に振り回されるうちに元の性格のままじゃいられなくて、適応するうちにこういう偏屈な性格になっちまったって訳さ。まあ、元々こういうところがあたしにはあったんだろうけどねぇ。……ユリアの真実を知ったのもこの頃さ。彼女の正体が性別不明、年齢不明、本名不詳の伝説の暗殺者『ジェーン=ドウ』だってことを……正直、裏切られたと思ったよ。いや、そもそもの原因はあたしにあるから逆恨みもいいところだけどね。あたしはユリアのことを知っているつもりだった。……あの頃は何も教えず、あたしのわがままに付き合ってくれた、あたしの唯一の理解者があたしに隠し事をしていたことが許せなかった。……あたしは、ユリアの全てを受け入れるつもりだったのにって……本当にそんな心構えができていたか、今のあたしからしたら無理だと思うけどねぇ。あの頃のあたしはまだ純粋だった……きっと、大好きな人が犯罪者だと知ったらきっとユリアを拒絶していたと思う。……あの頃のあたしは結局、勇気がなかったのさ。だから、あたしは自由に生きて欲しいなんて言ってしまった。……あの頃のことは後悔しているけど、今更どうしようもないだろう?」
「だから……もうこれ以上、
「……なんだい、悪いかい? 他人にそんなことしゃしゃくされる言われはないよ!」
「いやぁ、似た者同士だと思ってねぇ。相思相愛で二人とも不器用で……本当に見ていられないねぇ」
「何を言ってんだい!」
「エリオール=ジィルディー……いや、ユリア=ウィリディス。お姫様がここまで気持ちを正直に話してくれたんだ、それに応えない意気地なしだったら流石にボクも幻滅するよ」
レジーナの目が僅かに見開いた。
エリオールが一瞬のうちに早着替えをしてしまい、長い金色の髪を持つゆるふわな女性の姿になった。
「……私は名も無き小国の貧しい家で生まれ、生きるために暗殺者として活動し続けてきました、暗殺者以外にも、諜報や潜入など……私はニウェウス王国の生まれではありません。依頼を受けてユリアとして潜入していたのです。その時に出会ったのがレジーナ様でした。……断っておきますが、私はレジーナ様の暗殺を依頼されていた訳ではありません。別の目的で潜入していました。しかし、今となってはさほど重要ではない話なので割愛します。……私は目立たず密かに任務をしていれば良かった。しかし、おてんばなお姫様に私の仕事場に度々侵入され、一緒に過ごしているうちに貴女と一緒に居られたらと思うようになりました。……これは本心です、私はレジーナ様に惹かれていた、貴女のことが大切だった、好きだった。……もう全てが終わったことです。私は結局本当のことを言えぬまま、貴女の元を去った。その罪悪感から暗殺者としての仕事に没頭しすべて忘れようとした、そういう人間です。幻滅しましたよね……恨まれても仕方がない。私は結局、心の底から大切に思ってくれていた貴女を騙し続けて、裏切り続けていた訳ですから」
「…………」
「……何がもう遅いだよ。今更どうしようもないだよ。いい加減にしなよ。御託はいい、結局どうしたいんだよ。レジーナさんはユリアさんのことを大切に想っていた。ユリアさんもレジーナさんのことを大切に想っていた。それが全てなんでしょ! 過去のことなんてどうでもいい、いや、どうでも良くないかもしれないけど、それよりも重要なのはお互いの気持ちに正直になることじゃないの? ボタンの掛け違えは往々にしてある、重要なのはその掛け違えを直すか直さないかだよ」
「……すみませんでしたレジーナ様。私は怖かった……レジーナ様に幻滅されるのが、怖くてずっと自分の過去を隠してきた。それでも、私の気持ちだけは真実です。私は今もレジーナ様のことを愛しています!」
「謝るのはこっちの方よ……ごめんなさい、私はユリアさんがジェーン=ドゥだって確信していたのに、情報を手に入れようと思えば手に入れられたのに、ずっと目を逸らしてきたわ。……地位も何もない、ただの魔女になっちゃったけど、それでもいいなら。……私も、ユリアさんのことが好きです」
何十年もの歳月を掛けてようやく実った恋。レジーナの姿は随分変わったけど、ボクの目には可愛らしいお姫様とメイド服姿のゆるふわ美女が優しく微笑みあっているように見えた。
◆
「で、
「……まぁ、そうなんだけどねぇ。一人興味深い人がいるから話を聞いておいた方がいいんじゃないかな、と思ってねぇ」
「お嬢様、今回は俺も分かりました。……リィルティーナさんのことですよね?」
ボク達に一気に視線を注がれたリィルティーナが大きく後退った。
「まあ、そう怯えなくてもいいじゃないかな? 取って食う訳じゃないんだから。……ラインヴェルド陛下もオルパタータダ陛下も知っていることだし、ついでにレジーナさんにも説明するからよく聞いてねぇ。まぁ、聞いたら二度と知る前には戻れないけど」
アカウントを切り替え、ローザに姿を変える。リィルティーナは大きく目を見開いて驚き、レジーナは僅かに眉を動かした。
「ラインヴェルドとオルパタータダが気にいる訳だよ。あんた、転生者だね……しかも、特殊な」
「まあ、特殊な転生者がどういう定義によるものかは分からないけど、リィルティーナさんみたいな転生者が普通の転生者という扱いなら、ボクは確かに特殊な転生者かもしれないねぇ。ここには二人転生者もいるし、リィルティーナさんからも事情を聞きたいから情報交換をさせてもらってもいいかな?」
ボクからは三十のゲームによって産み落とされたこの世界の真実と、百合薗圓とローザ=ラピスラズリとしての足跡、この世界に今後訪れる可能性の高い脅威と『管理者権限』を持つ神との戦いの現状について説明し、アクアとディランからはフォルトナ王国で起こった一連の事件について前世を絡めて説明がなされ、リィルティーナからは自身の前世と転生後レジーナの弟子になるまでの経緯が説明され、レジーナがリィルティーナの話に補足を入れた。
リィルティーナは三年前に彼女が生まれた村が壊滅した際に通り掛かったレジーナにたった一人の村の生き残りとして保護されたらしい。
その頃に前世が日本という国の平凡な男子高校生、
同じ転生者でも、大倭秋津洲帝国連邦のある地球とは別の世界の地球出身者ということで、大倭秋津洲の歴史については同郷出身者以上に説明に時間が掛かった。色々と興味深いところがあったみたいで根掘り葉掘り聞かれたからねぇ。まあ、歴史のifを聴いて比較を楽しんでいる感覚なのかもしれないけど……かなりズレていて、そもそも比較の俎板にすら上がらないものだとボクは思うけどねぇ。最早コピー元の地球とは別のものに成り果てているし、そもそも綾瀬の前世の地球がコピー元の地球かも分からないからねぇ。
レジーナの補足によれば、リィルティーナは魔王軍との大戦で死亡したとされる伝説の聖女クラリッサ=オーランジェの子孫ということらしい。
レジーナが焼け跡から発見した古文書によれば、実は聖女としての立場に押しつぶされそうになっていたクラリッサは聖女ではなく一人の少女として自分を認めてくれた青年と共に、当時の魔王軍と幹部を討伐すると同時に戦場から逃亡し、彼と結婚、その後はクラエス=レイフォトウムと名を変えて戦いとは無関係のところで天寿を全うしたそうだ。
恐らくだけどその古文書は語られてはならない歴史を後世に伝えるために一族で継承してきたものなんだろうねぇ。
リィルティーナが襲われたのは今から三年前、リィルティーナが初めて魔法を使ったその日なのだそうだ。
行使されたのは光魔法……その膨大な魔力は遠方からレジーナも感知できたほどで、レジーナはその光の魔力に白熱灯に虫が集るように本能に身を任せて魔物が集まったのか、その強力な光魔法を脅威と受け取って始末に動いたのか、いずれにしてもその魔法がリィルティーナの村の壊滅に繋がったのではないかと考えているらしい……まあ、話を聞く限りそうだとしか思えないけど。
とはいえ、光の魔力を魔物が脅威として感じているかどうかといった調査はしていないからねぇ……欅達に聞き取り調査すれば多少は魔物側からの認識が分かりそうだけど、ボクが光魔法を使っても大して驚いてはいなかったからねぇ。魔物全般というより、襲った魔物がたまたま光属性を弱点にしていたっていう可能性の方が高そうだけど。
レジーナが素質を認めて弟子にしたのもその膨大な魔力とクラリッサの先祖返りみたいな強大な光魔法を感じ取ったからみたいだねぇ。……その適性が火、水、光、空間の四属性だってことは後々になって分かったみたいだけどさ。
ちなみに記憶を取り戻したのは魔物による襲撃から生き延びた後らしいけど、光魔法を使った時の記憶はあるらしい。リィルティーナは随分と後悔しているみたいだねぇ。ボクはそういう結果になるなんてその時点では誰の想像にも無かった訳だし、そもそも綾瀬奏多としての記憶も戻っていない普通の二歳児だったんだから仕方ないとは思うんだけど、まあそう簡単に割り切れるものでもないよねぇ……。
情報交換は終わり、ボクは次のステップに進むことにした。
ボク達とレジーナ達の今後の関係についてや、レジーナの弟子メリダに関する話もしておきたいからねぇ。
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