Act.5-29 第一回異界のバトルロイヤル 最終決戦 scene.1 下

<三人称全知視点>


「――《蒼穹の門ディヴァイン・ゲート》!」


 ラインヴェルドはニヤリと笑い、ナイフをリーリエの足元に投げた。

 と同時に《転移》の魂魄の霸気を発動――リーリエの目の前に転移する。


「――魂魄の霸気!」


「サンキュー、アクア。さて……これでゲームオーバーだ!」


 双眸を炯々と輝かせ、獰猛な笑みを浮かべたラインヴェルドが、光と焔の魔法が魔力が支配下に置かれたことで消失した状態で聖紋と武装闘気と覇道の霸気を纏わせた『ノートゥンク』と『真なる王の剣ソード・オブ・ジェニュインレガリア』でアクアの《昇華》の魂魄の霸気で強化された高速斬撃を放つ……が。


「そう来ると思っていたよ。――渡辺流奥義・颶風鬼砕! 千羽鬼殺流奥義・北辰!」


 リーリエは『漆黒魔剣ブラッドリリー』を抜き払うと、武装闘気と覇道の霸気を纏わせて鋭い風の刃をイメージした霊力を武器に宿し、勢いよく抜刀して横薙ぎすると同時に爆発させて周囲全てを斬り捨てる渡辺流の鬼斬の奥義と斬りたいものを斬り、斬りたくないものは斬らないという斬るものを選別するという千羽鬼殺流の奥義の合わせ技を放った。

 圓が生前から気に入っている鬼斬のコンボ技だ。しかし、そこに武装闘気と覇道の霸気が加わったことで威力が大幅に向上している。


 ラインヴェルドは咄嗟に二刀を防御に回した……が、「千羽鬼殺流奥義・北辰」の効果で剣による防御は意味を為さず、爆発的な破壊をもたらす風と、鋭く切り刻む風と化した霊力と風を染め上げる黒い武装闘気、黒い稲妻と化した覇道の霸気によって容赦なくHPを全て削られた。


「今の大魔導覇斬はラインヴェルド陛下に《蒼穹の門ディヴァイン・ゲート》を使わせるための布石だったのですね」


「まぁねぇ。三人纏まっていたら簡単には崩せないし、各個撃破の方が楽だと思ったからまずはラインヴェルド陛下から狙い撃ちしたってこと。あの《転移》は厄介だからねぇ。さて、次はディランさんだよ。君の《影》も厄介だからねぇ」


「言うと思ったぜ。悪いが俺は親友のためにも負ける訳にはいかねぇんだ。悪く思うなよ、親友ローザッ!」


 ユニークシリーズ『群雲のコート』のスキル【幻影・霧雲影】を発動して、生み出した霧から自身の分身を作り出すと、ディラン本体はユニークシリーズ『群雲の打刀』のスキル【虹柱】を発動した。

 質量を持つ虹を生成できるというこのスキルは途轍もなく凶悪な性能を誇る。厚さという概念もなく、温度もなく、無音で伸びる虹はそれだけで凶器となる。刃物サイズで使えば武器としても使え、厚さが全くないためそのまま突き刺しても鋭利な凶器となる。また、虹の上を移動することも可能で機動力としても使え、ノーブル・フェニックス社内でも壊れ性能だという評価をされた。圓に回収され、日の芽を見ることは無かったが、万が一他のプレイヤーに渡っていた最強の一角に食い込んでいてもおかしくはない。


「静寂流十九芸 剣術五ノ型 鎚打衝! 静寂流十九芸 剣術四ノ型 兜砕斬!」


 片腕で打った初撃の斬撃に対してもう片方の腕の力を剣の峰めがけて振り下ろすことによって 威力を増大させる「五十嵐流刀術六ノ型 杭打」と同一の技に唐竹の斬撃で相手の頭を守る防具に刀身が刺さった状態から鞘を上から叩きつけることによって真っ二つにする「五十嵐流刀術五ノ型 霹靂」と同一の技を組み合わせて上から虹を砕きつつ避けると、砕けて落ちた虹を『白光聖剣ベラドンナリリー』を戻して空いた左手で思いっきりディランの分身の一体へと投げつけた。


「静寂流十九芸 剣術七ノ型 瞬撃突! ダークフレイム・フェイク」


 混乱に乗じて仕掛けてきたアクアに神速の七段突きを繰り出す「五十嵐流刀術二ノ型 五光」と同種の技で牽制を行いつつ、空いた左手でローザ=ラピスラズリがレベル20で習得する攻撃対象をドロドロに溶かす酸のような効果を持つ炎を放つ魔法を発動して、ディランの分身達に放った。


「手数多くね? マジか……俺の分身全滅じゃん。ご丁寧に本体には攻撃しないとか……どれだけ舐められてんの?」


「いや、そうじゃなくてねぇ。魔法でドーンって倒すのは勿体無いっていうか。それに、ディランさんだって、わざと本体だけで虹を放ったでしょう? あの時点でどれが本体かバレバレだったって。……さて、ボクも次の力を使わせてもらうよ! 久々に使うけど、上手くいくといいけどねぇ」


 リーリエは両方の剣を鞘に納めると、淡い光と漆黒の闇が渦を成すようにリーリエの身体を駆け巡った。


「――天魔纏身!」


 右翼に天使の翼を、左翼に悪魔の翼を背中に生やし、天使と悪魔の力を宿した神祖の吸血姫は両翼を大きく広げた。


「……おいおい、聞いてねえぞ。そんな力」


「まあ、話してないからねぇ。……これは、神界の天使と魔界の悪魔の力なんだけどねぇ。神界の天使や魔界の悪魔と契約することで、天使や悪魔の力を使えたり、天使や悪魔と融合して強大な力を扱う技術がある……かつて、天魔対戦ジハードという全面戦争では天使と契約した選民救世教、三位聖霊教、最終予言教の地下組織がいつしか統合され、宗教から独立したことで誕生した対魔女の最高機関|聖法庁《ホーリー》の法術使い達と、悪魔と契約した魔女達が全面戦争を繰り広げた歴史という面ではかなり古い時代からある力なんだ。まあ、今現在の天使と悪魔の統率者である武神ウコンは天使化や悪魔化をせず単身で戦うし、そのどちらの能力も使いこなせるとしたら、ボクを除けば全ての天使と悪魔を従えた地球出身の本好きを拗らせた変態くらいだからねぇ、両方とも使える人は本当にレアだけど。……普通は天使と悪魔と融合してその力を借り受けるんだけど、ボクは元々個人で天使と悪魔の力を引き出せる適正があったみたいでねぇ。転生してからもその力は健在だったって訳だよ。まあ、使わないから今まで秘匿……というか、話す必要が無かったから話さなかったんだけどねぇ。――炛燦之大劔。――邪陰之大剣。行くよ、圓流耀刄-比翼-」


「――ッ! これがアクアが言ってた圓式基礎剣術かッ!」


 咄嗟に《影》で防御するも、翼も含めて完全に身体操作を制御された一切の加速が存在しないゼロから百への緩急を誇る最速の剣はディランの「鳥獣の影絵シルエット・ビースト」の発動速度を上回った。

 そして、ファント時代にすら体験したことのない神速の斬撃がディランに殺到――抵抗できないまま一瞬にしてHPゲージをゼロにされてしまう。


「さて……最後はアクアだねぇ。あの時のリベンジマッチだ……全力で掛かってきなよ」


「お嬢様……悪役っぽく振る舞い過ぎでは? 確かにお似合いだとは思いますが」


「ダメ? こっちの方が戦いやすいかと思ったんだけど」


「いえ、このままでも大丈夫ですわ。……さて、最終決戦ですね。……って言っても、ディランに喰らわせた斬撃が全く見えなかったので勝てるとは思えませんが。……それでも、散っていったディランと陛下のためにも勝ちに行きます! 《昇華》!!」


 自身の身体能力を限界まで底上げしたアクアは、一歩踏み出すと同時にリーリエに肉薄した。


「いくら《昇華》を使ったとはいえ自前の身体能力だけでこの速度……圓式基礎剣術を習得されたら剣の道ではボクに勝ち目が無くなっちゃうなぁ」


「ご冗談を……そもそも、私にお嬢様の剣技を習得することはできません。あれは、お嬢様がこれまで血の滲む努力をした果てに習得した集大成――その力を手に入れるとしたら、同じくらいの努力をする必要があります。私には到底……」


「いや、そんなことはないと思うけどねぇ。スラムで剣を持って前世では剣一本で漆黒騎士団団長にまで上り詰めた実力は本物だよ。……もしかしたら、ボクはアクアに変わって欲しくないのかもしれないねぇ。アクアはアクアのまま、もっと強くなってもらいたいんだよ」


「それは……嬉しい話ですね。もっと精進します」


 アクアの斬撃が一撃を放つごとに加速していく。対するリーリエは防戦一方――たったの一度も反撃をできずに攻撃を受け続けている。

 ……いや。


「遠慮しなくていいですよ。本気で来るんじゃ無かったのですか?」


「そうだねぇ、ちょっと楽しくなってきちゃって。もう少し打ち合いたいなって……でもダメだよね。真剣勝負なのに、こんな腑抜けた考えじゃ。――行くよ、圓流耀刄-比翼-」


 そして、ディランを死に追いやった人外の斬撃がアクアに殺到する。

 左右の剣を両翼のように広げ、一歩音もなく踏み込むと同時に、都合十二撃――天使と悪魔の力を宿した光と闇の剣の残像すら捉えられない無音の神速太刀が空気を擦過した白熱した大気の輝きを伴ってアクアに殺到した。


 あの時は命を奪わないために武器を狙ったが、今回は違う――本物の殺意の込められた斬撃はアクアの命をいとも容易く奪い去った。



<一人称視点・ローザ=ラピスラズリ>


「まずはお疲れ様。三日分のスケジュールを大幅に縮めて一日で決着をつけたからそりゃ濃密なバトルになるよねぇ……おかげで余った二日、図書館の中で小説執筆と書類仕事ができたよ。いや、ありがとうねぇ本当に。――それじゃあ、皆様お待ち金の結果発表! といこうか。三位は六点の同点でラインヴェルド陛下とバルトロメオ殿下。二人にはこの記念トロフィーと金貨五枚、統一貨幣・アーカムコイン一枚が一円に相当するって設定だったから、アーカムコイン換算で五十万だねぇ。まあ、王族でお金持ちな二人には端金だと思うけど」


「いや、ありがたい話だぜ? そりゃ、あった方がいいに決まっているからな。でも、これってビオラ商会でしか使えないんだろ?」


「まあ、そうだねぇ……金券ってのは、ちょっとおまけをつける代わりに必ずその店でお買い物をしてもらうことを確約してもらうってことだからねぇ。当然、ビオラ商会の金券はビオラ商会でしか使えない。まあ、これには利もあってねぇ、これだとお釣りが発生しないんだよ。だから、満額以上の買い物をしてもらうことになる。一見あまり儲かっていないように思えるけど、顧客ってのは喉から手が出るほど欲しいからねぇ。少しの損くらいはしても大きな得を取るべきなんだよ」


 バルトロメオの質問に答えていたら、「それって実はあんまり損がねえだろ? 悪どい商売するなぁ。流石は悪役令嬢」ってラインヴェルドにジト目を向けられた。

 いや、これって虚像の地球でも通常の地球でも普通だからねぇ! どこかの胡散臭い商人がやっていた金貨二枚の浄水魔具を購入して会員になって、その商品を人に紹介すれば一人につき銀貨五十枚のマージンが入るっていうどう考えてもネズミk……マルチ商法みたいなグレーな商売じゃないから!


「二位は十三ポイントでアクア。後ちょっとで一位、金貨十五枚分の金券が手に入ったのに残念だったねぇ。まあ、店としては出費は抑えたいし、個人的には良かったけどねぇ。はい、トロフィーと金券」


「ありがとうございます、お嬢様」


「ああ、ユニークシリーズの交換は使節団派遣前まで……まあ、明日辺りにやるから安心してねぇ。旅の間に使えるようにしておきたいとは思うし……アクアに合ったものを何着か用意しておくから楽しみにしていてねぇ」


 さて、長かった? バトルロイヤルもこれで終わりだねぇ……二日間内職だったけど。

 その後、宮廷魔法師団は……というか、メリダは魔法省の実力を認め、外部装置を利用した魔法の使用を実戦に取り入れていくことになった。……まあ、あれだけバトルロイヤルの中で何度も強調して使ったんだから、いい加減その強力さが身に染みて分かったよねぇ。


 ちなみに、ミーフィリアは「魔力変換術式」の術式を持ち帰って庵で個人的に研究をするつもりらしい。そういえば、山に作った庵に若いエルフの弟子と一緒に暮らしているんだったっけ? 最近はこっちでずっと仕事をしていたけど、暫く休暇をもらって弟子を鍛えながらゆっくりしたいみたいだねぇ。まあ、ラインヴェルドも「無理を言って来てもらったんだからな。「映像通信用魔道具」もあるし、いざとなればナイフですぐに《転移》して来れるから問題ないだろ? 楽しい休暇を満喫してこいよ!」って言っていたし大丈夫じゃないかな? ……なんで、その優しさを宰相に向けられないのかさっぱり分からないんだけど……アーネストが不憫過ぎる。

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