百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜
Act.5-17 第一回異界のバトルロイヤル 一日目 scene.3 上
Act.5-17 第一回異界のバトルロイヤル 一日目 scene.3 上
<三人称全知視点>
――バトルロイヤル開始から十時間が経過した。
バトルロイヤル開始からずっと動きっぱなしだったメンバーのほとんどは、ちょうどこの頃から拠点となる場所を探し始めた。
バトルロイヤルの会場となるそれぞれの地点には、壁や天井、地面などにお札のようなものが貼られた場所がある。その場所には、ヌルと名のつくものが近寄れず(ヌル以外のエネミーは「
ただ、プレイヤーの侵入を防ぐことはできないため、完全に気持ちを落ち着けることはできない。他のプレイヤーの位置情報を知ることができないため、各プレイヤーはいつ、どこから他のプレイヤーが現れるのか、その不安を抱きながら休息を取ることになる。……一応寝ないまま三日間を過ごすことも可能だが、疲れを取るためには睡眠を取ることが最適なのである。
多くのプレイヤーが安全地帯で休息を取ったり、安全地帯の位置を確認して、そのまま周辺の警戒を続ける中、二人のプレイヤーが猛スピードで本来ならゆったりとした時間が流れている筈の図書館を移動していた。
――アクアとディランの二人である。
アクアが図書館のエリアに転移して、真っ先に見つけたのがディランだった……より正確に言えば、ディランのいた部屋に転移した。
今回、ライバルはできるだけ最初のうちに倒しておきたいと考えていたアクアだったが、長年共に漆黒騎士団の仲間として行動してきたディランに剣を向けるのはあまり気持ちの良いものではなかった。
勿論、戦わなければならないとなれば、戦う覚悟はしている。しかし、ディランを倒しても獲得できるのはたったの一ポイント。その一ポイントのためにディランとの関係に亀裂が入るということはどうしても避けたかった(まあ、ここで本気の戦いを繰り広げたところで関係が壊れる程度の間柄でもないのだが、やはり少し気まずくはなってしまうので、アクアはそれを避けたかった)。
『よう、親友! 会いたかったぜ!!』
そうこう考えているうちに、アクアはディランに抱擁された。
ディランの方はアクアと戦おうなどと考えてはいなかったらしい。
親友と戦って気まずい雰囲気になるか、闘わずに共闘を願い出るか……そんなことを柄にもなく考えていたアクアは、一気に馬鹿らしくなった。
『よし、こうなったら二人で天辺目指そうぜ!! お前、昔から考えるの苦手だから、図書館とは相性悪過ぎだろ? それに、俺とお前が組めば敵無し……いやぁ、
『そうだな……そういう約束だったな。組むか!』
『よっしゃ! 漆黒騎士団コンビ再結成だ! 最早敵なしだぜ!!』
元々頭脳労働が苦手なアクアは勿論、承諾。ディランに図書館のギミックの解除を任せて、自分はディランの護衛に徹することにした。
ところで、実はディランもそれほどデスクワークが得意な人間ではないが、漆黒騎士団のメンバーが軒並みデスクワークが苦手だったため、必然的にディランがその手の仕事を引き受けることになった。まあ、元々漆黒騎士団の団長をしていたディランは参謀を務められるほど頭の回転が速く、漆黒騎士団の頭脳と言われるほどの知恵者だった。
少なくともアクアでは解けないギミックもディランなら解いて進むことができる。
一方で、アクアはリボンの似合うメイドに転生してなお、その戦闘力はオニキスより数段落ちる程度。更に、オニキス時代には持ち得なかった力を得て、実はオニキス時代より強くなっているんじゃないかというくらいの実力がある。
ファント時代からそう変わらないディランと比較しても、やはりアクアの方が頭一つ抜きんでた実力があった。
それに、アクアとディランは気心が知れているということもあり、連携は完璧になっている。
どちらかがお荷物になっている訳でもない、力と頭脳共にバランスの取れたチームだ。
◆
アクアとディランが十何個目の仕掛けを解除して、階段を上ると、広間になっている図書館の一室で二人の魔法使いが向き合っていた。
「ディラン大臣とリボンの似合うメイド……あっ、アクアさんですね。お相手したいところですが、宮廷魔法師団の副団長としては、ヴェモンハルト殿下の婚約者様と決着をつけなければなりませんので、もう暫くお待ち下さい」
「ということだ。済まないが、しばらく待っていてくれないか? この副団長を倒したらすぐに相手をするのでな」
どちらも、自分の勝利を疑っていないようだ。
宮廷魔法師団副団長のホネストと、魔法省特務研究室所長のスザンナ――二人がバトルロイヤルを開催するそもそもの原因となった二つの組織の代表である以上、その対戦カードに割って入るのは本末転倒と言えるだろう。
アクアはディランと一緒に近くにあった椅子に座りながら、剣で近くを飛んでいた本のヌルをペチペチと叩きつつ、戦いを見届けることにした。
「
先に攻撃を仕掛けたのはホネストだった。土魔法で巨大な土の人形を作り出し、攻撃命令を出す。
「…………さっき戦った変な巨人に比べたらマシだな。目っぽいところからビームとか撃ってこないし」
「親友……一体何と戦ってきたんだ?」
まさか、親友が初見殺しを相性の悪い剣で倒してきたとは思わないディランが、辛辣な評価を下す親友に疑問を投げかける。
もしディランが事情を知っていたら「それは比較する方が酷だろうよ」と、言っていたかもしれないが、当然ながらディランはその化け物の存在を知らなかった。
「王道だな……しかし、そんな木偶の坊では仮に暴走したとしても私は倒せんぞ。……アイシクル・コフィン」
オリジナル魔法で一瞬にして大気中の水分ごと土の人形を凍結させて動きを封じたスザンナが、着ていたロングコートのポケットから一つの指輪を取り出し、ヴェモンハルトやラインヴェルドに
「そうそう、ローザ嬢と我が研究室の研究成果を見せつけなければならなかったな。――
スザンナが薬指に嵌めた指輪が砕け散り、紫色の魔法陣が展開されると同時に七本の首を持ち全身劇毒で出来た毒竜がホネストに殺到する。
「――ッ!
咄嗟に火・水・風・土属性の壁を展開するホネストの奥の手の一つを使用して毒竜の攻撃を凌ぐ。
が、毒は防がれてなお毒の池として残り、ホネストの退路を奪う。
「…………あれって、ライクライト伯爵の魔法じゃなかったか? 毒魔法ってかなり使用者限られているよな?」
「おっ、よく調べているな。親友の雇い主が情報を集めてたのか?」
「まあ、裏の杖が動かなければ、こっちで動いていたことになっていたから一応調べてはいたんだけど……もしかして、その時にサンプルを回収して毒魔法の指輪を作ったのか? ……まさか、指輪の作成を見越して? ……そんな訳ないよな」
アクアの予想通り、スザンナもそこまでのことを見越して毒のサンプルを回収していた訳ではなかった。ただ研究用にと取っておいたサンプルがたまたま役立った訳である。感覚としては作者が全くそのつもりがないのに繋がってしまった伏線に近い。
「全く……厄介なお方だ。流石はこの国一の才女と称えられた天才令嬢。……私も本気を出すしかありませんか。……
純黒のオリジナルの組成の結晶の鎧を身に纏ったホネストが毒の池に足を踏み入れる。
耐酸性、耐塩基性、耐毒性、耐熱性、ダイアモンドを超える硬度と、ダイアモンドが持ち得ない高い靭性を兼ね備えた究極金属――ブラックストーンは、ホネストが子爵家の名をつけるほどの一級品。そう簡単には破壊することはできない。
「……厄介だな。だが、鎧で全てをカバーできる筈が無い。
新たに取り出した指輪から再び魔法陣が出現し、指輪が砕け散ると同時に今度は
「
ホネストは咄嗟に結晶の壁を展開して毒竜の顎の噛みつきを防ぎ、そのまま顕現した巨大な結晶を砕いて無数の破片に変えて放った。
「アイシクル・コフィン」
だが、その攻撃もスザンナの一瞬にして大気中の水分ごと凍結させる魔法で動きを止められ、スザンナに欠片を閉じ込めた氷の塊を拾われてしまった。
「ホット・シャワー」
そして、スザンナが即席で生み出した魔法によって氷が溶かされ、結晶がスザンナの手中に収まる。
「
スザンナが結晶に近づけていた鋼の指輪を薬指に嵌め、ホネストにしか発動できない魔法の詠唱を終える。
瞬間、鋼の指輪が砕け散り、顕現した巨大な結晶が砕けて生まれた無数の破片がホネストに殺到した。
「――ッ! それが魔法省が開発した“属性の才能に左右されず魔法を使用可能にする技術”ですか!?」
「……まあ、この技術はローザ嬢が
スザンナは生粋の研究者だ。どこかの二重螺旋を発見した三人の研究者達のように他人が見つけたものをさも自分が見つけたように発表するような不誠実さを彼女は持たないのである。
ローザが見つけ出した技術の功績はローザのもの。その上で、そこから先に研究を進め、その中で仮に知り得たものや応用技術を開発することができれば、それはスザンナのものだ。ローザから技術を託されたスザンナが為すべきことは、そのローザの期待に応えることであって、他人の功績を奪うことではない。
「まあ……この使い捨てリングも、ローザ嬢はとっくに思いついているだろうがな。天才とは恐ろしいものだよ」
かつてスザンナは天才と持て囃された。だが、ローザという本物の天才と比較してしまえば、自分が思い上がっていたことを嫌というほど思い知らされてしまう。
いっそ憧憬すら抱くほど幾度も困難に見舞われながらも清々しいまでに好きを追求して、いくつもの分野を開拓した本物の天才を脳裏に浮かべ、「彼女のためにも宮廷魔法師団にこの技術の素晴らしさを見せつけなければな」と気持ちを新たにするスザンナであった。
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