Act.5-8 悪役令嬢、魔法省へ行く scene.1 下

<一人称視点・ローザ=ラピスラズリ>


 王太子もいるということで、ゲイシャコーヒーを惜しげもなく出し、最高級茶葉を使った紅茶と一緒に出す……まあ、今ではなかなか手に入らないものだけど、こういう時にしか出す機会はないからねぇ。


 お茶会を暫く続けて、落ち着いたところでもう一つのお土産を出すことにした。


「まずは実際に見てもらった方がいいだろうからねぇ……ちょっと準備するから待っていてねぇ」


 統合アイテムストレージから取り出した直接脳波で操作できる眼鏡型の「E.DEVISE」を掛けて起動する。

 出現した青いタッチパネルに脳波で直接パスワードを入力して使用可能な状態にして、そこから「E.DEVISE」と『管理者権限』を強引に接続――『異世界ユーニファイドサーバー』にログインした。


 ……まあ、後々調べてみたら「E.DEVISE」で『管理者権限』を介さずに『異世界ユーニファイドサーバー』にログインすることができたから、わざわざ『管理者権限』と強引に接続する必要はないんだけどねぇ。……まあ、『管理者権限』を介さないと物理的な干渉や非「E.DEVISE」使用者にも認識し得る通路の生成はできないみたいだけど。


 そのまま大きめのウィンドウを開く。まあ、こういうのを見せられても驚かないところは本当に訓練されているよねぇ。


「これは高度な技術を使って作っているから現状で作るのは難しいかな? 将来的には一段階か二段階落ちるけど、事務仕事を効率化できるものを提案するつもりだから、それまで暫く待っていてねぇ」


 興味深そうにウィンドウを見つめるヴェモンハルトとスザンナに断っておく。まあ、分かっているとは思うけど、念のためにねぇ。

 ……しかし、「E.DEVISE」一つで軽い戦争が起こるレベルの技術革新だからねぇ……まあ、ラインヴェルドはこれを奪うためにボクと敵対するということはまずないだろうけど。

 技術レベルが違うから「E.DEVISE」を模造するってことは無理だろうねぇ……ドワーフと協力したとしても多分無理なんじゃないかな? やっぱり、この世界って剣と魔法がメインの世界だし。


 映った映像は、ボクの視点からアレッサンドロスとヴェルナルドと共にドラゴネスト・マウンテンに行って実験した際の一部始終。

 実はボクの記憶を「E.DEVISE」を経由してウィンドウに投影することが可能なんだよねぇ。まあ、「電波だけでなく人間の脳波をも受信する」システムの一部の流用だと思ってくれればいいよ。


「なるほど……属性を付与した武装などを経由して魔力を別の属性に変化させるという技術か。天上光聖女教がそんな技術を隠し持っていたとはな」


「まあ、天上光聖女教もその技術を自由に使えた訳では無かったみたいだけどねぇ。聖女クラリッサが開発した「魔力変換術式」を付与した魔道具で判で押したように光属性のロザリオを作ることができただけみたいだし」


「……ローザ殿がロザリオに疑問を持たなければ廃れた技術になってしまったな。……しかし、これでかなり戦略が広がる。個人の優位性が少なくなり、魔力があれば誰もが自由に望む属性を使える時代が来るな」


「……ただ、魔力の保有量の差がどうしても関係してくるし、この世界には魔力を持たない者も稀にいるからねぇ。それに、触媒も質の低いものを使えば簡単に壊れてしまう……さっきの最後の映像にあった魔法のようにねぇ」


「アトランタイトだったか? あれほどの金属を使っても一発で壊れてしまうとなると……やはり、伝説級か幻想級か?」


「まあ、それがベターだろうねぇ。ただ、虚空にして時空アザ=ヨグソトホートなる終焉の斬撃ディヴァインスラッシュはリーリエの魔力で何十発撃てるかってところだからねぇ。……これを撃つのは諦めた方がいいよ」


「……あれを、何十発か」


 流石のヴェモンハルトも絶句しているねぇ。他のメンバーに関しては灰と化しているし……もしかして、魔法のプロだから余計に恐ろしさが分かったのかな? 怖いよねぇ、こんなのポンポン撃つって……どこの魔神なのかな?


「一応サンプルにいくつか属性の指輪を作ってきたよ。それとは別に「魔力変換術式」の使い方を書いたメモを用意しておいたから……研究頑張ってねぇ」


「ああ、面白そうだから他の仕事を後回しにしてすぐに取り掛からせてもらうよ。さあ、今日から暫く休日返上だ。楽しい研究の時間だぞ!」


 ……あ〜、アゴーギク達が滅茶苦茶嫌そうな顔をしているねぇ。まあ、頑張って? 仕事を持ち込んだ人が言うのもなんだけど。



 大きな用事も終わり、後は平穏無事に使節団出発まで自分の仕事(小説や漫画の執筆とか融資や書類仕事とかビオラ商会に関する仕事など)を進めることができると思っていたんだけど……。


 四日目、何故かボクは謁見が中止された王宮に呼び出されていた。


「ローザが昨日魔法省に提出した「魔力変換術式」を付与した武器による属性変換ってあっただろ? あれから特務研究室が一日で指輪型に仕上げた。あれなら希少な時空魔法の使い手を探すよりもかなり楽になるだろうって思っていたんだが、【ブライトネス王家の裏の杖】と対比されて【ブライトネス王家の表の杖】なんて言われているクソつまんねえ宮廷魔法師共が『あんなくだらない研究ばかりやっている連中の試作品なんて使うなんてお断りだな! 私達宮廷魔法師は自分達の力だけで強くなる!』って聞く耳を持たなくてな。まあ、研究畑の魔法省と実戦部隊の宮廷魔法師は元々仲が悪いんだ。……で、だ。お前に暴れられる場を用意してもらいたいって思ってな。実戦の場でその価値を認めさせたら流石に連中も理解するだろ? それに俺も心置きなく暴れられる場が欲しいからな? そして、お前もついでに参加しろ!! クソ面白い戦いをしようぜ!」


 ……相変わらずだねぇ、クソ陛下。要求がぶっ飛んでいやがる。

 ……なんで、そもそも認めさせるために実戦をすることになって、その上陛下やボクが参加する羽目になるの? 当事者関係なしに絶対バトルロイヤルになるじゃん。


「そうだねぇ……あるにはある。好きに暴れて、それこそ相手を殺しちゃうレベルで暴れても問題ない場所……いや、空間。プログラムを組み上げるのに少々時間が掛かるけどねぇ。で、陛下とボク以外に誰が出るの?」


「俺はアクアと一緒に出させてもらうぜ! 漆黒騎士団最強コンビ再結成だ!!」


「お嬢様、今回こそは勝たせてもらいます! やるぞ、ディラン!!」


 王宮の間秘密会議に出席していた大臣ディランとそのディランの半ば専属侍女(ただし傍目からそう見えるだけで実際は同等の相棒同士と考えている)に成り果てているアクアが参戦を表明。


「それじゃあ、俺も参戦させてもらうぜ。兄上、その首を取らせてもらうぞ!」


「やれるもんならやってみろ! 簡単に負かせてクソ笑ってやるからな!」


 バルトロメオも参戦か……ラインヴェルドに対抗心剥き出しにして戦うとか、どんどん目的から遠ざかっている気が……もしかしなくても、全員日頃戦えない相手と死力を尽くして戦いたいだけだよねぇ?


「私とスザンナは魔法省側の代表として参戦します。勿論、父上の首を狙いに参りますので」


「おう、怖い怖い。言っとくが俺だってただ玉座に踏ん反り返っているだけじゃねえからな。俺だって【ブライトネス王家の裏の杖】以上に戦えることを証明してやるよ!」


 そして、クソ殿下もクソ陛下に対抗心を……おい、宮廷魔法師は眼中に無しかよ?


「宮廷魔法師からはメリダ=キラウェア宮廷魔法師団団長とホネスト=ブラックストーン宮廷魔法師団副団長が参加するようだ。特にメリダは強敵だ……油断はできんな」


 メリダは過激苛烈極まりないとんでもない女傑で魔法より先に手が出る、魔法師は体力勝負だから身体を鍛えるべきという型破りな性格と方針を持つ。

 基本的に暴走列車のため、副師団長が必死にフォローしているけど、唐突に「火山に修行に行くぞ」などと言った過酷な場所への遠征や過酷極まる訓練メニューを強制的にやらせようとするため、他国からは奇異な目を向けられつつも強者の集団と認識されているものの、国内の事情に精通している者達からは「名誉なことだけど……あそこには行きたくないな」と思われる原因となっている。

 ちなみに、設定集には名前が上がっている背景キャラ、或いは設定上は存在するキャラで乙女ゲーム本編には登場しない。まあ、この人が暴れたら乙女ゲームは成立しなくなると思うけど。


 ホネストは、ゲーム時代には攻略対象の一人だった、例の時空魔法の使い手候補のジュード=ブラックストーンの実父でお堅い雰囲気を感じさせる文官風の男。メリダの暴走によるストレスにより、かなりの頻度で円形脱毛症を発症しているらしい。

 高い魔力と火・水・風・土の四属性を使いこなす猛者で思慮深く、几帳面な性格をしている。……まあ、他にも奥の手を隠し持っているんだけどねぇ。

 

「後は表側のうちの全戦力の第一騎士団から第三騎士団までの各騎士団長、第一騎馬隊、第二騎馬隊の隊長、近衛隊の隊長も参加させようと思っている。本当は【ブライトネス王家の裏の剣】の戦闘使用人達も参加させたかったんだが、流石に秘匿された切り札を投入する訳にはいかないだろ? 【ブライトネス王家の裏の杖】の二人だってギリギリだしな。……そこだけはクソつまんねえよな」


 心底つまらなそうにしているけど、そのつまらない戦いに強制参加させられるボクって一体なんなんだろうねぇ?


「とりあえず、陛下の求めていることは分かった。ただ、それならボクも何人か声をかけたい人がいるからねぇ……折角だから参加者全員がいい経験をして強くなれるようにしよう。システムの組み上げと、勧誘に時間が掛かるから今日の午後に。戦いは表側時間軸で三時間くらいを予定しているけど、内部では三日ぐらいの長期戦になるから、まあ食事と睡眠は必要じゃないし、肉体的疲労は蓄積しないようにするけど精神的疲労は確実にあるから覚悟しておいてねぇ」


「おう、よく分からねえけど、よろしく頼む」


 ……さて、と。昼までにビオラ商会に寄って、【生命の巨大樹ガオケレナの大集落】で勧誘か……まあ、あのお祭り好きな族長は絶対に参加するだろうし、二人も腕試しをしたいって思うだろうからな、後一人も三人に引っ張られたら逆らえないだろうし……どんどん本来の目的から離れていっているけど、まあ気にしてもしょうがないよねぇ。

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