Act.5-4 聖なる十字架は技術革新の扉を開くのだろうか scene.1 中

<一人称視点・リーリエ>


「ずっと気になっていたんだけどねぇ……天上光聖女教に所属する神聖護光騎士全員が光属性の魔法を使えるとしたら……必要ないよねぇ、聖女。そもそも、光属性は希少だっていうのにこれほど使い手がいるというのもおかしい……だから、ロザリオの方に秘密があるんじゃないかって思ったんだよ。……例えば、使用者の魔力を濾過、変換して光属性に変化させる力……とかねぇ。まあ、流石に一人で大規模な魔法を発動させることができるほどの濾過や変換の能力を持つ訳じゃないから複数人の神聖護光騎士でやっとってところかな?」


「流石はリーリエ様! 全くその通りにございます!! やはり、見抜かれておられたのですね!!」


「……まあ、ねぇ。で、考えた訳。……それって光属性の何かしらの術式を掛けて特定の属性に魔力を変換することができるって証明だよねぇ。なら、もしそこに時空属性を付与することができたら?」


 時空属性は希少……ではあるんだけど、属性的にはボクも一応持ってはいる訳だし、なんとか応用できないかって思うんだよねぇ……流石に試してみないと分からないけど。


「……しかし、このロザリオは伝説の聖女クラリッサ様が完成させた魔道具でなければ作成できないのです。……いくらリーリエ様でも」


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・天上光聖女教のロザリオ

→特殊な魔法によって光属性に魔力を変換する術式が組み込まれたロザリオ。

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→「魔力変換術式」の解析が完了しました。特定の属性を持たない古代に失われた魔法技術です。

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「まぁまぁ……なるほどねぇ。この「魔力変換術式」についてはなんとなく分かったよ。となれば、後は実践かな? ある程度サンプルを集めてからミーフィリアさんとスザンナさんに手渡したいし……ああ、勿論研究の結果得られたものは天上光聖女教にも還元するよ? それと天上光聖女教の神聖護光騎士の底上げ……まあ、武器や防具の面だけど……そっちも進めないといけないねぇ」


「はっ! 承知致しました! ところで我々がご用意しなければならないものはどのようなものでしょうか?」


 というか、今更だけど教皇ってこんな低姿勢でいいのだろうか? ボクってただの公爵令嬢なんだけど……って、公爵令嬢ってそこそこ地位が高いっけ?


「そうだねぇ……神聖護光騎士団の団長さん。あの人をちょっと貸してもらえないかな? 勿論、教皇臺下も興味があるなら実験を見届けてもいいけど……まあ、流石に忙しいよねぇ? 教皇だし」


「はっ! 謹んで見届けさせていただきます!!」


 ……国王といい、教皇といい、暇なのだろうか? 普通は忙しいと思うんだけど……。



 神聖護光騎士団の団長さんというのは、ボクとクソ陛下が総本山に乗り込んだ時に敵軍を指揮していたヴェルナルド=グロリアカンザスのことで、あの一戦以来会ったことが無かったから恨みでも買われているんじゃないかって、とりあえず攻撃された場合に備えて反撃の心構えだけはしておいたのだけど。


「先日は大変申し訳ございませんでした!!」


 ……何故か再会早々土下座された……つくづく思うけど、なんで天上光聖女教の信者達って少し前まで異端認定して敵意剥き出しにしていた相手を神として崇められるの? どんな変わり身の早さなの!?


「……そもそもの話、ボクと陛下が総本山に攻め込んだのであって、扱いは侵略者とかそんなところだよねぇ? つまり、そちらさんにもこの国では非合法の奴隷の扱いを容認していたから非が無かったという訳ではないけど、どう考えてもアウトなのは強硬手段に出たボクらの方だよねぇ? だから謝る必要はないと思うんだけど……」


 と言っても平伏したまま謝り続けるヴェルナルドと、共に平伏するアレッサンドロスは本当に面倒くさかった。


「まあ、いつまでもこんなことをしていても時間の無駄だし、とっとと目的地に行こうか? それじゃあ、ボクと手を繋いで……ってどうしたの?」


「り、リーリエ様とお手をお繋ぎするなど……恐れ多くて」


「ああ、面倒だよ! もういいや、『管理者権限・全移動』」


 ヴェルナルドとアレッサンドロスの背中に触れたまま『管理者権限・全移動』を発動して、転移した先はドラゴネスト・マウンテンの山頂にある花畑。


「……あの、ここは一体?」


「ああ、ドラゴネスト・マウンテンの山頂……古代竜エンシェント・ドラゴンのナトゥーフさんの住処の一つ……というか、別荘のようなものなんだけど、当のナトゥーフさんには『好きに使っていいよ』って言われているし、ナトゥーフさんは他の古代竜エンシェント・ドラゴンを勧誘するために飛び回っているから鉢合わせすることはないよ」


「え、古代竜エンシェント・ドラゴン!?」


「確か、緑霊の森でミスルトウ殿と戦った時に居られた古代竜エンシェント・ドラゴンですね。流石はリーリエ様、伝説の竜とも交友関係を持っておられるとは」


「別にそんなんじゃないけどねぇ……とりあえず、まずは実験だから二人は適当なところで見ててねぇ。……まあ、見て真似できることじゃないとは思うけど」


 【練金成術】でアトランタイトの鋳塊インゴットを生成し、そこから三つのメダルのようなものを作成する。

 そして、それらのメダルを左手に持ったまま統合アイテムストレージから『漆黒魔剣ブラッドリリー』を取り出す。

 流石に嫌な予感がしたのか、ヴェルナルドとアレッサンドロスの顔が引き攣った。……大正解。


虚空ヨリ降リ注グアメノム真ナル神意ノ劒ラクモ


 ヴェルナルドにとっては旧聖堂の天井を破壊したトラウマスキルが発動し、一振りの刃渡り百メートルを優に超える巨大な剣が天空より落下した。


万象無ニ還ス靈劔アメノオハバリ


 と同時に剣士系四次元職の剣帝の奥義とも言える一撃を放つ最強の物理系範囲攻撃スキルを発動し、虚空属性の剣に向かって無数に線状の斬撃が伸びた。


「…………て、天変地異だ!?」


「御尊主様! どうか怒りをお鎮めくださいませ!!」


 ……なんか教皇と神聖護光騎士団の団長が叫んでいるけど、気にしない。


時空凍結クロック・ロック


 局所……ではなく、世界全体の方の時間を停止させ、剣属性と消滅属性を持つ攻撃と虚空属性を持つ攻撃を完全に停止させた。


「さて……と。属性再染魔法アトリビュート・コンバーション!!」


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Q.どの属性を付与しますか?

・剣属性

・消滅属性

・虚空属性

・聖属性(光属性)

・時空属性

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「一つ目のメダルに消滅属性、二つ目のメダルに虚空属性、三つ目のメダルに時空属性を付与!!」


 瞬間、停止された時空と線状の斬撃、巨大な剣からエネルギーのようなものが伸び、メダルの中に吸収される。

 その結果を確認してから【練金成術】を発動してメダルを小さなクリスタル状の物質に変化させ、【複製錬成】の効果でクリスタルの数が元の質量の数倍に膨れ上がった。

 それに合わせて魔力が減っているけど……まあ、上出来かな?


 一方、時間の停止から解放された剣属性と消滅属性を持つ斬撃は虚空属性を持つ大剣に激突し、両方とも消滅した……後始末せずに済んだねぇ。

 放心状態の教皇と神聖護光騎士団の団長は放置して次の段階に進む……もう一つ上の段階が終わってからがヴェルナルドの出番だからねぇ。


 とりあえず、適当にアトランタイトで三つ凹みを作った剣を造り、その凹みにできたばかりの三つのクリスタル型属性変換用パーツ……まあ、面倒だからクリスタルパーツを嵌め込む。

 そして、残ったクリスタルパーツと『漆黒魔剣ブラッドリリー』を統合アイテムストレージに仕舞い……。


「時空の神と虚空の神、今交わりて一つとなり、全ての破滅へと導く終焉の一振りを繰り出せ! 虚空にして時空アザ=ヨグソトホートなる終焉の斬撃ディヴァインスラッシュ!!」


 激しい魔力の奔流がボクの体を包み込み、ボクの求めた大量の魔力に耐えられなかったアトランタイト製の剣がクリスタルパーツ諸共砕け散る。

 だけど、ボクの望みだけは確実に叶えてくれたようだねぇ。


 時空連続体を切り裂くように無数の亀裂……のような斬撃が伸びていく。奔った亀裂はたまたまそこにいただけのワイバーンを切り裂いた。

 時空だけではなく、属性の最上位に位置する虚空属性……そのアザトホートにも通じる激しいエネルギーと消滅の性質という過剰なほどの力がワイバーンを跡形もなく消し飛ばす。


「……まあ、持っていかれるMPは四次元職の奥義よりも僅かに上というレベル……リキャストタイムがないのが利点かな? ただ、これに耐久できるほどの武器や触媒を探すのは少々骨が折れそうだけど。……さて」


 「もう意味が分からないよ」と完全に常識を打ち砕かれて放心している教皇と団長を軽く威圧して正気を取り戻させる。


「とりあえず、実験の概要は理解してもらえたかな?」


「…………一体何が起こったのですか? 何が何やらさっぱり」


「おい、アレッサンドロス、お前は趣旨を理解しているだろッ! ……ごほん、なんでもありませんわ。……じゃなかった、なんでもありません。とりあえず、私が作り出したのはクリスタルパーツというものです。まあ、天上光聖女教のロザリオと同じようなものだと思ってください。私は今、これを実際に試して魔力の属性変換が可能なことを証明しました。……ただ、耐久値の問題があるので限界もありますし、個人の魔力にも差がありますが。……では、使えることが分かりましたので、次はヴェルナルドさんに試してもらいます。この世界の人間代表として頑張ってくださいねぇ」


 時空属性のクリスタルパーツを嵌めたアトランタイト製の剣をヴェルナルドに手渡し、あざとく可愛く笑ってみた。

 ヴェルナルドは顔を痙攣らせながら剣を受け取って――。

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