Act.4-22 黄昏時の突撃〜悪役令嬢と暴走するクソ陛下〜 scene.2 下

<一人称視点・リーリエ>


「……ここは普通『殺すなよ』っていうところだと思うけど……蘇生できないくらいぐちゃぐちゃにはしないでねぇ」


「おう! 好きに暴れてくるぜ!! 日頃のストレスファイアーって奴だ!!」


 公務で溜まりに溜まった鬱憤を晴らすように『ノートゥンク』と『真なる王の剣ソード・オブ・ジェニュインレガリア』を構えたラインヴェルドが神聖護光騎士達の中に突撃していった。

 そして、剣を振るたびに神聖護光騎士達が宙を舞う…………打ち上げ花火かな? 玉屋ァ〜。


「……さて、ボクの相手は君達かな?」


 舌舐めずりを一回して牙を強調して見せた……まあ、『吸血』の衝動には襲われていないからするつもりもないんだけどねぇ。


「なんか色々説明が込み入っていて難しいから後で教皇に聞くことをオススメするよ。それじゃあ、陛下が暴走して殺しまくっちゃうと面倒だし、ちょっと雑になっちゃうけど……そこを退いてもらうねぇ」


「退く訳が無かろう! 魔族の女――お前の好きにはさせん。しかし、随分と見目麗しいな。捕らえた後にたっぷりと可愛がってやる」


「……それ、聖職者としてどうなの? やっぱり、一部亜人種の奴隷を認めているのって慰み者にするためなんだねぇ。……そういう人間至上主義と亜人種や魔族差別をしているからボク達が動く羽目になった訳だよ……まあ、君達を設定したのはボクだし、責任がないと言ったら嘘になるから、責任を持って対処するけどねぇ……それじゃあ、覚悟はいいかい? ――虚空ヨリ降リ注グアメノム真ナル神意ノ劒ラクモ


 侍系四次元職の征夷侍大将軍の奥義とも言える最強の物理系範囲攻撃スキルを発動し、刃渡り百メートルを優に超える巨大な剣を天空に一振り顕現した。

 巨大な剣が総本山の天井を破壊し、砕けた天井から蒼穹が顔を覗かせる。


「て、天井が……」


「まだまだ序の口、序の序の口だよ? 渡辺流奥義・颶風鬼砕。千羽鬼殺流奥義・北辰」


 鋭い風の刃をイメージした霊力を武器に宿し、勢いよく抜刀して横薙ぎすると同時に爆発させて周囲全てを斬り捨てる。爆発的な破壊をもたらす風に善悪や真理をよく見通し、国土を守護し、災難を排除し、正邪を見極め、敵を退け、病を排除し、また人の寿命を延ばす福徳ある面と、それが邪であれば寿命を絶ち斬る面の二つの顔を持つ菩薩の名を関する通り、斬りたいものを斬り、斬りたくないものは斬らないという斬るものを選別する北極星の別名の名を冠する千羽鬼殺流の奥義の性質を付与して、神聖護光騎士達の全てを粉々に打ち砕いた。


「くっ、化け物め!! だが、相手は吸血鬼――光属性の魔法の前では無力だ!! 行くぞ!!」


「「「「「「「「「「――聖極十字光ホーリー・カテドラル・クロス」」」」」」」」」」


 一斉にロザリオを利き手で握り締めた神聖護光騎士達が光を収束して巨大な十字架を放った。


「……これは…………ちょっと痛いねぇ」


 僅かにダメージを受けたことを確認し、回復系職業の初期に獲得できる「治癒ヒール」で傷を完全に修復した。


「種族にも長所と短所があってねぇ……各種族には弱点ってものが設定されているんだよ。例えばエルフは卑金属による微ダメージ、ドワーフ、狐人族、狼人族、猫人族、兎人族は魔法適性の低さ、巨人はその巨大故の移動速度制限、魔人、吸血鬼は光属性攻撃によるダメージ量増加、龍人は……まあ特に無しで、天使は闇属性攻撃によるダメージ量増加、海棲人は陸上での微ダメージ……ということで、ボクみたいに吸血姫なのに回復職とかやっていると、光属性の魔法を使う度に微ダメージを受けるんだよねぇ……まあ、『種族詐欺』って呼ばれても致し方ない光魔法系統最高峰をコンプリートする者が現れるなんて、ボク以外の運営が予想していたとは到底思えないからねぇ……そもそもボクそのものが規格外を体現しちゃっている訳だから、そういう不都合も出てくる訳だよ」


 まあ、その結果受けた微ダメージも「治癒ヒール」で回復できる上に、『Eternal Fairytale On-line』で導入していた自然回復のおかげでこの程度の傷は二分もあれば回復する。


「……さて、可愛いボクに傷をつけてくれた落とし前、どうつけてくれるのかな?」


「……それ、自分で言うことか? 可愛いって……そりゃ、謙遜するよりはいいだろうけどさ」


 ふと視線を向けるとラインヴェルドが戦いの手を止めてこちらを半眼で見ている。……いや、だって実際に絶世の美少女なんだから、寧ろこれで醜女とか言ったら嫌味だよねぇ……。


神聖なる光明燦爆セイクリッド・ディヴァイン・ノヴァ


 イベント職の聖女が習得できる攻撃魔法の中では最高の威力を誇る光属性魔法を発動し、天井付近に現れた眩いほどの光の爆発が破壊された天井の一部をも呑み込んで天井の壁画を塗りつぶすかのように巨大な円形状の空洞を作り出した。


「な、何故……何故、魔族が我々だけに許された女神の御業を!? しかも、我らよりも何故深い寵愛を受けている!?」


「流石は聖女様だが……天井の壁画が丸ごと消し飛ばされちまったな……それって聖女のイメージ的に大丈夫なのか?」


「……だから、何度も言っているけど、ボク――リーリエは全職業を四次元職まで強化しているから、聖女っていう肩書だけ強調されるのは不本意なんだよ。……『黒百合の姫騎士』とか、ゲーム時代の『蒼穹白姫』とかで呼んで欲しいよねぇ……まあ、ゲーム時代は『見た目黒い吸血姫なのに、なんで白姫なの? 詐欺じゃない?』って言われたけど、実際は白雲に包まれた蒼穹に浮かぶ《浮遊城》を手に入れたからっていう理由であって、見た目は関係ないんだよねぇ……で、ラインヴェルド陛下は一体どれだけの被害を出したの?」


「まあ、負傷者が十数人ってところだな。いくらなんでも生温い……クソつまらんかった。これならまだうちの騎士団の方がマシだな」


「……まあ、ラインヴェルド陛下からしたらどっちも大して相手にならないんだろうけどねぇ。……で、死傷者の方はいないみたいだねぇ。良かったねぇ、蘇生しなくて済んで」


「ん? やっぱり、一人殺しておいた方が良かったか?」


「…………やっぱり悪虐非道だよねぇ、陛下は。魔族が野蛮だとか、悪虐非道だとかいうけど、この陛下に比べたらまだマシだと思うよ。……それじゃあ、傷は治しておいてあげるよ。聖究極治癒術式セイクリッド・ヒーリング


 困惑したまま固まっている神聖護光騎士達に神官系四次元職の施療帝と聖女が習得可能な最高ランクの回復魔法を掛けて傷を癒すと、ボクは神聖護光騎士達を一睨みしてからラインヴェルドと共に総本山の最奥へと進んでいく。


「…………まさか、あの方は……聖女様、なのか?」


 そんなボクの耳朶を、錯乱状態になって気が狂ったらしい神聖護光騎士の誰かの声が打った。



「よぉ、久しぶりだな。アレッサンドロス。天上光聖女教をぶっ潰しに来てやったぜ!」


 ラインヴェルドが悪い大人を代表するような笑みを浮かべながら総本山の最奥部――聖堂に突撃する。

 祈りを捧げていた教皇ポープと六人の枢機卿カーディナルは一斉にラインヴェルドとその後ろにいるボクに視線を向け、聖堂を警備していた神聖護光騎士達が一斉にボク達の方に殺到した。


「まぁ…………流石に聖堂を血で染めるのは忍びないし、星幽の束縛アストラル・バインド


 付与術師系二次元職の大付与術師が習得する行動阻害魔法が発動し、聖なる魔力の輝く糸が神聖護光騎士達を完全に束縛した。


「……それ最初から使っていたら神聖護光騎士共と戦わなくて済んだんじゃねえのか?」


「他にもいくらでも遣り様はあったんだけど、陛下って文字通り肉体言語で語る以外眼中に無かったよねぇ……。まあ、そっちの方がより簡単に要求を通せるからいいんじゃないかって思ったのは事実だよ。……ただ、あんまり暴力に任せた強引な手法を取り続けていると、いつか反感を買って下克上されると思うけどねぇ。……さて、天上光聖女教の教皇臺下、枢機卿猊下の皆様。初めまして、リーリエと申します。単刀直入に申し上げますと皆様の教義の一部がボクにとって不都合なため、速やかに教義の一部を修正頂けるように参りました。あっ、これはお願い、ではなく命令です。そちら様に決定権はないことをお忘れなきよう」


「…………相変わらずエゲツねぇな。言ってみれば、これは最悪の結果を選ぶか、それでも頑なに守ることを選択して天上光聖女教そのものをこの世界から抹消されるかっていう二択だろ? 具体的に言うと、こっちから出す条件ってのは『亜人族に対する差別と魔族への敵対』の撤回だ。時代はグローバル化だからな……まずは、他の種族と協力できる体制を作らなきゃ話にならねぇ。これから増えるかもしれねぇ連中は、大半が非人間……エルフやドワーフなんかと同種だからな。まあ、そんなんも見た目や身体能力が違うだけだろ? 人間だって、魔族だって、亜人族だって、同じように頭で考えて、意志を持って行動することができる……その時点で何が一体違うんだ? そんなクソつまんねえ差別は今すぐやめろ。そうじゃなきゃ、リーリエに見捨てられて人間はこの世界の他の種族諸共共倒れになるぞ? 俺はそんなクソつまんねえ終わり方は御免被る。死ぬならてめえらだけで勝手に死んでろ。俺は一生面白おかしく暮らして、満足して死にてえんだ」


 ただ、このクソ陛下の「一生面白おかしく暮らす」っていう夢のために大勢の家臣がクソつまらない思いをし続けないといけないと思うと不憫だよねぇ……。


「まあ、詳しい話をせずに考えろって言っても酷だし一通り現状この世界が置かれている状況を他の事情も含めて説明させてもらうよ。君たちはその話を聞いた上で身の振り方を考えるんだねぇ……それじゃあ、話を始めさせてもらうよ」


 アレッサンドロス教皇達の憎悪とか嫌悪とかヘイトに包まれながら、ボクはプリムヴェールとマグノーリエにも話した、最早恒例となっている世界の真実とボクの事情の話を始めた。

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