Act.4-2 ローザ一行の初遠征と、三つのクエスト scene.2

<一人称視点・リーリエ>


「ライヘンの森に到着とぉちゃ〜く


 森にはゴブリンやオークといったオーソドックスな魔物や、鹿に似た突撃鹿ブレイクディーアなどの食料として重宝される魔物まで実際に様々な種類がある。

 さて、今回の依頼の内容だけど具体的な目標は大襲撃スタンピードが起こらない程度に魔物を間引くことで、大襲撃スタンピードに関わらないアルラウネとかは別に討伐の対象ではないんだよねぇ。まあ、それでも危険なことには変わりないから、冒険者ギルドでは常時討伐対象となっていて「見つけたら討伐してくれ!」ってことになっているんだけど……まあ、アルラウネの性質的に討伐例なんて一桁しかないんだよ。しかも、討伐した冒険者チームとかもそれが切っ掛けで心を病んだり、長年一緒にやってきたチームが解散したりと、あんまりいい結果を迎えていない訳だし。まあ、やっていることは勇者だけど、側からみれば弱っている女の子を殺すってことだからねぇ……そりゃ、反感を持たれるよ。


「とりあえず、ギルドからは大体これをどれくらい倒してって指標もらっているから、討伐証明部位と素材部位だけ取って後は食料にするということで。まあ、一応キャンプの用意と大体一年分くらいの食料は持ってきているけどねぇ」


 まあ、キャンプといっても遺物級レリックの「調理」、「就寝」、「簡易(といっても普通に水洗式で暖房機能までついているけど)トイレ」といった用途に合わせた必要なものが全て含まれていて、かつ空間魔法で大幅に内部の空間が広げられているっていうキャンパーからしたらキレられそうなチートグッズの応酬だけど、そもそもボク一人ならともかく王弟や大臣がいるのに普通のキャンプをするってなると流石に咎められそうだからねぇ……本人達は気にしなさそうだけど。

 ちなみに、ボクはこんなグランピング擬きじゃない、ちゃんとしたナイフ一本のサバイバル生活を経験したこともあるんだけどねぇ……前世だけど。


 早速、ゴブリンとオークの群れが襲いかかって来た。あの魔物達の場合は「男は殺して女は孕ませろ!」だけど、人間側からすると「不味いゴブリンは殺せ! オークは焼肉にして召しやがれ!」なんだよねぇ……うん、どっちもどっちな気がする。

 (性的に)食われるか、その前に食うか。街を一歩出れば弱肉強食の世界が広がっているんです……えっ、何か違うって??


「それじゃあ、早速今晩の飯の材料の獲得がてらみんなの実力を見せてもらいたいんだけど……」


「……えっ、まさか王弟陛下と大臣閣下にも戦わせるつもりですか!? って、大臣いないし!?」


 ……あっ、大臣ねぇ……もう既にアクアと二人で嬉々として食料オーク倒しに行ったよ?


「元々そういう趣旨も含んだ旅だからな。戦わずに飯にありつけるなどという虫のいい話ではないだろう。……ローザ殿にはアルラウネを無力化する何かしらの方法があるのだろう? そして、それを実験してみようとワクワクしているようだが、ここの魔物を片付けなければアルラウネの捜索へは向かえない。そこで、だ。私達で、討伐依頼に示されている数の魔物の部位を集め、夕食の材料を集めておこう」


「ちょっと、この人何言っているの!? ……ま、まあ、そっちの方が確実に建設的ですけど……」


 まあ、流石にいくら元宮廷魔法師という立場とはいえ、独断専行で決められたことにヴァケラー達が文句を言いたくなるのも分かる。今回の件はボク達・・・が受けたものであってミーフィリアがハーフエルフだからという差別的な意図はない。


「ただし、その代わりにローザ殿の本気を見せてもらいたい」


「「「「「「「「はっ…………」」」」」」」」


「……あのですね、ミーフィリアさんはローザさんの実力を知らないからそんなことを仰ることができるのでしょうが……もし仮にリーリエさん姿で本気なんて出したら討伐部位消滅どころか、この森の地形が変わりますよ!? 絶対に!!」


 血相を変えたジャンローが全力で止めようとする……なんだか、ボクが大量殺戮兵器みたいじゃないか、心外だよ。

 ヴァケラー、ティルフィ、ハルト、ターニャの冒険者グループとラル、ペストーラ、スピネルの極夜の黒狼組も「心は一つ!」って感じだし……まあ、確かに隔絶した差はあるけどさ。


「それじゃあ、範囲を絞って討伐依頼に支障がないレベルに留めればいいんじゃかな?」


「それじゃあ大丈夫なんじゃねえか? 飯が無くなることはないしな」


 バルトロメオは賛成みたいだねぇ。ここにアクアとディランが居たら賛成してくれそうだし、いいんじゃないかな? 使っても。他のみんなも「王弟を止めるのは流石に無理だろ」って諦めちゃっているしさ。


「それじゃあ行くよ。極技・終焉波動剣エターナル・ハイウェイヴ・ソード!!」


 イベント職の剣聖が習得する最上級のバフ特技で物理攻撃力とクリティカルを特大上昇させ――。


虚空ヨリ降リ注グアメノム真ナル神意ノ劒ラクモ


 侍系四次元職の征夷侍大将軍の奥義を発動し、刃渡り百メートルを優に超える巨大な剣を一振り顕現し、その剣をゴブリンジェネラルが核となっているゴブリンの群れに落とした。

 結果として、落下地帯周辺の木々が吹き飛び、落下地点に至っては完全に跡形もなくなっていた。


「…………こ、これは、確かに見ない方がよかったな」


 ……MPを物凄く消費して本気出したのに、その反応は流石に酷くね? ミーフィリア。

 これまで二つにぱっかりと割れていた国家側とボク側……でいいのかな? ボクの私兵……って言うのはちょっとニュアンスが違うし……の感情が恐怖一色という形で統一された瞬間だった。



 約束通り、ボクはミーフィリア達に魔物討伐を任せて、アルラウネの気配があった辺りへと向かった。

 ちなみに、ヴァケラー達冒険者やラル達極夜の黒狼組から「だから言わんこっちゃない!」と責められたミーフィリアは二チームの三倍の討伐を一人でこなすことが、ミーフィリアの意見に賛同したバルトロメオは全員で二倍の討伐をこなすことが決まってしまった。……これは、ハーフエルフに対する差別ではなく、ミーフィリアの自業自得、まさに「ミーフィリアが悪いんだよ」……だねぇ。


 ちなみに、イスタルティとジルイグスはお咎めなし。ミーフィリアは「まあ、私が好奇心に負けたのがそもそもの原因だ。甘んじて受けよう」と殊勝な顔をしながら討伐に当たっていたのに対し、ディランとアクアを追いかけて嬉々として討伐に向かった王弟がそれに続いて過酷な討伐数争いを繰り広げ、結果として三人がミーフィリアの討伐数を優に超える数を叩き出して、ボク以外の全員を驚愕させることになるのだけど、それはまた別の話。……えっ、ボク? この三人は全員武闘派だからそれくらい楽勝だと思っていたよ? 二人よりも武闘派イメージのない王弟も軍務省の長官だし、剣の実力も高いって聞くからねぇ。


 まあ、この結果は後で知った話なんだけど……。


「あっ……居たねぇ。アルラウネ、依頼書通りだ」


 リーリエからアネモネに姿を変え、そのままアルラウネに近づいた。

 向こうもボクが冒険者であることを理解したらしい。


(…………ちっ、女冒険者か。おっさんとかだと落としやすいんだけどな)


 ……もう心の声が客がいない時の態度が悪いキャバ嬢なんだけど……。


『…………オネエサン、モシカシテ……ワタシヲ、コロシニキタノ?』


 早速仕掛けてきたねぇ……やっぱり可愛いよねぇ……まあ、可愛いのは外見だけで中身は・・・テンテンテンだけど。


「……別に殺すつもりはないよ? そもそも、こんなに可愛い女の子を殺せる人なんてどうかしているよねぇ」


『……ソ、ソウナノ?』


 まあ、化野を筆頭に可愛かろうと可愛くなかろうと関係なく殺すと決めたら殺すっていう人もいるし、かくいうボクも絶対に殺せないって訳じゃないんだけどねぇ。


(……コイツ、何考えてやがる。私のことを殺しにきたんじゃねえのか?)


『……ソレジャア、ワタシト……イッショニイテクレル……ノ?』


「……う〜ん、魅惑的な提案だけどねぇ。生憎とボクには後二つの依頼があるから、君を堪能するのはちょっと後になりそうなんだよねぇ……」


『……ソウ、ナンダ』


(……こいつ、何考えてやがる!? 何故だろう……妙に悪寒が……私、モンスターなのに、人間を捕食する側なのに……なんで、恐怖しているんだ!? 今まで沢山の人間を男も女も殺してきたじゃないか……私はやれる子だ! やればできる子だ!!)


 ……なんだろう? 方向性がかなり変わってきている気がするんだけど、なんで熱血が混じってきた!? 違うんだよ、ボクが求めているのは……優雅でお淑やかで、儚げで可愛らしい、そんな女の子が戯れる、まさに百合が広がる楽園エデンなんだよ!!


「だから、そのための準備をするねぇ」


『エッ…………ナニヲ、スルノ? …………おい、何をする気だ! やめろ! 引っこ抜こうとするな!!』


 本性を露わにして全力でボコボコ殴ってくるアルラウネだけど、アネモネの身体にダメージを与えられる訳がないよねぇ。

 そのままアルラウネを引っこ抜き――ちなみに、根っこではなく普通に足が生えていた。根は着ている服や足に巻いた血の滲んだ包帯、腰かけている岩と同様に擬態だったらしい――そのままお姫様抱っこをして別のアルラウネがいる場所へと連れて行った。


『…………エッ……ドウイウ、コト、ナノ?』


 とは、困惑する元々その場に居たアルラウネの言葉。


「それじゃあ、もうちょっと待っててねぇ」


 ということで、残る五体のアルラウネを引っこ抜いて二体のアルラウネのいる場所に集めた。


「さて、君達は危険な魔物だ。獲物を魅了した後に、そのまま自分の側で死ぬまで生活させるほど虜にし、その死体を栄養にして育つ。……まあ、個人的には騙される方が悪いと思うんだけどねぇ。……ただ、冒険者ギルドに討伐を依頼されている以上、君達という危険は取り除かないといけない。でも、ボクは少なくとも外見だけは可愛い君達を殺すのは勿体ない……じゃなかった可哀想だと思うんだよねぇ、目の保養にもなるし。だからねぇ、君達の醜い内面を浄化して、危険な存在ではなくすればきっと冒険者ギルドも納得してくれると思って、君達に伝えようと思ったんだよ――百合の尊さを、可愛い女の子同士が戯れる光景の崇高さを」


『……これ、絶対にヤバい奴だよな!! 目が逝っちゃっているもん!!』


『こういうタイプってどう対処すればいいんだ!? くそ……庇護欲を掻き立てるあざと可愛い仕草で堕として、栄養皆無の木の実で弱らせていくっていういつものパターンが絶対に通用しねぇ!』


『こうなったら……苦手だけど、七人全員で物理攻撃するしか……』


 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ! 四大戦闘系ギルドのギルマスに匹敵するこのアネモネの身体に傷一つつけることは不可能なのだよ! さあ、教えてあげるよ! 百合の崇高さを!!


「それじゃあ、たっぷりと講義してあげるからねぇ❤︎ 百合がどれだけ崇高なのかを❤︎ そして、ボクが七人を立派な百合っ気のある立派女の子にしてあ・げ・る❤︎」


 えっ? キャラ崩壊しているって? ……もしかして百合が絡むと大体こういう性格になるって知らなかったのかな?

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