百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を賭けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜
Act.3-19 アクアマリン伯爵家にて、美形兄妹とのお茶会 scene.1
Act.3-19 アクアマリン伯爵家にて、美形兄妹とのお茶会 scene.1
<一人称視点・ローザ=ラピスラズリ>
「ようこそ、我が家へ。こちらは妻のミランダ=アクアマリンだ」
「ミランダと申します。ローザ様のお話は夫から聞いているわ。ごめんなさいね、私達の我儘に付き合わせてしまって」
ブライトネス王国の宰相でアクアマリン伯爵家当主のアーネスト=アクアマリンと、その妻のミランダ=アクアマリン。まあ、二人ともあのクールで魔性の攻略対象と表向きはお友達キャラ、ライバルキャラという立ち位置で、裏ルートでは隠しキャラの両親ってことだよねぇ。
……しかし、このミランダっていう人は気さくな人物だけど、貴族らしく一筋縄ではいかない。情報戦術に長けており、噂の利点と恐ろしさの二面性を深く理解している……っていう典型的な厄介な貴族婦人なんだけど、よく敵に回すような発言ができるよねぇ。
しかし、随分とイメージが変わったなぁ……アーネストって、「お前が知りたいことは今から教えてやる。座れ。……ところで手土産はないのか?」……みたいな、実務的で冷たい印象を受けるけど、ドルチェへの情熱が半端なくてドルチェを食べれば花が咲いたように嬉しそうに笑うってキャラだった筈なんだけど……何故か、ストレス性胃腸炎を抱える苦労人な宰相ってキャラになってしまった。……全ての責任はラインヴェルドにあり!!
「お初にお目にかかりますわ。ローザ=ラピスラズリと申します。本日はよろしくお願いしますわ。こちら、気に入っていただけると嬉しいのですが」
「わざわざありがとう。……ん? これはドルチェか!?」
「はい、うちの料理長と友人の料理人と協力して作ったお菓子になります。生地を口金から丸く搾り出して焼き、空洞の部分に生クリームやカスタードクリームを詰めたものシュークリーム、卵、牛乳、砂糖を主材料にしてなめらかに蒸し焼きしたプディング、お馴染みのものではありますがマカロンを何色か、大幅に季節が外れていますがガレット・デ・ロワをご用意させて頂きました」
……まあ、紙の王冠もフランス語でソラマメを意味する
「ローザ様はお料理をなさるのですか?」
そういえば、貴族は厨房に立たないもの……っていう暗黙の了解みたいなものがあったねぇ。
「お恥ずかしい話ですが、私の趣味の一つが料理なのですわ。……ただ、最近は限界を感じておりまして、香辛料の獲得のためにエルフや獣人族との通商交渉を目論んでいたところ、国王陛下に先手を打たれて、正式に使節団を派遣することになってしまった、というのが現状ですわ」
「そういえば、そういう話だったな。……まあ、ローザ嬢のことだ。貴族の常識どころか、通常の常識と呼ばれるものすら通じないと思っておいた方が賢明だろう」
……何気にディスられているよねぇ? ボク。
「今回のお菓子のレシピはあるのか!?」
「落ち着いて……ローザ様が困ってしまいますわ。……ごめんなさいねぇ、主人はドルチェのことになると前のめりになってしまうのよ」
とは、夫に負けず前のめりになったミランダの言葉。……似た者夫婦だねぇ。
「そう仰ると思いまして、レシピの方はご用意させて頂きました。しかし、レシピがあるとしてもそのままの味を再現するということは難しいと思われます。そこで、もう数年したらということになりますが、ビオラ商会の支店で小さな料理屋を開くことが決まっておりまして、そちらの方でドルチェの方も販売しようと考えております。……少し庶民向けの、貴族の方では行きにくい店になるとは存じますが……」
「なるほど、ではその店が開店する際には是非一番に駆けつけよう」
やったー、思いがけないところで顧客一人ゲットだぜ!! ……ってところかな?
「しかし、最近話題のビオラ商会と関係があったとはな…………ん? ああ、そういうことか。ビオラ商会の商会長は冒険者のアネモネ殿。そして、アネモネ殿はローザ嬢のサブアカウントの一つ――『天翔騎士』アネモネ様。なるほど、ジリル商会とマルゲッタ商会に匹敵する商会の会長の正体はローザ嬢か。納得だ」
「あら貴方……それはどういうことかしら?」
……というか、今更だけどボクのことってどこまで話していたんだろうねぇ。まさか、三歳にしては大人びている貴族の令嬢とかじゃないよねぇ。
……しかし、あれは近いうちに白状させられるんじゃないかな? まあ、ボク自身はミランダは既に知っているっていう判断だったから問題ないんだけど。……というか、ブライトネス王国の王太后ビアンカ=ブライトネスと親友関係のミランダがこの話をビアンカから聞かない訳がないからねぇ。……とりあえず、アーネストさんに南無南無。
「それじゃあお茶会の場所まで案内するよ。付き添いでニルヴァスもいるけど、気にしないでもらいたい」
「あれ? 元々お二人とのお茶会という話ではありませんでしたっけ? 私の単なる勘違いでしたか?」
「――えっ?」
「――えっ!?」
どうやら意見の相違があったみたいだねぇ……まあ、ボクからすればどっちでもいいんだけど。別にボクはソフィスとニルヴァスを攻略しに来た訳じゃないし、そういうのは
◆
まさかの伯爵直々に案内され、向かった先は温室に小さなウッドデッキに手入れされた木製の椅子と机があるというある意味シンプルながらも小洒落た空間だった。
色取り取りの薔薇が咲き誇り、美しい景観を作り出している……そういえば、薔薇って理論上は一年中咲かせることができるんだっけ? 品種を上手く組み合わせれば、だけど。
温室には既に二人の男女がいた。
青髪とアクアマリンを彷彿とさせる水色の瞳を持つ人形のような整った容姿の、既に魔性の色気を感じさせる四歳のニルヴァスと、父にも母にも見られない白髪と赤い瞳という形質が発現している、それ以外はアクアマリン伯爵家の血統なのであろう圧倒的美貌を持つ妹でボクと同じ三歳のソフィス。
「それじゃあ、後はお若い二人でごゆっくり」
「……伯爵様、それってお見合いでお馴染みのセリフですよね? 絶対に使いどころが間違っていますわ!!」
……そのまま一安心という顔で戻っていくアーネスト……色々とおかしいよねぇ。
「えー……ごほん。お初にお目にかかりますわ。ローザ=ラピスラズリでございます。本日はアーネスト伯爵様からご紹介を頂きまして、お茶会に参加させて頂くことになりました。よろしくお願い致します」
何故か、二人がギョッとしてきた……何かまずかったかな?
「初めまして、ニルヴァスです」
「ソフィスです、よろしくお願いします」
さて、名乗りあったことだしお茶会開始……と行きたいところだけど物凄い空気が重いんだよねぇ。
ニルヴァスは無口なキャラで、あまり自分からは話そうとしない。そして、表情筋も自分で動かせないからあまり笑わない。……まあ、後半は別にいいんだけど。
ソフィスの方は自分の容姿に全く自信がないことが影響して引っ込み思案な性格になっているから、得意な話題……つまり、創作関係の話題のようなオタクな性格を引き出せるものでも出さなければあまり自分から話そうとしない。
で、それじゃあ当初の目的は果たせない……無理矢理創作の話題に持っていくのも手だけど、それよりも一発先制ジャブを入れておきたいよねぇ。
机の上には紅茶のティーポットとカップ、それから充実した種類のドルチェが置かれている。流石は通称ドルチェ伯爵家……なら、最初はドルチェ、つまりお菓子の話題から行くのがいいのかな?
「ところで、お二人はドルチェがお好きですか? アーネスト様とミランダ様はドルチェがお好きだというお話を伺っておりましたのですが、お二人も同じようにドルチェがお好きか分かりませんでしたので……。本日はお土産としていくつかお手製のドルチェをご用意させて頂きましたのでそちらは後ほど召し上がって頂ければよろしいと思いますが、実はもう一点持ってくるのにはあまり適さない、しかし美味しいものがございます。よろしければ、今ここで作りますが? 紅茶にも合いますよ?」
「……失礼ながら、ローザ様はドルチェをお作りになるのですか?」
質問してきたニルヴァスも、その隣に隠れるようにこちらを見つめているソフィスも驚いているねぇ……まあ、貴族が自分でお菓子を作ることなんて前代未聞だろうからねぇ。
「ええ、お恥ずかしい話ですがお菓子作りは趣味の一つなのでございます。……やはり、職人が作るお菓子の方がよろしいでしょうか?」
「……ソフィス、どうする?」
「……わたしは、食べてみたいです」
「決まりですね」
統合アイテムストレージから取り出したのは、砂糖と牛乳、バニラビーンズから作ったバニラエッセンス、そして普段なら鶏卵を使うところだけど今回はロック鳥の卵という希少素材アイテム。……まあ、統合アイテムストレージに大量に収まっているんだけど。
まず、ボウルを二つ準備してロック鳥の卵を黄身と白身に分けて入れます。白身に砂糖を三回に分けて加えながら泡立て器で混ぜ角が立つ位までしっかり混ぜメレンゲを作ります……細腕のローザだけどステータス自体は高いから楽々メレンゲが完成。
次に黄身を混ぜてから白身のボウルへ加え混ぜ……。
「氷精-冷気生成-」
そこから、氷の精霊に
「……綺麗」
「あっ、ようやく嬉しそうな顔をしてくれたねぇ」
「「えっ?」」
……あっ、ついつい素を出してしまったねぇ。
「さて、これで完成です。器に盛り付けますね」
硝子の器に乗せて完成……さて、気に入ってもらえるかな?
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