Act.3-17 冒険者ギルドの一騒動とアネモネの勧誘 scene.2

<一人称視点・アネモネ>


 MMORPG『Eternal Fairytale On-line』の建物や家具というものを作成可能なカスタマイズシステム……これに付随して、素材アイテムを一定数投入することで家具や内装のデザインを変えることができるという機能がある。

 そのまま床にタイル系アイテムを貼っていくという手もあったし、実際に西馬優斗を名乗っていた斎羽勇人はこのシステムを利用したアナログな方法を好んで《浮遊城ホワイトリリー》の整備・改良を行っていた。……ちなみに、あそこまでバトルや冒険メインのゲームでギルドホールに引き篭もっていた人も珍しいと思う。


 その機能を使って大量のミスリルで壁や床をコーティングして、その上に木材の壁や床板を貼って暖かな空間を生み出した。あっ、イルワが絶句している。


「……段々と壊れるたびにあり得ないくらい強化されている気がするが、気のせいだよな?」


「気のせいじゃありませんよ? まあ、今回も私に非がありますから素材については勿論全額私の方で負担します」


「…………もう、これ以上壊さないでくれよ。本当に自分がいていいところなのかたまに分からなくなる」


 ……いや、ギルドマスターなんだから居ても問題ない筈だよ? というか、ある意味自分の居城なのになんで遠慮しているの?


「さて、今日なんだけど……」


「ああ、塩漬けクエストはもうないよ。どこかのSSランクオーバーの冒険者が軒並み終わらせてしまったからね」


 それってもう一人しかいないよねぇ?


「違いますよ。今回は私から指名依頼を持って参りました。……といっても、これといった大きな一つの依頼を達成して報酬というものではありませんし、本来ならAランク以上を依頼者が直接指名することができるタイプの指名依頼(冒険者ギルドが太鼓判を押したチームを指名する方ではない)ですが、対象者に求められるのは後々にAランク以上の実力者になることです。具体的には私に雇われないかという話ですが、別にこれまで通り冒険者ギルドに籍を置いてもらって構いませんし、冒険者ギルドに対してこちらからいくらかお礼を支払おうかと考えています」


「なるほど……面白い依頼だな。つまり、冒険者でありながらアネモネさんの雇われ……私兵にもなるということか」


「まあ、どう取ってもらっても構いませんよ。今回の目的は二つあり、一つは今後のいくつか依頼をする時があるとは思いますのでそれを円滑にするために大きな指名依頼で一括りにするという目論見、そしてもう一つがブライトネス王国も動き出している来るべき戦いに備えるという意味合いです。既に国は時空魔法の使い手を探していますが、そもそも何が来るか現時点では分かりませんので手は多く打っておいた方が得策です。その一環として冒険者の方々にもある一定レベルまで上がってもらいたいのですが、まずは小さいところから。ということで、今回は私が何人かスカウトしたチームに指名依頼という形で協力して頂き、そこから今度は彼らに冒険者全体の強化の輪を広げて頂きたいと思います。まあ、あくまで私が退場した場合の保険の一つです」


「あまり事情は分からないが、確かに最近の情勢は不安定だ。何か起こるまでに強化できるものを強化しておきたいという気持ちは分からない訳ではない。それで、具体的に誰を指名するのだ?」


「まずはBランク冒険者のヴァケラーさん。彼については最初に面接をされた時から既に目をつけていました」


 面接をされていたのはボクだけど、あの時点で実は逆面接をしていたんだよねぇ。まあ、ヴァケラーもびっくりだろうけど。


「ヴァケラーさんは実力面と人格面で選びました。それから、Cランク冒険者チームの『疾風の爪』。彼らは人格面と連携の良さが理由です。まだまだ実力は高くありませんが、十分に化ける可能性があると思います。……後は、ターニャさん、来ます? 実力的には問題ないですし、どうせ連中が冒険者資格を剥奪されたからパーティを一から組み直さないといけないでしょうけど、印象は悪いですからね」


「本当に、いいのですか?」


「ええ……それで、ヴァケラーさん。どうする?」


「俺はいい話だと思っています。これまでの仕事の他に収入が増える訳ですから」


「決まりですね。ということで、これが正式な依頼書になります」


 依頼書をまずはイルワに渡し、イルワ経由でヴァケラーとターニャが依頼を受理。後は宿で治療中だというジャンローとハルトの元に向かった。『餓狼鬼士団』に手を出されそうになった際になんとか逃れたティルフィが宿で看病しているみたいだねぇ。

 お見舞いがてらイルワとヴァケラー、ターニャと共にその宿に向かい、神水を使って二人の傷を治した。


「…………本当に俺達でいいんですか? 俺達は、結局ティルフィさんのことを守れませんでした」


「そんなことはないわ。ジャンローさんもハルトさんもAランクの冒険者相手に本当に頑張っていた」


「……すみません、もっと私に力があればあの人達を止められたのに」


「ターニャさんのせいじゃないわよ。だから、頭をあげてください」


 そんな感じでネガティブな雰囲気になりそうだったけど、ボクが「それでどうしますか? もう二度と後悔しないために強くなるか。このままでいいのか?」という二者択一を聞いて全員一致で前者を選択――その後、依頼書に署名してもらい、そこからイルワと分かれてビオラ商会の本部になっている服飾雑貨店『ビオラ』に向かった。……丁度この時間ならあの人がいる筈だからねぇ。


「アネモネさん、昨日ぶりね。……何かあったのかしら?」


「やっぱり、今日はこっちだったねぇ。ターニャさんは知らないと思うから紹介するけど、この方は極夜の黒狼のボスのラル=ジュビルッツさん。今はボクのところで幹部職をしている……ってことでいいよねぇ?」


「えっ? ラルさんって暗殺者だったんですか!? いきなりAランクだったんで只者ではないと思っていましたが……」


 あっ、そういえばヴァケラー達にはラルの経歴を話していなかったねぇ。その点は初耳だったかな?


「そして、改めて。ボクは、今はアネモネを名乗っているけど……正体って言って正しいかは分からないけど、この世界で通用する身分はローザ=ラピスラズリという公爵令嬢。そして……最もボクという存在に馴染んでいる姿はこのリーリエ。まあ、覚えておいて損はないから覚えておくといいよ」


 ボクがローザに、続いてリーリエに姿を変えた瞬間、ターニャが絶叫して浄化魔法を放ってきたんだけど……これ、先行き不安だねぇ。



<一人称視点・リーリエ>


 とりあえず、事情を説明。今回はラピスラズリ公爵家に関わらないことに関しては、必要なところだけ伝えた感じかな? 地球というボクの感覚では元の世界と呼べるものがどうだとか、そういう差し迫っていないことは削ったけど。


「……なんか、今回のリーリエさんの話で常識がいくつも破壊されましたね」


 まあ、確かにティルフィの言うようにボクの話って大体常識ブレーカーだよねぇ。……形成の書[セーフェル・イェツィラー/סֵפֶר יְצִירָה]に関しては虚像の地球ボクの元いた世界でも十分常識を破壊する真実だし……。


「それで、何と無く事情は理解しましたけど、結局俺達に何とかして欲しい脅威って結局何ということになるんですか?」


「別に何とかしてくれたらいいなぁ、レベルだけどねぇ。……一つ目はこの世界の真の神というべき存在――ハーモナイアから管理者権限を奪った神々の討伐。正直、シャマシュだけじゃないだろうし、他の神と示し合わせての叛乱だと考えている。二つ目はこの世界がゲームだった頃の要素の出現……まだこの世界は発展途上だからねぇ。ゲートウェイの出現と同様に今後も何かしらのアップデートが起こると思う。そして、それはハーモナイアにも止められない、ランダムアップデートということになる……正直、複数世界観統合計画[Multi-world view integration plan]というのは不完全なものだったからどれがいつのタイミングで追加されるかは分からない。差し当たり、ブライトネス王国が警戒しているのは時空の神ヨグ=ソトホート。……レイドランクの魔物という扱いだし、正直今の総戦力をぶつけても勝ち目があるかどうかは分からない。後は、某吸血姫さんが主人公のテクストの用語を引用すれば、超越者プレイヤーと呼ばれる存在――つまり、ボクみたいな存在の出現というのも考えられる。データでの再現か、直接召喚するかまでは分からないけど、あり得そうな話だよねぇ」


「ちなみに、どんな戦力が考えられるんだ?」


「いい質問だねぇ……では、ハルトさんの質問にお答えして主要なギルド……あっ、冒険者ギルドじゃなくて、超越者プレイヤーが作るクランみたいなもののことねぇ。の、トップ――ギルドマスターのステータスを実際に見せよっか」


-----------------------------------------------

・『白嶺騎士団』


 名前NAME:忘却の河のレーテ

 種族SPECIES:エルフ(神祖)

 称号TITLE:狂人騎士

 職業CLASS:守護騎士帝(騎士系四次元職)、狂戦士(イベント職業)、黒騎士(イベント職業)

 LV:99,999

 HP:400,000(+410,000(+410,000(+420,000(+430,000

 MP:90,000(+100,000(+100,000(+110,000(+120,000

 STR:400,000(+410,000(+410,000(+420,000(+430,000

 DEX:50,000(+60,000(+60,000(+70,000(+80,000

 VIT:600,000(+610,000(+610,000(+620,000(+630,000

 MND:600,000(+610,000(+610,000(+620,000(+630,000

 INT:80,000(+90,000(+90,000(+100,000(+110,000

 AGI:70,000(+80,000(+80,000(+90,000(+100,000

 LUK:50,000(+60,000(+60,000(+70,000(+80,000

 CRI:90,000(+100,000(+100,000(+110,000(+120,000

 CHA:450,000(+460,000(+460,000(+470,000(+480,000

 ▼


・『厨二魔導大隊』


 名前NAME:ウンブラ

 種族SPECIES:人間

 称号TITLE:神出鬼没

 職業CLASS:影法師(イベント職業)、魔縫師(イベント職業)、暗殺帝(暗殺系四次元職)、トレジャーハンター(イベント職)

 LV:99,999

 HP:400,000

 MP:30,000

 STR:10,000

 DEX:990,000

 VIT:10,000

 MND:20,000

 INT:790,000

 AGI:720,000

 LUK:730,000

 CRI:730,000

 CHA:10,000

 ▼


・『MilkyWay』


 名前NAME:✧Étoile✧

 種族SPECIES:天使(神祖)

 称号TITLE:神聖歌姫

 職業CLASS:聖女(イベント職業)、吟遊帝(吟遊詩人系四次元職)、施療帝(神官系四次元職)、アイドル(イベント職業)

 LV:99,999

 HP:378,000

 MP:295,500

 STR:80,000(+90,000(+90,000(+100,000(+110,000

 DEX:600,000(+610,000(+610,000(+620,000(+630,000

 VIT:60,000(+70,000(+70,000(+80,000(+90,000

 MND:500,000(+510,000(+510,000(+520,000(+530,000

 INT:300,000(+310,000(+310,000(+320,000(+330,000

 AGI:390,000(+400,000(+400,000(+410,000(+420,000

 LUK:790,000(+800,000(+800,000(+810,000(+820,000

 CRI:200,000(+210,000(+210,000(+220,000(+230,000

 CHA:490,000(+500,000(+500,000(+510,000(+520,000

 ▼


・『満天空賊団』ギルドマスター


 名前NAME:モェビウス

 種族SPECIES:龍人(神祖)

 称号TITLE:風林火山

 職業CLASS:浪士(イベント職業)、野武士(イベント職業)、剣帝(剣士系四次元職)

 LV:99,999

 HP:990,000(+1,000,000(+1,000,000(+1,010,000(+1,020,000

 MP:10,000(+20,000(+20,000(+30,000(+40,000

 STR:600,000(+610,000(+610,000(+620,000(+630,000

 DEX:200,000(+210,000(+210,000(+220,000(+230,000

 VIT:400,000(+410,000(+410,000(+420,000(+430,000

 MND:30,000(+40,000(+40,000(+50,000(+60,000

 INT:30,000(+40,000(+40,000(+50,000(+60,000

 AGI:100,000(+110,000(+110,000(+120,000(+130,000

 LUK:100,000(+110,000(+110,000(+120,000(+130,000

 CRI:60,000(+70,000(+70,000(+80,000(+90,000

 CHA:500,000(+510,000(+510,000(+520,000(+530,000

 ▼

-----------------------------------------------


「具体的な数字を出されてもよく分からないわ。分かりやすく例えるとどうなるんだい?」


「……まあ、四大戦闘系ギルドのギルドマスターはボクのサブアカウント――例えるならアネモネと互角くらいっていう認識でいいと思うよ」


「……それ、聞きたくなかったです」


 おいおい、ヴァケラー達が撃沈しているし……敵がボクのサブアカウント――サーバートップクラスの戦力と互角ということに衝撃を受けたのか、リーリエがアネモネよりも強いということに衝撃を受けたのかどっちなのかな?


「まあ、ボクのギルドは最低百人はいる大手戦闘系ギルドの中で、全員で十人っていう超身内組織だったし、ボクらだけでランキング上位を占めていたからねぇ。……そっちの説明はいる?」


「「「「「「……もうお腹いっぱいです」」」」」」


 そっか……残念。


「……流石にここに挙げられているのは万が一敵として出てきた場合の話だわ。差し当たっての話は別にあるのよね?」


「まあ、今回はその話があるから急いでヴァケラーさん達に声を掛けたんだよねぇ。……まず、みんなにお願いしたい仕事は、まあ内容は護衛ってことでいいかな? 元々はボク達が香辛料の取引を目的とした公益の取り付けを考えていたんだけど、今回ブライトネス王国がエルフの国――緑霊の森と正式に国交を結び、亜人種差別撲滅の第一歩にするために大掛かりな使節団を派遣することになったから、みんなにはその使節団のボク側のメンバーとしてついて来てもらいたい。勿論、魔物との実地訓練というのが本質で、交渉はボクや大臣、王弟殿下辺りが行うから気にしなくていいよ」


「「「「「…………はぁぁぉ!?」」」」」


「……やっぱり、いつかは来ると思っていたけど……まさか、そこまで大掛かりな話になるとはね。……分かったわ。極夜の黒狼から何人か見繕っておく」


「ありがとうございます。……それで、他の人達には既に渡してあるんだけど、今回極夜の黒狼のメンバーや指名冒険者のみんなにもボクから武器を支給しようと思う。ヴァケラーさん達に支払う報酬とは別会計だから安心してもらっていくといいよ。それじゃあ、具体的な話に移ろうか」

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