第104話 水着回?
世界各地でビルが倒壊したニュースの流れた翌日。
父さんが見せてくれた朝刊をみると、あのあと、ローマとパリでビルの倒壊事故が起こったようだ。
ドライの元に行きその話をしたところ、ドライの
やる気になったツバイとドライが組めば、確かに世界征服も可能のような気がする。世界征服しても何のメリットもないのでそんなことをする気はないが。
帰還者同盟のアジトがこれだけの数あると言うことは、いったい何人くらいこの世界から異世界に転移していたのだろうか? 毎年世界中で数十万人規模で拉致られたあげく、帰還者が毎年数万規模で現れているのではと思えるような規模だ。にもかかわらず、俺の周りには帰還者がいなかったのは偶然か必然か?
俺に関わらないなら、こちらから関与する気はないし、逆に邪魔立てするようなら相手がだれであれ排除するだけだ。相手が帰還者であろうと同じことではある。
そのあと、丸1日、世界各地のビルの倒壊騒ぎのニュースが流れた。そうこうしているうちに帰還者同盟の本拠地は、アメリカの中央部の砂漠の中、地下深くにあることをドライが突き止めた。いまは確実に仕留めるため、連中の本拠地周辺に転移阻害用の魔法陣を設置しているところだ。
今日はみんなで水着を見に行くと約束した土曜日。
美登里たち3人も、われわれ高校生4人と一緒に水着を見るというので、買い物参加人数が全部で7人となった。さすがに、ぞろぞろと隣街まで歩いて行くわけにはいかないので、電車で行くことにした。駅前で待ち合わせ、電車で3分の隣の駅に降り立った。
「店が開くのは10時からか。少し着くのが早かったか?」
「あと、5分くらいだからビルの中に入ってエレベーターの前で並んでればすぐよ」
「ねえ、ねえ、サヤカちゃんとモエちゃんはどんな水着を買うの?」
「僕もおなかが最近引っ込んできたから、新しく海パン買おう」
みんなが、好き勝手なことをいってエレベーターに乗り込み、目当ての店のある階で降りた。
「ねえ、お兄ちゃん。お金が足りなかったら貸してね?」
「ああ、そのかわり、ちゃんと返せよ」
美登里がいくら使おうが俺が金を払えばいいのだが、それは本人のためにならない。金のけじめをちゃんとすることは大切なことだ。
「こんどのお正月まで待ってくれたら返せるハズだから」
「それじゃあ、半年先じゃないか。まあ、いいけどな」
とはいえ、お兄ちゃんは、妹に頼られれば少しは甘くなる。
ぞろぞろと店の前までやって来たのだが、女物の水着を着たマネキンが意味ありげなポーズを取って店の中に何個も立っている。相手はマキナドールたちと違い動かない人形なのだ。気にする必要はない。そのはずだ。
とはいうもののなんだか女性陣が水着を選んでいるところに一緒に居づらいのは確かなので、店の隅の方にある男物の水着の棚の辺りに村田と一時撤退し、おとなしくしていることにした。
村田は自分用の水着を5分で選んでいた。俺はハーフパンツ風の水着を持っているのできょうは何も買う気はない。
予想はしていたが、女子の買い物は時間がかかる。女子たちは、ああでもない、こうでもない、キャッキャウフフを繰り返して一向に買い物が終わりそうにない。心の底から女子の買い物に付き合ったことを後悔した。
ホムンクルスの二人までも、その会話に参加しているのを見て、ドライの優秀さを垣間見てしまった。
そろそろ、昼になろうかというころ、やっと全員の水着が決まったらしく、勘定を済ませ、その店を後にすることができた。美登里は自分の持ってきた小遣いの中で水着を買うことができたようだ。ホムンクルスの二人は、アインからそれ相応の現金を持たされての買い物だったようだ。
ラブコメ展開などでは、女の子が試着で水着姿になり顔を赤らめた同行のボーイフレンドがその水着姿をほめるような展開がよくあるのだが、一度も呼ばれることもなく、一切そんな展開はなかった。いや、村田は知らないが、俺は全く、全然、そんなことを期待していたわけではない。
「霧谷くんたち、わたしたちが水着を試着したところが見たかった? 残念でしたー。それは、海水浴場までお・あ・ず・け。期待してていいわよ」
「霧谷くんと村田くん、待たせてしまってごめんなさいね」
「女子の買い物は時間がかかるとよく言われているが、今回実感できて良かったよ、なあ、村田?」
俺でもこの苦行に精神的に疲れてしまった。一言くらい言いたくなる。
「中川さん、
さすがは、気配りの村田だ。二時間近く待たされても女子の肩を持つ心の広さを維持できるすごい男だ。
「村田くんはやはり、優しいわね」
中川の言葉に、吉田が乗っかり、
「そうよ、村田くんは小学校の時からやさしいの」
「ねえ、ねえ、お兄ちゃん、空気読もうよ。高校生なんだからさ」
美登里にシャツの
「それじゃあ、今日は俺が昼を
「お兄ちゃん、すごいね! そしたら、わたしは叙〇苑の焼き肉がいいー」
「そうね、夏だし焼き肉でスタミナつけるのも良いわ」
「霧谷くん、ほんとにいいの? 霧谷くんはお金持ちだから気にしないのかもしれないけど、あのお店、かなり高いわよ?」
「まあ、いいだろ。俺はさっきは何も買わなかったけど、みんなは水着でそれなりの出費だったんだろうしな」
「それじゃあ、私も遠慮しないわ」
「霧谷くん、ありがとう」
「それじゃあ、行こうか」
その店は高級焼肉店だけあって、昼食時にもかかわらず、店内はすいていた。一般席でもよかったが、7人なのであいていた個室に通された。
「適当に俺が肉を頼んでいくから、追加で欲しいものがあったら言ってくれ」
横に控える店の人に向かい、
「それじゃあ、まず、飲み物は、オレンジジュースの人? オレンジジュース、3つ、コーラの人? ……
それで、肉の方は、上カルビを10人前、ロース5人前、上ミノ5人前、レバー3人前、ホルモン3人前、それから……あと、サンチュを適当に」
「霧谷くん、ちょっと、多くない?」
「このくらい、問題ないだろ?」
「僕は、ご飯も一緒に」
「わたしもご飯をお願い」
「あとで、ビビンバとかクッパみたいなのを頼んだ方が良いんじゃないか?」
「ご飯とお肉をいっしょに食べたいの」
「じゃあ、ご飯を2人前追加で。そんなところでお願いします」
「かしこまりました。……、以上ですね。少々お待ちください」
……
結局肉のお替わりもして、みんな大満足の昼食を終えた。
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