第81話 中間試験


 それから何事もなく数日が過ぎて行った。


 服部から、副社長の板野が当てにしていた武山薬品の大株主に順次接触し、発行済み株式数の60%分の議決権についてこちら側についてもらうよう目途めどが立ったと知らせて来た。同時に、株主総会における現社長解任および新社長選任の動議の段取りもつけたそうだ。



 完成したスポーツ・ジムで村田はヒイヒイいっている。トラック付きのグラウンドとスポーツ・ジムができたので吉田も呼んでお披露目をしたところ、吉田が村田の専属トレーナーとして参加するようになった。


 いまは、ジム内の板張りのスタジオで、吉田の持ち込んだCDプレイヤーのアップテンポの音楽に合わせエアロビに精を出している。なんでも、エアロビ時には、踊りながら作り笑顔をするのが大切らしい。確かに吉田を見ている分には可愛らしいのだが、村田が苦しそうではあるがその中で一生懸命、作り笑いを浮かべて踊る姿は、何かに取りつかれたのではないかという一種のおぞましさをかもし出している。


 中川は軽い負荷でウェイトトレーニングがお気に入りのようだ。


 ドライの方のトレードは順調で、1日当たり1億から1億5千万程度利益を積みあげている。ゴーレム工場も一部稼働をはじめたらしい。本人が言うには備えあれば憂いなしだと言うことだが、何に備えているのかは知らない。そんなこともあろうかとといいたいための段どりなのかもしれない。


 アインはネット注文していた衣料品も届き、こちらの世界での活動の準備ができたようで、まず書類を用意したうえ運転免許センターに行って実地試験と学科試験を受験した。予想通り簡単に受かったようですぐに免許をもらって帰ってきた。そのあと、月極つきぎめの駐車場を借りて中古で買うつもりのワゴン車を留める予定だ。




 来週には中間試験が予定されているためか、初めての高校での定期試験なので休み時間クラスに残った生徒たちがあれこれ中間試験について話をしている。


 俺は何であれ出された問題に対して回答していくだけなので中間試験など全く気にしていなかったのだが、


「ねえ、霧谷くん、一緒に中間試験の勉強しない?」


 昼食の時に中川にそう提案されてしまった。村田も、混ぜてほしそうな顔をしていたのだが遠慮して自分から言い出せないようだ。


「ああ、そうしようか。村田も一緒にどうだ?」


「いやー、僕は遠慮しとくよ」


「吉田の高校もそろそろ中間試験があるんじゃないか? あいつも一緒にどうだ、うちの事務所の奥なら問題ないだろ。試験の前ぐらいはトレーニングの時間を勉強に当てても良いんじゃないか?」


 うちの事務所の中にある扉の奥の空間のことを誰彼だれかれともなく事務所の奥というようになっている。


「それじゃあ、吉田さんを誘ってみてOKなら僕も一緒に勉強のほうも参加させてもらうよ」


 一人で勉強するよりも、複数で勉強するほうがはかどるかは疑問だが、勉強の合間の息抜きはできるだろう。勉強していて引っ掛かりがあれば誰かに尋ねることもできるしな。


 吉田も村田に誘われて一緒に勉強しようということになった。彼女のK大付属高も同じ時期中間試験があるようで、これまで中川に阻まれて果たせなかった学年トップを確実にとるため張り切っているみたいだ。


 学校帰り、管理棟の1室を勉強部屋として使い、毎日2時間ほどみんなで勉強することになった。俺にはそういった勉強は不要なので、3人がそれぞれわからないところがあると俺に質問してもらうことにして、後ろから生暖かく3人を見守ることにした。


 1時間も勉強を続けていると、アインがお茶とお茶菓子を持って来てくれるので、勉強がはかどっているのかどうかは正直不明だ。それでも、やらないよりはましだろう。俺以外の3人は1週間近く特訓めいた勉強をしたので、勉強の効果があるのではないだろうか。


 大学を目指すために塾や予備校に通う高校生も多いのだろうし、そこでは、受験のノウハウ的なことも教わるだろうから意味があるとは思うが、出題間違いでない限り満点を取る自信がある俺にとっては不要な知識だろう。


 ……


 そして、翌週、二日間にわたって行われた中間試験も、最後の教科。……


「それでは、止め!」



 試験は昨日、今日各々午前中の4教科ずつ8教科だった。さきほど、最後の科目のテストが終わったところで、軽く伸びをしながら、中川が俺に試験のできについて聞いてきた。


「フー。やっと終わったわ。霧谷くんどうだった?」

 

「まあまあかな」


 今回の中間試験の8教科終わってしまえば、どの試験も簡単で、だいたい10分ほどで答案を書き終えた。そのあと5分ほど使って見直しをしているのだが、それでも15分程度。その後余った30分は脳の活動をほぼ停止していた。平たく言うと寝ていたわけだ。


 俺は元気いっぱいなのだが、中川も村田も疲れが出たようで、その日は、最寄り駅の前で解散した。



 次の日の授業から採点された答案が教師によって返却されていく。出席番号順に答案が返されていくわけで、今の席順だと、1番の秋山から順に答案が返されていく。


「秋山」


 教師に名前を呼ばれた秋山が自分の答案を受け取った。表情は案の定暗い。


「伊藤」


 例の伊藤だ。こいつも答案を受け取った時の表情が暗い。


 秋山と同じ中学出身だったような記憶があるが、言っては悪いがその中学は、レベルがそんなに高くないのか? まあ、一応は受験してこの高校に入学しているわけだから、単純に高校の勉強についてこれなかったのか。


……


「霧谷」


「霧谷、すごいじゃないか、100点だ。1年全員の中で満点は5人いるが、その一人だ。これからも頑張れよ」


 教師に褒められてしまった。試験で満点を取っただけだがそれなりに嬉しいものだ。


……


「中川」


「中川、おまえもさすがだな。もう一人の満点だ」


 やはり、中川はタダ者ではなかったようだ。俺と違い本当の意味での実力での満点だ。


……


「村田」


「村田、おまえもなかなかやるじゃないか。満点ではないが98点だ」


 村田がすごくいい笑顔で喜んでいる。こいつもなんだかんだ言っていたが優秀な男だ。


 クラスの全員に答案を配り終えた教師が試験問題の解説を行い、


「試験の平均点は74点、標準偏差は12点だ。50点以下の者は期末までもう少し頑張らないときついぞ。中間試験なので追試はしないが、今の試験が期末だったら38点以下の者は追試だったからな」


 秋山があからさまにほっとしていた。こいつ、ほんとに赤点組なんじゃないか?


 秋山の成績が本当に悪いとはつゆ知らず、「勉強できない」「頭悪そうな顔」などと先日あおってしまったが、これはイジメだ。妹がイジメられているのを心配している本人がいじめる側に立ってしまうのは非常にマズい。深く反省して、今後は秋山に対して何かあったら、接頭辞として「可哀そうな秋山」でいくとしよう。これなら、イジメにならないと思う。



[あとがき]

運転免許センターでの「一発試験」ですが、仮免試験、仮免での5日間の路上練習(免許を持って3年以上の人が同乗)、本試験と最低でも7日、実質10日はかかるようです。

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