第76話 コピー


 服部から板野副社長の動きを中心に武山薬品関連の情報をもらい、思惑おもわく通りに物事が運んでいることを確認できた。月末の株主総会が今から楽しみで仕方がない。


 俺が武山薬品の社長に成ることが100%確定しているわけではないが、99%社長に成れるだろう。今のうちに新体制について考えておくことは大事だ。


 服部を人事関係の役員にえるとして、社長業務を俺が専属でするわけにはいかないだろう。あのドライでは問題を起こしそうだし、やはりこういった面で優秀なアインを向こうから連れて来るしかないか。アインを副社長に据えて、実質社長業務をやらせてしまえばいいか。となると、また戸籍を買ってこないといけないな。



 家に帰っても夕食には時間がありそうなので、もう一度ドライのところに行ってトレードの様子を見物をしながら少し話をすることにした。


「マスター、お帰りかと思っていましたー」


「時間があったから、もう一度お前の様子を見に来たんだ」


「今日はこれといった材料・・がありませんから、為替もあまり動かないと思いますー。ですので、明日の朝方までに数千万程度しか収益は望めません」


「数千万程度というが、サラリーマンの年収が数百万の世界なんだから相当すごいんじゃないか?」


「もちろんですー。ですが、ドールを作ったりホムンクルスを作る方がよっぽど手間暇かかっていて大変なんですー」


「お前がそう言うんならそうなんだろうが、俺にはドールもホムンクルスも作れないから凄さが分からないんだ。金儲けの方は想像できるから実感できる。その差だな。それはそうと、ドールはまだ何体かできるか?」


「ドールはいままでに全部で5体作っていますー。マスターのコピーとして1体、特殊用途用・・・・・に1体割り振りましたのであと3体ですー」


「向こうの中央指揮室でオペレーターをしている連中もマキナドールのお前たちには及ばないんだろうがそれなりなんだろ?」


「あれはわれわれマキナドールと同じアーティファクトですが、われわれと比べ2世代遅れたマキナドールという感じですー。今作っているドールはマキナドールの世代で考えると、3世代前に相当するくらいですー」


「そうか。あとお前のホムンクルスの方はどうなんだ?」


「もちろん順調ですー。ホムンクルスの方は4世代前かもう少し前のマキナドールから戦闘能力を取った物に相当しますー」


「ふーん。ホムンクルスの出来上がりの見た目はどんな風になるんだ? そもそも人型なのか?」


「はい12体全部人型ですー。材料が材料ですから人型にする方が簡単でしたー」


「そうか。しかし12体とは結構な数だな」


「まあ、所詮は消耗品ですからー。生まれて100年ほどで自壊してしまいますー」


「自我は持つんだろ?」


「もちろんですー」


「暴走するってことは無いよな?」


「暴走することは無いと思いますー。暴走してもたかがホムンクルスですからどうとでもなりますー。問題があるとすると、一応生物ですから食餌と排泄が必要ですー」


「それはそうだよな」


「食事といっても、人間と違って牛や馬と一緒で草でも消化できるようにしてますー」


「だからといって、草を食べさせるわけにもいかないだろ。物覚えの方はどうなんだ?」


「もちろんドールには劣りますが、そこらの人間よりよほど優秀だと思いますー。初期情報は直接脳に書き込みますから大型培養槽から出てきた段階で成人並みの知識を持っていますー」


「そうか。それだと、全く人の上位互換だな」


「マスターのおっしゃる通りですー。わたしの助手には12体も必要ないですからー。マスターのお手伝いさせましょうかー?」


「そうだな。必要な時が来たら頼む」


「了解しましたー」


「忘れるところだったが、俺のコピーなんだが、もう少し積極的な性格にしてくれるか? どうも中川に言わせると、昨日のコピーは普段の俺から見て元気のない人間に見えたらしい」


「わずかな違いでも敏感に察知することができるとは、さすがはミストレスですー」


「ドライ、そのミストレスというのは何なんだ?」


「ですから、マスターの配偶者という意味ですー。違ってますかー?」


「だれも結婚するとは言ってないし、そんなことを言ったら中川が困るじゃないか」


「わたしの見たところ、ミストレスは困らないと思いますー」


「わかったよ。中川のいる前ではややこしくなるからミストレスというのはやめておけよ」


「わっかりましたー。ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ。マスターも存外照れ屋さんなんですねー。そんなマスターに良いものをお見せしましょうー。わたしについて来てくれますかー」


 前回も同じようなことを言っていたが、ノートパソコンを電源から切り離して自分で抱えたドライの後について、トレーディングルームを出て少し先に、例の酸素カプセルもどきが置いてあった。


「どうです、マスター? シャイなマスターのためを思ってミストレスのコピーも作っていますー。この前、図書館に行く途中でミストレスの体を入念にスキャンして正確な寸法を掴んでますから完璧ですー。体の柔らかさなどもほとんど一緒ですー。マスターは気が早そうですから、用意しておきましたー。しかも、このドールは特別製ですー。なんと、匂いまでミストレスと同じにしましたー」


 蓋がスライドしてカプセルの中に入っていたのは、先ほどまで一緒にいた中川だった。それもマッパだ。


「……」


「? どうしました? マスター。われながら素晴らしいできだと思いますー。毛穴までオリジナルと完全に一緒ですよー。これで予行演習もバッチリですー」


「確かに素晴らしいとは思うが、服ぐらい着せてやったらどうだ?」


「どうせ脱ぐのに不要じゃないですかー。あっ、そうでしたー。NETで得た情報では一部の人間にとっては服を脱がせるのも楽しみの一つでしたねー。ひょ、ひょ、ひょ。マスターも人間だったんですねー」


「お前と喋ってると、妙に疲れる。いいから蓋を閉めてくれ」


 少し惜しいが蓋を閉めさせた。こんなのが中川に見つかったらとんでもないことになる。


「ドライ、お前、ネットで服が買えるだろ? 適当に見繕ってちゃんと服を着させてやれよ」


「それでは、上は清楚系でまとめて、下はスゴイ・・・のでまとめてみますー。マスター、期待してくださいー」


「もう、お前の好きなようにしてくれ。宅配の荷物が運ばれて来たらちゃんと受け取るんだぞ」


「了解しましたー」


「アインもこっちに呼ぶことにしたから、アイン用に部屋を作ってやってくれるか。アインの着る服も中川のコピー用のを買うついでに頼む」


「アインがこっちにくるんですかー。と言うことは、こっちの方がまさにわれわれの本拠地・・・と言うことになりますねー。わっかりましたー。期待しててくださいー」


「そろそろ俺は帰るから、あとは頼んだ」


「頑張りますー」





【用語説明】

材料:相場を動かすような出来事。為替ではアメリカの貿易収支の発表や、雇用統計、FRBの動静など。





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