第69話 サーバント?


「みんな、おはよう。遅くなってすまん」


 俺がドライを連れてビルの前に出てみるとすでに3人とも揃っていて、俺を待っていてくれたようだ。


「霧谷くん、おはよう」「おはよう」「霧谷くん、おはよう」


 みんな、朝の挨拶をしてくれたのだが、俺の隣に当然のようにすまし顔で立っている人形のようなドライに注目している。しかも、ドライが着ているのはなぜか白衣、履いているのは見た目はスリッパだ。それは注目するだろう。


「ちょっと聞いてくれ、俺の隣にいるこの金髪の女の子なんだが、名前をドライといって俺の、うーん?」


「マスターのサーバント、マキナドールのドライですー。マスターのお友達の皆さん、よろしくですー」


 やっちまった、勝手に自己紹介されてしまった。だがこれはこれでいいか。


「霧谷くん、サーバントって何?」


「俺も知りたい。ドライ、サーバントって何だ?」


 いつから、こいつはサーバントなるものになったんだ? 俺の知らぬ間にアニメでも見たのか?


「サーバントはですねー。マスターの野望達成のために一生懸命死ぬまで働く下僕? 奴隷? まあ、そんなものですー」


 また、いらんことを。こいつをみんなに紹介したのは時期尚早。いやもはや手遅れか。


「まあ、こういった冗談好きの女の子だ。うちの親戚の子ぐらいに思って仲良くしてやってくれ」


 うまくまとめた。かな?


「よろしくね、私は中川春菜、ドライちゃん」


「よろしく、わたしは、吉田京子」


「ドライさん、よろしくおねがいします。僕は村田英雄です」


「こちらこそー、よろしくですー」


 どこで習ってきたのか右手で敬礼のようなしぐさ。妙にあざとい挨拶を返すドライだった。


「ところで、そのアスファルトの道の上を動いているのが自動車ですかー? やはり実物は違いますー」


「ドライ、後で教えてやるから今はそう言った質問はするな。ややこしくなる。

 ドライは、凄く田舎から出て来たんで、自動車も知らないんだ。アハハ」


「そ、そうなんだ。びっくりしちゃった。それは大変よね」


 何が大変なのかはわからないが、さすがは中川、何かを察してくれたようで俺に合わせてくれている。


「ところで、マスター、今のやり取りとマスターとの立ち位置の距離から推測しますとー、中川さんはマスターが配偶子を提供するお相手ですかー? もしそうならミストレスですねー。われわれ4名のマキナドールが忠誠を誓う必要が……り……うが、うが?」


 あわてて、ドライの口に手をやって黙らせた。


「ドライ、わけのわからんことを言ってないでそろそろお前は部屋へ戻ってろ」


 こいつは、しゃべらせておくと危険なヤツだ。こいつのためと思って連れ出したが、早々に引っ込めた方がよさそうだ。ドライが変なことを言うもんだから、中川が黙ってうつむいてしまった。


『村田くん、まだ中1くらいの子に、自分のことをマスターって呼ばせてる霧谷くんのことどう思う』


『うーん、なにかのゴッコ遊びなんじゃないかな』


『男の人の配偶子ってあれのことよね』


『まあ、それ以外にはなさそうな』


『あんなにかわいいのにかなり変わった子よね。そういえば村田くん、約束通り今日の朝練したわよね?』


『えーと? ……』


 吉田と村田が真面目な顔をして小声で話してる言葉が胸に突き刺さる。最後の会話は村田のために聞かなかったことにしよう。今の話が中川にも聞こえていたのか彼女の顔が赤くなってきた気もする。なお悪いことに、ドライは何を勘違いしているのかドヤ顔だ。


「それじゃあ、わたしは、マスターに命令されたので、部屋に戻ってますー」


 ドライのヤツ、わざとしょんぼりしてるように見せかけてないか?


「霧谷くん、かわいそうじゃない。一緒にドライちゃんを連れて行きましょうよ」


 今ニヤっとドライが笑ったのが見えたぞ!


「連れて行くって、図書館にか?」


「そうよ」


「ドライには勉強なんて必要ないぞ」


「いえ、必要ですー。図書館に興味が有りますー」


 もう、勝手にしてくれ。


「それじゃあ、ドライは道を知らないんだから俺について来いよ」




 結局ドライを連れて図書館に行くことになってしまった。


 いつもの隊列で、最後にドライが1人遅れてついて来ている。


「ねえ霧谷くん、ドライちゃん、小さくて華奢なうえ、履いてる靴はスリッパみたいだけど大丈夫なの?」


 隣を歩く中川が俺に話しかけてくる。


「自分で大丈夫って言ってたから、大丈夫なんだろ」


「霧谷くん、ドライちゃんにかなり冷たくない?」


「そんなことは無い。なあ、ドライ?」


 後ろを歩くドライに問いかけると、


「マスターは時々怖いこともありますが、おそらく、きっと、多分やさしい人ですよ」


 なぜ『おそらく、きっと、多分』? こいつは俺に恨みでもあるのか?


「ねえ、ドライちゃん、さっきあなたが言っていた4人のマキナドールって何なの?」


 中川もドライが一言だけ言った言葉をよく覚えてるな。


「それはですねー。マスターの言葉を借りると、圧倒的な力を持つ自律型、つまり自分で考えて行動できるって意味ですー。その自律型ロボット? そんな感じのものですー。わたしの場合、頭脳特化なので戦闘はそれほど得意じゃないんですけどねー」


 今の説明を聞いた人は誰だって中二病をわずらった可哀そうな人を見る目をする。中川も困惑顔だ。普通、本人とめんと向かえば対応に困るよな。


 それを見たドライが、歩きながら自分の左手の手首を右手で外して、それをひらひらさせて中川に見せていた。


「ね、ほんとでしょー?」


 振り返って目を剥く中川、一緒に振り返った吉田と村田もあまりのことに息をのむ。


「ドライ、ふざけるのはもうよせ」


「怒られてしまいましたー」


 ここで、ドライがテヘペロでもしたらぶん殴ってやろうと思ったのだが、それはなかった。






[あとがき]

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