第4話 高校入学1


 今日は、高校の入学式。真新しい黒の詰襟つめえりの制服を着て初登校。


 父さんは市役所へ出勤し、母さんは美登里の中学の入学式に行っている。


 俺の入学した高校に行くには、家から歩いて10分ほどの駅から鉄道に乗り、3駅目の駅で下車し、そこから坂道を登って15分。しめて40分かかる。


『祝! 柏木高等学校 入学式』と縦書きされた看板が高校の正門の脇に立っていた。


 今日から俺も高校生だ。中学を卒業して7年間のブランクがあるが大丈夫だろうか? まあ、普通にやっとけば問題ないと思うが、もし厳しいようなら、適当なスキルでごまかしてしまおう。

 

 正直なところ、勉強が出来なくて、将来的に就職できなくても、アイテムボックスの中にある貴金属や宝石だけでも、一生どころか何百年も遊んで暮らせるだけのものがある。

 

 俺自身は高校中退でもかまわないのだが、やはり両親に申し訳ないので、ある程度は勉強してちゃんと高校は卒業はするつもりだ。その後のことはその後のことだ。


 真新しい制服を着た新入生とおぼしき連中の後に従って入学式の行われる体育館を兼ねた講堂に入り、並べられたスチールの折り畳み椅子にクラス分けされた順に着席して、入学式の開始を待つ。


 1学年316名、全8クラス、1クラス40名弱、そして俺は2組。


 国歌斉唱の後、校長先生、来賓らいひん、在校生代表、そういった人たちの祝辞が一通り終わり、新入生代表の答辞の後、各クラスの担任の簡単な自己紹介で本年度の入学式が終了した。


 新入生代表は、入学試験で一番成績の良かった生徒が選ばれるそうで、今年は、きれいな黒髪を背中のあたりまで伸ばし、そこでまっすぐに切り揃えた、いかにも秀才といった美人の女子生徒だった。


 彼女は、俺たち2組の生徒が座る椅子の1番前に座っていたから同じクラスなのだろう。答辞の最後に自分の名前を言ったはずだが俺は彼女の名前を憶えていない。人の名前を覚えるのは昔から苦手で、知力が大幅にアップしたいまでもかなり意識しないと覚えられない。


 俺のクラスの担任は女性で名前は、山田先生。年齢は30代中ごろで国語の先生。髪は短めで、後ろをきつく刈り上げているためかなり特徴的な髪型である。グレーのスーツ姿がキャリアウーマン風。スカートはタイトで脇に若干のスリットが入っている。


 保護者が退出した後、生徒たちは、それぞれ担任の先生に先導されて、講堂から退出していく。われわれ2組の面々も、山田先生に続き、ぞろぞろと自分たちの教室に向かった。



 教室に入ると、黒板には席順が書かれていた。


「黒板に書いてある名前の場所に座ってくださーい。とりあえず一学期の間は、この席順よ」


 自分の場所を見つけてそこに座る。そこは窓際一番後ろの特等席だった。これは幸先さいさきが良い。


 席について教室の中をざっと眺めてみると、どうやら男女互い違いに座るようだ。というわけで、俺の前と横は女子だ。


 記憶では、この高校には俺の中学から俺を含めて10人ほど入学したはずだが、このクラスには見知った顔はいないようだ。


 とはいえ、同じクラスの同級生くらいならまだしも、中学3年の間、一度も同じクラスにならなかった連中は山ほどいるわけでそんな奴に出会ってもわからないと思う。


「みんな、まず先生の自己紹介から。入学式の時も言ったけど、みんなの担任で国語も受け持つ山田です。

 下の名前は、こう書きます」


 そういいながら、黒板に自分の名前をチョークで大きく『祥子しょうこ』と書き出す。


「年齢は、まだ30代です。独身です。趣味は園芸。園芸部の顧問もしてます。みんなの中でお花や野菜なんかに興味のある人がいれば園芸部に入ってね。

 それじゃあ、出席番号順に、自己紹介をお願いします。まずは出席番号1番、秋山くんから」


 大柄で色黒、短髪の男子が立ち上がり自己紹介を始めた。


「出席番号1番、秋山芳樹よしき。南青葉中から来ました。小学校、中学校とサッカーばかりやってたので、高校では勉強も頑張りたいと思います」


「秋山って、あの秋山だろ! U15に選ばれた」


「世界大会でバカスカゴール決めてた」


「味方のミスが無かったら優勝してたってバッチャが言ってた」


 最後のやつ何だ?


 なんかすごいやつが同級生のようだ。日焼けした顔に、白い歯が眩しい。秋山を見つめる女子生徒たちの目つきがなんか違う。


「出席番号2番、伊藤真由美です。私も南青葉中から来ました」


 ……


 そして俺の番。


「出席番号7番、浪岡中から来た霧谷誠一郎きりやせいいちろうです。趣味は読書。帰宅部予定です」


 無難なところだろう。


 ……


 俺の隣の女子生徒は、入学式で答辞を述べた女子生徒だった。


「出席番号14番、中川春菜はるなです。K大付属中から来ました」


 K大付属高校は県内有数の高偏差値校。ほとんどの生徒はK大に進学するが、その中でも優秀者は、外部の超有名大学に進む者も多い。K大付属中はよほどの成績が悪くない限り、K大付属高校に進学できる。新入生代表を務めるだけの学力のある生徒が何でわざわざうちの高校へ? ほとんどの生徒がそう思っただろう。


「趣味は特にありません」


 教室内が少しざわついたなか、中川春菜はそのまますました顔で着席してしまった。


 ……


「出席番号32番、村田英雄むらたひでおです。浪岡なみおか中から来ました」


 なんと同じ中学出身者だった。俺にとっては7年以上も前だから仕方ないよな。ちなみに村田の声は特段しぶいわけではなかった。


「……、趣味はアニメとラノベとゲームです」


 村田はやや太り気味でぽっちゃりタイプ。かなり度のきつそうな黒ぶち眼鏡をしている。オタクであることを入学初日からカミングアウト出来るオタクに誇りを持つ度胸のある男だ。


 こうゆうヤツは好感が持てる。しかしクラスの女子には受けなかったようで、村田を見る目が秋山を見つめていた時の目つきの真逆だった。村田はこれからの1年、いばらの高校生活を送るのかもしれない。


 ……


 全員の自己紹介も終わり、山田先生から連絡事項と注意事項の説明があり今日のホームルームは終わった。



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