第50話 つかの間の

翌朝......。


俺は、副ギルド長のデヴィッドさんの許可を得て森の中へと足を踏み入れた。

残りのオークの数と、もう一つは魔力溜りの特定をしたかったからだ。


この偵察については、ソフィアとヘザーさんは拠点に残してきた。


想定外の事態が起きても、今回参加している冒険者の中では二人が一番強い筈だからだ。


森の入口へと到着した俺はマップを起動、魔力感知と併用して魔力溜りの位置を特定する作業をしていく。

すると、オークが移動する前の集落があった場所に魔力溜りが有ることが分かった。


オークが移動してそこには居ない事が分かっているので、俺は躊躇せずにその場所へと転移した。


「......やっぱりかぁ。この犯人は早急に捕えないと、また何処かで被害が出るな」


そうそこには、これまでも何度か見てきた魔法陣が光り輝いていた。


俺は魔法陣の中央に立ち、両手を魔法陣に翳すと消去の魔法名を口にした。


「elimination 《エリミネーション》」


すると、鏡が割れる様なパリーン!と音がして魔法陣が一瞬で消え去った。


その場で、この付近の違う場所にも魔力溜りが無いか確認したが見当たらなかった。


「今回は、これで上位種が召喚されることはないだろう」


◇◇◇◇◇


「来たぞ!」


斥候が声を張り上げる。


「こいつらを倒せば我々の勝利だ!冷静に熱く燃えろ、俺達は冒険者だろう!」


デヴィッドさんの威勢のいい掛け声が戦場に響く。


「「「おーぉー‼」」


それを受けて、威勢よく返事を返しす冒険者達。


数の報告は済んでいるので、終わりが見えているだけ元気が良いのだ。


「さぁ、俺達も最後の踏ん張りどころだな」


「はい、エディオン様」


「早く終わらせて、お風呂に入りたいわ」



戦闘が始まると、昨日よりも討伐のペースが上がっていく。


各冒険者のパーティーも冒険者同士の連携が上手くいっている証拠だ。


昨日よりもオークの数が少なかったので、午前中にはオーク全ての討伐が終了した。


その後、C・Dランクの冒険者達が後処理をしている間に、俺達A・Bランクの冒険者は林から森の入口の方まで残党が居ないか巡回をしていた。



「よーし、みんな集まってくれ。

今回、みんなの協力があって無事にオークの討伐を終える事が出来た。

ランドリンの街に帰るまでが今回の任務だ、街に着くまでは気を抜かないで行動してくれ。以上だ」


帰りは来た時と逆の順番で街へと向かう。


俺達、Aランクの冒険者が殿を務めるのだ。


◇◇◇◇◇


オークの討伐を終えて三日......。


俺達は、今回の報酬を受け取ると次の街に向けてランドリンの街を後にした。


「次は、どんな感じの街になるんでしょうね」


「俺も初めての旅路だからね、どんな街だろうね」


「私は、色々なところへ行けて嬉しわ」


「ワンワン!」


段々と旅を共にするメンバーも増えて賑やかな旅となってきた俺の旅だが...

魔法陣をばら撒いている人物の特定は未だに出来ていなかった。



「今回は先回りされてしまいましたね。

もう少しやり方を工夫して隠すようにしないといけませんね」



のんびりと街道を進んでいると...

行き先の表示板が街道の分かれ道に立ててあるのに気が付いた。


その表示板に気になる文字を見つけた俺はつい立ち止まってしまったのだった。


「どうしたんですか、エディオン様。急に立ち止まったりして」


「いや、この表示板に書かれている文字が気になって」


「え~と、温泉と書いて有りますね」


そう、湯気のマーク付きで温泉と書いてあったのだ。


「ヘザーさんが、お風呂に入りたいと言っていたから寄り道していこう」


「「・・・・・・」」


沈黙の後、二人が何やらひそひそ話を始めてしまった。


『絶対、自分が行って見たいんだとおもいますよ』


『私もそう思います』


話がついたのか。


「エディオン様、良いと思いますよ」


「私もお風呂でのんびりとしてみたいです」


「ワンワン!」


取り敢えず意見がまとまったという事で、表示板に従って道なりに進むことにした。



3時間後、少し渓谷になった川沿いに湯けむりが立ち上がる光景が視界を捉えた。


「あの煙のところでしょうか」


「んっ、そうだね。気持ち湿り気をともなった空気にもなってきたし」


「でも、何か独特な匂いも混ざっていますが」


「それが、温泉の素となっているんだよ」


湯けむりを確認してから30分後、宿が10軒ほど建つ川沿いに到着した。


「道すがら、人は居ませんでしたがここには結構いらっしゃいますね」


「ほら、あそこ。多分、駅馬車を利用しているからだよ」


「そうね、長距離を歩いて旅をする人はそんなに居ないでしょうから」


早速、俺達は奥まって静かそうな宿へとむかった。



「ふぅ、やっぱり温泉は良いな~。普通のお風呂と何か違うんだよな」


壁を隔てた、向こう側でもこの温泉を堪能しているだろうか。


「初めて入りましたが、気持ちの良いものですね」


「そうね、体の芯から温まる感じよね。それに、肌も何だかツルツルに磨かれる感じがするわ」


「あっ、そうですね。気が付きませんでした」


「街の中で過ごすのも刺激があって良いのだけれど、こういう場所での癒しも必要ね」


心と体の癒しを感じることが出来た俺達は久しぶりにのんびりと過ごす事が出来たのだった。

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