第156話
「レイリア……、どうして――」
体が弱い彼女がどうして、この場に居るのか俺には不思議でならなかった。
「レイリア? ああ、そうなのね――。勇者の魂を追ってきたのかしら? やっぱり、貴方も転生していたのね?」
「お前も……」
「それは違うわ。私は、望まれたから力を貸しただけ――。そして対価を貰っているだけ。貴方に何か言われる謂れは無いわ」
「それなら――」
レイリアと話をしていた女性は、「分かっているわよ」と、溜息混じりに答えると、その姿を掻き消した。
それと同時にレイリアも、先ほどまで道で立っていたのが嘘のように、地面の上に倒れた。
急いで近づくが、彼女の呼吸はとても弱々しいもので――。
俺は、心の中で魔法を思い描く。
それは身体能力を強化する魔法。
魔法が発動したかどうかはすぐに分かった。
――体中に漲る力。
俺は、レイリアを抱き抱えると彼女の家に向かった。
レイリアの家まで、彼女を抱きかかえて走ること数分――。
「アルスさん!?」
彼女の家が見えてきたところで、俺の姿に気がついたレイリアやフィーナの母親が、俺の名前を呼んで小走りに近寄ってきた。
「あ、あの――」
「どうして、アルスさんが娘と一緒に?」
俺が抱きかかえているレイリアを見るなり表情を青くする。
彼女は、脇目も振らずにレイリアを受け取ると家の中に入っていった。
そんな彼女の――、レイリアの母親を見ながら俺は小さく溜息をつく。
レイリアやフィーナの母親の名前を俺は知らなかった。
そのために俺は口を閉じてしまっていた。
「大丈夫だろうか?」
冷静に考えると俺のためにレイリアは病気の体を押してまで川原まで来てくれたのだ。
そう思うとレイリアの容態が気がかりになる。
フィーナには、俺は嫌われているし彼女の家には入り難い。
それでも……。
「はぁはぁはぁ……。ど……、どうして! アルス君が――、ううん。貴方がここにいるの!?」
思考していると、俺の肩に手を置いて引っ張りながら、フィーナが俺に語りかけてきた。
「い、いや――」
心構えが出来てなかった。
――と、いうより彼女から俺に話しかけてくるなんて予想していなかった。
おかげで言葉が詰まってしまう。
何を伝えればいいのか迷っていたところで息を切らせていたフィーナが呼吸を整えると「貴方に聞いても仕方ないと思うけど……」と、口を開いた。
どうやら俺とは口を利きたくないらしい。
それでも、フィーナの揺れる瞳を見ていて俺は。
「レイリアなら、川原で倒れていたのを見つけて運んできた所だ」
「妹と会ったの!? 妹は無事なの? ねえ!?」
「分からない。すぐに医者を呼んだ方がいいと思うが――」
俺の話を半分も聞かずに、フィーナは家の中へと入っていってしまう。
「彼女の必死な表情を見たのは、これで何度目……。何度目?」
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