第151話

 レイリアの言葉に俺は頭を振る。

 結局、俺はフィーナの力にはなってやれてない。

 彼女の力がアルセス辺境伯に知られてしまう要因まで作ってしまった。

 むしろ事態は悪化したかも知れない。


「そんなことないです」

「……買い被りすぎだ」

「そうでしょうか?」

「――ああ」


 俺はレイリアの言葉に頷きながら否定的な言葉を返す。

 

「でも、アルスさんは――、前回も私を助けるために失敗してしまいましたよね?」

「――な!?」


 レイリアの――、彼女の問いかけに俺は顔を上げる。

 幼女は、焦点の定まらない青い瞳で俺をまっすぐに見てきているが、その表情からは……、どのような感情も読み取ることが出来ない。


「……君は一体、何を言って――」

「前にも私は言いましたよね? はい、こちらこそ短い間ですけどと――」


 俺は座りかけていた腰を浮かすと幼女から無意識的に距離を取る。


「お姉ちゃんも、薄々気がついていると思いますよ? だって――、時巡りには齟齬が発生するから……。アルスさんが、最初に出会った私が、その影響を一番受けていますから――。そうですよね? 桜木悠斗さん?」

「――ッ!?」


 レイリアが親しそうに俺に語りかけてきた。


「――一体何を言って……」

「惚けるのですか? 今回は順調に行っているので貴方に話しかけたのに……。ああ、そうですか――、そこまで記憶を失ってしまっているのですね」


 レイリアは、小さく咳き込むと悲しそうに視線を向けてくる。


「それでは、ライラさんが貴方を召喚したというのも忘れてしまっているのですね?」

「――どういうことだ!?」


 俺は、レイリアの言葉に動揺を隠せずに――、意味の無い問いかけの言葉を紡ぐことしか出来なかった。


 ――そんな俺の様子を見て、布団の上で臥せっていた彼女は、ニコリと微笑みかけてくる。

 レイリアの微笑みを見て俺は思わず眉間に皺を作っていた。

 それと同時に、いくつもの事を考える。


 ……今、彼女は何と言った?


 俺は召喚されたと言っていた――、それも実の母親に。

 そして、それを俺は忘れていると彼女は告げてきた。

 その現実が俺には理解できなかった。


「混乱しているようですね――」

「当たり前だ」


 最初の子供らしい言葉を取捨選択して対応していたが、彼女――レイリアの様子から察するに、子供らしく対応する必要はないだろう。

 ――と、言うより俺に余裕が無い。


「レイリア、答えろ。どうして、俺の母親――、いやライラが俺のことを召喚した?」

「それは、決まっています。貴方は、何のために……アルセス辺境伯を呼んできたのですか?」

「……それは――」

「つまり、そういうことです」

「それじゃ答えになっていない! どうして異世界人である俺を召喚したか? と聞いているんだ! 別のこの世界の問題なら、この世界の人間が行えばいいはずだろう?」

「それは、わかりません」

「分からない? どういうことだ?」

「そのことはアルスさん――、本来で言うところの桜木悠斗さんからは、教えてもらっていませんから……」

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