第135話
とりあえず婚約者の話については、今後の課題ということにしておけばいいだろう。
魔王を倒せずに殺されたら死に戻りするからな。
それに、そのときには婚約の話もない。
それよりも魔力の回復の仕方が判明した以上、人知れず魔王を倒して領地開拓スローライフも可能ではあるが……。
そこまで考えたところで俺は頭を左右に振る。
魔王討伐が失敗するということは、フィーナや母親が危険に晒されるということだ。
――そんなのは、許容することは出来ない。
同じ世界で時間だけ巻き戻りをしている可能性があったとしても――、そこに住んでいるのは物ではなくて、自分の意思や考えを持つ人間なのだから。
「アルセス辺境伯」
「どうした?」
「はい。実は、魔法師団長のアリサより昼ごろに辺境伯軍の陣地に来るようにと話を聞いていたのですが――」
アルセス辺境伯は、俺の問いかけに「そういえば――」と、何かを思い出したかのような表情を見せたあと「ついてくるがよい」と俺に語りかけてきた。
辺境伯に連れて来られたのは、石炭を粉末することに関して、アルセス辺境伯軍を取り仕切るリンデールと揉めた天幕であった。
天幕の中には、アリサとリンデールが既に居た。
二人とも、俺を待っているのかと思ったがそうではないようで――。
「アリサ殿、魔法師の配置は――」
「リンデール。それはいいけど、そこからだと魔法の支援が届かない可能性があるわよ?」
二人は熱心に、羊皮紙に描かれている作られたばかりの周辺地図を見ながら辺境伯軍の展開について話し合いをしているようであった。
天幕の中に最初に入ったアルセス辺境伯を見たあと、遅れて俺が入ってきたことに二人は気がついた。
アリサに関しては、俺の様子を見て首を傾げているだけであったが、リンデールにおいては、厳しい視線を向けてきた。
やはり昨日の今日ということで気持ちの整理がついていないのだろう。
「リンデール殿、昨日は申し訳ありませんでした。僕が事前に石炭を砕いたときのデメリットを説明しておくべきした」
一応は、アルセス辺境軍をメインで指揮しているのはリンデールになる。
ここは、昨日のことも含めて謝罪しておくほうがいいだろう。
確執が問題になって作戦自体が失敗したら目も当てられないからな。
「あらら、リンデール。先に言われてしまったわね?」
「うるさい!」
謝罪の頭を下げたところで、アリサの嬉しそうな声とリンデールの溜息交じりの声が聞こえてきた。
どうやら、リンデールも俺に何か言いたいことがあったらしいな。
「――おほん。あれだ……、アルス・フォン・シューバッハ。お前も何度、同じ時を過ごしているか覚えていないと言っていたが、それでもせいぜい1ヶ月間を何度・もしくは何十回繰り返した程度だろう? それに、以前の記憶も曖昧と言っていた。そんな者に、大人としての振る舞いを期待するのは、聊か無粋であった。申し訳ない」
――なるほど。
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