第129話

 俺は母親の言葉に頷く。

 そして、話が纏ったことで父親はホッと一息ついていた。


「それじゃ、私は軍の編成をしてくるから、昼頃までは水汲みを手伝っていてね。それから、軍の駐屯地に来てくれればいいから」

「わかりました」


 魔力を回復する手段を見つけた俺にアリサは、家事の手伝いをしなさいと語ると、家から出ていった。

 さて、俺も家事の手伝いをして魔力を蓄積しないといけないな。




 川辺まで行き、第1周目のときのように青銅で作られた鍋に川から水を汲むと家まで戻り空にしてある瓶の中へと水を入れる。

 午前中は、ひたすら川から水を汲んで自宅の台所の瓶に水を入れる作業に終始することになるが、それが魔力を回復させる唯一の方法だから仕方が無い。


 1時間ほど作業を繰り返していると「アルスくん!」と俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

 その声が誰だかはすぐに分かる。

 何故なら――。


「――!? フィーナ? どうして……ここに……?」


 いままで川沿いで会ったことなんて無かった。

 少なくとも、こちらからアクションを起こさない限り、フィーナの方から俺に会いにきたことはない。

 まだ、お昼の時間までかなり時間がある。

 日の日差しは頭上からではなく、斜めから入ってくる。

 そのため、彼女――フィーナがどんな表情をしているのか窺い知ることが出来ない。

 俺の問い掛けに彼女は、自分の胸元に手を置いたあと顔を上げてくる。


 ――彼女の表情から俺は察する。

 あの日……フィーナが謝罪の言葉を俺に投げかけてきた時に見せた表情にそっくりであった。

 フィーナの言いたいことは分かる。

 彼女は、俺に助けてもらったことによる謝意を示したいのだろう。

 でも……それは同じであって――。

 すでに彼女からは返しきれない言葉をもらっている。

 それは、俺を信じてくれるという言葉であり力。

 

 ――だけど、それは俺の中にあるだけのことであって。

 彼女の中では、俺に助けてもらった時の清算が終わってないと言う事は容易に想像がつく。

 だからこそ、俺はフィーナが話し始めるまで待つことにする。


「アルスくんに、話をしたいことがあって……」


「話をしたいこと?」


 わざとらしく俺は、首を傾げながらフィーナに語りかける。

 すると彼女は「――う、うん……」と小さく呟くと胸元で組んでいた手を何度か交差させた後、意を決したような表情をして「――あ、あの! ご、ごめんなさい!」と、頭を下げて謝罪してきた。


 その流れが、彼女に初めて謝られた時の光景と重なる。


「あの日、アルス君が狼から私のことを助けようとして魔法を使ってくれたのに……、私……魔法を使うのは魔王やその眷属、それに魔物って教えられていたから、あの時は怖くて、ありがとうって言葉を伝えられなかったから――」


「気にすることはない。当然のことをしたまでだ」

「――アルスくん? 少し変わった?」

「……」


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