第103話

 魔王城についてとアリサさんに語った所、すぐにアルセス辺境伯へ知らせると、賓客室へと戻っていく。

 俺は彼女の後ろ姿を見ながら小さく溜息をつきながら考える。

 先ほど、通ってきたときには父親であるアドリアンやアリサにアルセス辺境伯は、室内にはいなかった。

 つまり、どこかに出かけているということになる。

 出来れば辺境伯邸に居てくれるのがベストなんだが……。


「アルスくん! すぐに魔王城について話を聞きたいって!」


 考え事をしていると、時が何時の間にか過ぎていたのかアリサさんが息を切らせて走ってくると話しかけてきた。


「そうですか……、すぐに向かいましょう」

「案内するわね」


 彼女は、両手で両脇から俺の抱き上げると歩きだした。

 案内って……。

 アリサさんの後を付いていくことでは無かったらしい。


「アリサさんは、子供が好きなのですか?」

「そうね――。私は元々、子供が好きで勉強を教えるために魔法師になったみたいなものだし……」

「どういうことですか?」

「普通の貴族は、専属の家庭教師をつけたりするの。平民出身だと、高い学費を払って国が管理している学院に通うのだけど……それが高いのよね」

「そうなんですか――」

 

 どうやら、彼女は子供好きらしい。

 しかも勉強を教えるために魔法師になったという。

 それにしても、この世界の教育関係について俺はまったく考えてはいなかった。

 もう少し情報を得る必要があるな。


「その学院の学費は高いんですか?」

「そうね……、一月で金貨20枚というところかしら?」

「金貨20枚……」


 この世界は、元の地球と暦は同じ12ヶ月だ。

 一ヶ月は30日と、閏年などが考慮されていないが、それは天文学が発達していない未熟な文明の証だ。


「年間、金貨240枚が必要になるわけですか……」

「そうね、4人家族が金貨5枚で一ヶ月過ごせるから……」

「それはずいぶんと高いですね――」


 思ったより、学院という場所の価格高い。

 そういえば、ふと思いだす。

 アルセス辺境伯の領内に入り、首都アルセイドに到着してからの違和感。

 それは、街中にある店の看板には文字よりも絵が書かれていることが多かったことだ。

 深くは考えていなかったが、俺の予想が正しいのなら――。


「アリサさんは、どうやって学費を工面したんですか?」


 俺の問いかけに彼女は逡巡していたが「ある程度、魔力があれば魔法師になれるから。 魔法師になるためには学校に通って勉強しないといけないけど、軍で勤続するって条件さえ約束すれば無料で勉強が出来るから」と説明してきてくれた。


「そうですか……」


 合理的ではある、……合理的ではあるが……俺は、そういうのは好かない。

 何故なら、人間は動物と違い強い力や牙を持たない弱い生き物だからだ。

 だからこそ、人類は知恵がある。

 それは磨かれ研ぎ澄まされ英知となり、地球では武器にもなりえた。

 そして、英知こそが国を富ませる力となる。


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