第101話

「はい!」


 俺はアリサさんの言葉に頷きながら、頭の中で魔法が発動する際のイメージを固める。

 そしてフィーナや母親を守りたいという気持ちを抱きながら……。


「アイスアロー!」

 

 俺の力ある言葉が、吹く風で周囲に木霊していく。

 ただし!


「発動しないわね?」

「……は、はい……」


 魔法が一切発動しない。

 一体、どうなっているんだ?

 発動条件は間違っていないはずだ。

 間違っていないのに、何かが足りないとしたら……それは魔力? 


「困ったわね。まったく魔力がないというのも問題だけど……」

「問題だけど?」

「アルスくん。領地内で魔法指南書を使って魔力を調べたときに天井が破壊されるくらいの衝撃があったのよね?」

「はい……」


 俺の言葉を聞いたアリサさんは顎に手を当てるとしばらく考えこむと「ほかに何かおかしな点とか無かったの?」と問いかけてきた。


「おかしな点と言っても……」

「…………あっ!? でも、これは関係ないような……」

「どんな些細なことでもいいから、何かあったら教えてね?」

「はい、実は……、時間が巻き戻ったときに、すぐ魔力を測ろうとしたのですが魔法指南書は一切光らなかったんです」

「ふむ……、そのあとは光ったの?」

「はい」

「その時に何か特別なこととかしたの?」

「特別な事と言うか……最初、魔王を倒したときのように水汲みをしたくらいしか……」

「それって自宅の手伝いをしたってことなの?」

「はい……」


 話を聞いたアリサさんは、思案顔をしたあと「もしかしたらアルスくんの魔法や魔力回復って普通とは違う行動をしないと発動しないのかもね」と指摘してきた。


「普通とは違う行動……それは、つまり死に戻りとか?」


 俺は両手を組んで考える。

 ――というか、誰かを守りたいと思って魔法が使えたと思っていたが、それ以外に条件が必要だったという落ちがあるとは、さすがに想定外だ。


「そういう安易に死ぬことを連想するのは良くないわよ?」


 アリサさんが考え事をしている俺に対して、少し怒った口調で語りかけてくる。


「分かっています。あくまでも可能性の一つとして考えただけですから――」


 俺の言葉を聞いたアリサさんが「そう――」と沈んだ声で呟くと後ろから俺を抱きしめてきた。

 女性特有の良い匂いが鼻腔を刺激してくる。


「私ね。心配なの……、なんだかアルスくんは無理に大人ぶっている感じがするから……」

「……」


 いえ、中身は中年の親父です、とは言えない。

 俺が異世界転生してきたことは極秘事項だ。

 あくまでも同じ時間を繰り返しているということにしてある。

 異世界転生がどんな事態を引き起こすか予測できないし、どうなるか分からない。

 不確定要素は増やさない方が良いという判断から誰にも言ってはいないが、正直な所、親に実の子供では無いと分かったときに、どういう目で見られるか分からないから言ってないだけに過ぎない。

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