第99話

 たしかにアリサさんの言うとおりだ。

 でも、それなら俺がフィーナにもらった言葉さえ全て嘘と言うことになってしまう。

 それだけは……。

 それだけは嘘にしたらダメだ!


「……僕は思うんです。たしかに同じ時間軸を死に戻りしているかもしれない。でも、それでも言葉を交わした相手が居て確かに生きていた。だから――後悔しなくてもいいってことには!」

「ふふっ、そうね。少し意地悪をしてしまったわね」

「アリサさん?」

「なんでもないわ、でも良く覚えておいて。貴方が誰かを大事に思っているように、貴方を大事に思っている人だっているの。その人を悲しませる結果だけは選んだらダメよ?」

「……善処します」


 俺には、「はい」と言う言葉を紡ぐことなんてできない。

 それでも彼女と話をして思ったことがある。

 それは、安易に命を捨てたらいけないということ。

 

「さて、今日は、魔法の練習は出来ないけど魔法力を測ってみましょうか?」


 どこに隠し持っていたのかアリサさんは、魔法指南書を取り出してくる。


「――あっ!? 待ってください」

「どうかしたの?」

「いえ、俺の魔法力は桁外れなので天井に穴を開ける可能性が――」


 俺の言葉に、アリサさんは「アルスくんも冗談を言うのね」と笑ったあと、「魔法指南書は、よっぽど規格外――勇者と呼べる者より高い魔力をもっていないと、そんなことありえないし、魔法指南書が作られてから、そんなことは一度も起きていないわよ」と俺の頭を撫でながら語りかけてきた。


 その様子は、まるで俺の話を信じておらず俺のことを子供扱いしているかのようだ。

 まぁ、体は子供だけど……。


「さあ、アルスくん、本の水晶の上に手を当ててね」

「――はい……」


 仕方が無い。

 こうなったら高い大理石の天井に穴が開かないことを祈るばかりだ。

 俺は、内心……天井を破壊したら請求額が大変そうだと思いながら水晶を触る。

 だが、魔法指南書は一切光らなかった。


「――え?」

「ええ!?」


 俺とアリサさんの声が重なった。


「――ど、どういうことなの?」


 アリサさんが、慌てた声色で俺に問い詰めてくる。

 

「どういう事と言われても……」

「魔力が! 魔力が一切ないのよ? これって魔法使えないってこと何だけど……普通は、魔法が使える才能が少しでもあれば光るものなのよ?」


 もう魔王がいるのは規定路線なわけで、俺が魔王を倒したことがあると言ったことから主戦力として考えられているのは痛いほど理解できるわけで……。

 それなのに俺に魔力が一切無いと言う事は戦力外通告の何者でもない。

 アリサさんが慌てているのも分かる。

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