第93話
「ここは……、それに何か夢を見ていたような――」
誰か、親しかった人と話をしていた。
それが誰かは分からない。
もしかしたら、俺がアルスと記憶や知識を統合する前の、アルスの記憶だったのかもしれないが、詳しいことは何も分からないが――。
「そ、そうだ……」
俺は、寝台から立ち上がる。
「お父さん、アリサは?」
「アルセス辺境伯と話をしたあとに魔法師団員が寝泊りする宿舎に戻ったようだ」
「そう……ですか――」
父親の言葉に、俺は一瞬ホッとした。
それと同時に、俺はアリサと今後の関係についてどうやって構築していけばいいのか、まったく分からなくなっていた。
魔王を倒すことを重視するなら、一周目と同じようにアリサと同じように関係を作ればいいだけだ。
――でも、それは俺を裏切ったという現実から目を背けることに他ならない。
「アルス。私は、今後のことをアルセス辺境伯と相談してくるから、少し離れるが大丈夫か?」
俺は、父親の言葉に頷く。
正直、今は自分の考えを纏めることに集中したい。
父親は俺の言葉に頷くと頭の上に手を載せてきた後、「あまり無理はするなよ」と語りかけてきた後、 部屋から出ていった。
おそらく、全てをアルセス辺境伯と両親には話をしているから、俺が倒れた原因も父親やアルセス辺境伯も察しているのだろう。
「どうすればいいんだろうか……」
一度、自分を裏切った人間を許すことが出来るのか?
裏切った人間に対して俺は、笑顔で話すことが出来るのか?
たしかに、以前とは違ってアルセス辺境伯は、俺の味方だ。
だが、それは同じ結末を求めているから味方というわけであって、打算が無くなれば敵になる可能性だって――。
「こんな考えではダメだ」
俺は、誓ったんだ。
どんな手を使ってでも魔王は殺す。
そしてフィーナや、お母さんを今度こそ助けると――。
父親が部屋から出ていってから、ベッドの上で数時間休んだところで扉が何度かノックされると、女性の声で「魔法師団所属のアリサです」と言う声が聞こえてきた。
アリサという言葉に心臓が跳ね上がる。
呼吸が浅く速くなっていく。
自分を落ち着かせようとするがうまいくいかない。
「あ、あの……アルセス辺境伯様より魔法を教授するように言われたのですが――」
どこか自信が無いような声色に俺は、胸を掻き抱いたままハッとした。
俺の知っているアリサは、こんな話し方をするような女性では……。
「――は、はい!」
俺は、ベッドの上で座ったまま声を張り上げる。
ただ、思っていたよりも動揺していたこともあり甲高い声で応答してしまっていた。
「中に入ってもいいですか?」
「どうぞ――」
胸の部分に右手をあてながら、何度も深く息を吸っては吐く。
まずは落ち着け。
声色からして間違いなく俺の知っているアリサではない。
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