第82話

「アルス。まずは、この魔力石に手を触れてみなさい」


 俺は喉をゴクリと鳴らす。

 これで魔力石が何の反応も示さなかったら、大切な物を守れなくなる。

 そんなのは嫌だ。

 

 俺は魔力石に手を触れる。

 すると、魔法指南書は強烈な白い光を放つ。

 そして、その白い光は少しずつ収束していき天井を破壊し天を貫く一条の光となった。

 

「アルス。お前には魔法の才能が――」

「お父さん、とても大事なお話があります」


 俺は父親の言葉を途中で遮る。

 ここからは相手を納得させるための話し合いだ。 

 俺の目をジッと見てくる父親であるアドリアンは小さく溜息をつく。


「分かった。どんな話だ?」

「その前に、お母さんを交えて話をしたいと思います」

「わかった」



 俺の言葉に、父親は頷くと母親であるライラを呼ぶ。

 すぐに居間には、俺と両親の3人が集まった。


 今から言う事は、本当に言っていいのか分からない。

 それでも、大切な人を守るためだ。

 協力は必須になる。

 フィーナも母親も、俺を信じるといってくれた。

 だから、俺も誰かをまた信じよう。

 重苦しくなる雰囲気の中、俺は口を開く。


「お父さん、お母さん。僕は、何度も死に戻りをしています」


「死に戻り? どういうことなの?」

「何を言っている?」


 母親も父親も、俺が何を言い出したんだ? という視線を向けてきた。

 

「順を追って話をします」


 俺は、自分が転生してきたという事実を除き、転生後からの起きた全てのことを両親に伝える。

 俄かには信じがたい話だと思う。

 

 ただ、俺が本当の……実の子供でないという事実だけは教えるわけには行かなかった。

 それは間違いなく両親を傷つけることになる。

 いや、もしかしたら他人として向けられる両親の目が怖かっただけなのかも知れない。


 まだ、自分が、どうしてこの世界に転生してきたのか分からない。 

 統合されたアルスが、殆ど知識を持っていなかったことも気にはなる。

 でも、今は、それは置いておこう。

 最優先事項は決まっているのだから。


「魔王か――、俄かには信じられない話だな……」


 父親であるアドリアンは、深く溜息をつきながらも立ち上がると靴を履き始めた。


「お父さん?」


 ――やはり、話を信じてもらえなかったか……。

 いくらなんでも死に戻りや魔王と言った話は、青銅石器時代の文明しか持たない人間には難しすぎたか――。


「ほら、アルスも支度しなさい!」


 母親が俺の上着を脱がせると外行きの服装に着替えさせてから靴を履かせた。


「――え? あの……」


 俺は母親の方を見る。


「まずは、アルスが言ったことが本当かどうか確認しないといけないわよね?」

「そういうことだ。子供の頃というのは色々と妄想するものだからな。本当かどうかは、その魔王城が本当にあるかどうかを見てからだな」

「――はい」


 俺は父親と母親の言葉に頷く。

 どうやら思っていたよりも論理的に動いてくれるみたいだ。

 ただ魔王城が見つかったとき、俺の言葉も真実となる。

 


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