第76話

 俺が出任せで言った言葉が全部、曲解して伝わっている……。

 しかも、俺は村を見捨てる気まんまんだったのに――。

 ただ、ここで本当のことを言うわけにはいかない。


「は、はい……」

「さすがは私の息子だ! 自らの命を顧みず魔物を倒して治療費を稼いで領民を助けるとは! お前も知らないうちに次期領主として成長しているんだな!」


 どうしよう……。

 なんだか、いい感じで話が纏まっている。


「村の皆は、許可をしたのですか? 一人のために借金をすることを了承したのですか?」

「もちろんだ! お前が一人でも! フィーナの妹レイリアを子供ながら助けようと隠れながら奮戦したことを聞いた村の人間は全員、子供にばかり負担はさせられない! と、言っていたぞ?」

「……そ、そうですか……」


 こいつら、みんな……お人よしすぎる。

 何が! 子供が! 頑張っていたら、大人も手助けしないといけないだよ……。

 大人は、そんなものじゃないだろ?

 

 もっと自分のため!

 自分の利益のためだけに他者を食い物にするのが人間の本質だろ!

 何を……。

 何を善人ぶっているんだ……。


 くそっ、俺の知っている大人は、もっと――。

 ――もっと自己保身の塊だったのに!


 それなのに目の前で、たった一人の人間を助けるために行動している人間たちを見ると、何故か知らないが無償に苛立ってくる。

 俺のときは、誰も手を伸ばさしてくれなかったのに!

 どうして……。


「――大丈夫? アルス」


 考えこんでいると、後ろから俺を母親が抱きしめてきた。

 

「なんだかすごく辛そうな表情をしていたけど、何か悩みごとでもあるの?」


 母親が悲しそうな表情で俺の目を見てくる。

 

「べ、べつに……」


 何故か分からない。

 でも母親の瞳を見ていると自分がどうしようもない人間に見えてくる。

 

「ライラ、アルスをアルセス辺境伯のアルセイドに連れていこうと思う。フィーナの妹レイリアの容態がお前も気になるだろう?」

「……はい……」


 まったく俺のシナリオとは関係ない流れになってしまった。

 俺には頷く以外の選択肢はなかった。




 明日には、出発するという話になり俺は川原の岩場の上で溜息をつきながら小石を川へ投げ込んでいた。


「はぁ……、最悪だ……」


 一人、溜息をつきながら悪態をついていると、岩場の下から俺を見上げて「アルスくん……」と、フィーナが話かけてきた。


「何だよ?」

「……少しアルスくんと、お話がしたくて――」

「……そうか、良かったな。村全員が協力してくれることになって」

「うん、これも全部、アルスくんのおかげだね……」

「おれのおかげか……」


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