第73話

「気にすることはない。アイテムボックスに入るか?」

「うん、やってみる」


 フィーナは頷くと箱に手を当てて箱をアイテムボックスに仕舞った途端、眉間に皺を寄せると俺を見てきた。

 何かあったのか?

 もしかしたら魔力をかなり消費するのか?

 いまの箱には、鉄製の剣が入っていたからな。

 

「あまり無理はするなよ?」

「うん……」 


 フィーナは、戸惑うような顔色をして頷いてくる。

 やはり、かなり魔力を消耗するようだ。

 それでも妹を助けたいのだろう。

 何度も怪訝そうな表情をして俺を見てきた。


「具合が悪いようなら言えよ? フィーナは、俺にとって大事な人だからな」

「……うん」

 

 全部の箱がフィーナのアイテムボックスに入ったのは、5分ほど掛かったが誤差の範囲だ。

 これで、あとは食料と山を越える毛皮に母親を連れ出せれば、こんな村からオサラバできる!


「それじゃフィーナ、村へ戻ろう」

「……ねえ? アルスくん……」

「どうした?」


 フィーナは地面を見たまま俺の顔を見ようとはしない。

 しばらくしてからフィーナは俺の瞳を見てくる。

 彼女の瞳には良く分からないが強い力が秘められているような気がする。


「妹に――、レイリアに会ってほしいの」

「俺が? フィーナの妹に?」


 どうして、俺がフィーナの妹なんかに会わないといけないのか? 意味が分からない。

 俺には母親を説得するという仕事があるのだ。

 そんな些事にかまけている余裕なんてない。


「うん……」

「いや、俺は商業国メイビスにいく用意とか――」

「――お願い……アルス……くん……お願い……妹に会って――」


 ……面倒だな。

 だが……、ここでフィーナのお願いを断って商業国メイビスへの同行を断られても困る。

 どうするか……。

 俺は、心の中で溜息をつく。


「分かった。会えばいいんだな?」

「――うん……」


 俺の言葉に、沈んだ声でフィーナは頷いてきた。

 



 フィーナの家に到着すると、彼女は家の中に入っていく。

 そして、家の中から金髪碧眼の20歳後半の女性が出てきた。

 彼女はフィーナを大人にしたような女性で、痩せてはいるが綺麗だと思う。


「これはアルス様――」

「お母さん! それは、いいから! そういえばお父さんは?」

「畑に行って……」

 

 フィーナと母親の声が聞こえてくる。

 どうやら父親は畑に行っているようだな……。

 まぁ、騎士爵の長男がとつぜん来訪したら驚くだろう。

 

「アルスくん! こっちきて!」


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