第66話
俺は首を傾げる。
彼女が俺とどんな会話したいのか想像もつかない。
「あの! ごめんなさい!」
突然、謝られたことに俺は首を傾げることしか出来ない。
そもそも俺の記憶の中には、フィーナという少女の記憶どころか子供たちと会話したという記憶がないのだ。
ただ、それを言うと不審に思われるかもしれないな。
「気にすることはない。当然のことをしたまでだ」
子供相手だ。
それに、一緒に居るとしても別の国に移動する俺にとって2週間程度の付き合いになるだけの相手。
適当に、望む言葉を掛けておけば問題ない。
それに、一度でも別の国に移動すれば交通網も発達してない世界では会うこともないだろう。
「それでも! アルスくんが、狼から私のことを助けようとして魔法を使ってくれたのに……、私……魔法を使うのは魔王やその眷属、それに魔物って教えられていたから、あの時は怖くて、ありがとうも言えなかったから……」
なるほど……。
アルスは、元々から魔法が使えたということか?
それも狼を魔法で退けるほどの力を持っていたと……。
「だって! 私、貴方が怖くて化け物って言って――。だって、アルスくん……私達の中では一番気弱だったのに……まるであの時だけは別人みたいだったから……」
「気にすることはない」
「――で、でも! 今日のアルスくん、変だったから! まるで、私達なんて……どうでもいいみたいな……そんな目で見てきたから……」
「……そんなことない」
俺は、彼女の言葉に苛立ちを覚えていた。
まるで俺じゃなくて、アルスだけを見ているような言い方に腹が立って仕方ない。
ただ、ここで怒っても仕方ない。
「あ、あのね!」
「そろそろ帰ったほうがいいんじゃないか? 日もそろそろ沈むぞ?」
これ以上、この少女と話をしているのが辛い。
「わ、私ね!」
俺の中では、もうフィーナのことは、どうでもいいと思っていた所で、彼女は川原に落ちていた石を手に持つと、手のひらに乗せていた石を目の前で消して見せた。
「アルスくんに助けられてから、アイテムボックスの魔法が使えるようになったの!」
「……そうか……。フィーナ、少しだけ話があるんだが……」
俺はフィーナのアイテムボックスの魔法を見て利用価値があると心の中で微笑んだ。
俺に引け目があるのなら、フィーナは俺に協力するはずだ。
それにアイテムボックスが使えるなら、これ以上便利な物はない。
それに魔王の存在は言わなくても、村よりも良い暮らしが出来ると提案すれば、簡単に乗ってくるに違いない。
人間っていうのは利己的で打算的な生き物だからな。
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