第60話

 アルセス辺境伯の辺境に位置するシューバッハ騎士爵家が治めるハルス村は、人口200人ほどの小さな村だ。

 村の戸数も、丘上に立てられた騎士爵邸から確認できるだけで戸数は60もない。


 川原から村に行くためには、一度は騎士爵邸の前を通らないといけない。

 俺はハルス村で情報収集をするため、騎士爵邸とは名ばかりの民家の前を通る。 


「アルス。どこにいくんだ?」


 丁度、騎士爵邸の前を通り過ぎようとしたところで、薪を青銅製の斧で割っていた父親と出会ってしまった。

 

「ちょっとハルス村に行こうかと……」

「――なに!?」


 俺の言葉に、父親が驚いた表情で叫ぶと、何事かと母親が物陰から顔を出してきた。

 どうやら、母親は裏で洗濯物を洗っていたらしい。

 俺の顔を見ると「アルス!」と言って近づいてくると抱きついてきた。


「お母さん、痛いです」

「大丈夫! ギリギリを見定めているから!」


 何が大丈夫か分からないが父親が、呆れた様子で母親を剥がしてくれた。俺から剥がされた母親は少しの間、膨れた顔をしていたが何かに気がついたのか「それで、アルスがどうかしたの?」と父親であるアドリアンに聞くと「ハルス村に行くみたいだ」と、父親が母親に言うと「ええ!? 大丈夫なの?」と、とても心配そうな表情で俺に語り掛けてきた。


 何が大丈夫なのだろうか?

 自分が治めているハルス村に何か問題でもあるのか?

 まぁ、俺としては村から出るためにも情報を得ることが重要だ。

 そして情報を父親から得るわけには行かない。

 下手に外の情報を求めると、あらぬ疑いを掛けられる恐れがあるからな。


 あとは母親に聞いても、この世界の女性は男性を立てる習慣があり夫婦の間では情報共有が、綿密にされているように感じられる。

 つまり、母親に外の世界の情報を聞くと高い確率で俺の企みがバレてしまう可能性がるということだ。

 本当に厄介だな……。

 

 両親から話が聞けないなら、どこから話を聞くかだが……。

 それは村の連中から聞くしかない。

 正直、アルスの知識と経験はお子様並みだから、殆ど役に立たない。

 ということで、まずは村に行くことが重要だ。

 ただ、村に行く! と、言うだけでは許可が下りなさそうだ。

 うまく会話を誘導しなければ……。


「はい、僕は考えたのです。いつまでも、引きこもじゃなくて家に居るだけではダメだと……。友達を作らないといけないと思いまして……」


 俺の言葉に父親が、何度も頷く。

 そして母親と言えば、オロオロとしている。

 一体、普段のアルスは何をしていたのだろう? と思わず思ってしまう。


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