第一章 幕間
第42話
――アルセス辺境伯領、都市アルセイドに存在する酒場「血と酒」は、辺境伯領を守る兵士や城壁建築などの仕事に従事する屈強な男達のたまり場。
そんな酒場で今日も私は仕事帰りのエールを飲んでいた。
私が魔法師団長の職に就いてから何年が経っただろう。
私は、溜息混じりに「結婚したい!」と、呟く。
「もう、帰ったらどうです?」
私は、エールの入った木製のカップを、カウンターに叩きつけるように置きながら「うるさいわね!」と話かけてきたマスターに文句を言う。
少し大きな音だったこともあり、周りに座っていた人間たちが一斉に私を見てくる。
「また、アリサかよ……」
「顔は良いのに……」
「やめておけ、やめておけ、攻撃魔法で吹き飛ばされるぞ」
「今年で100歳だったか? 大台突破だな。ハハハハ――グフォッ」
「ベッカー!」
淑女の年齢について語っていた男を風の魔法で巻き上げる、
そして天井にキスして落ちてきたところで頭をブーツで踏む。
「ベッカー君。今、何か言った? ねえ? 今、何か言った? 言ったよね?」
「な、なんでもないです……」
「アリサ。酒場では、もう暴れないと言ったから入れてやったのを忘れたのか?」
「――クッ……」
男の頭を踏むのをやめ、自分が座っていた椅子に座る。
「マスター、酒!」
「お前、ほんとに……そんなんじゃ嫁の貰い手がないぞ?」
「どうせ、結婚できない……し……」
酒場のマスターは溜息をつくとエールの入ったカップを私の前に置いた。
私はエールを飲みながら、心の中で溜息をつく。
ハーフエルフの寿命は200年ほど。
容姿の成長は20歳で止まり、死ぬまで若々しいのがエルフやハーフエルフの特徴。
だから、ある日、突然に寿命が来てしまうこともある。
そんな曖昧な生だから、結婚するのも遅い。
普通の人間なら13歳から18歳の間で結婚する。
だけど、ハーフエルフの場合は30歳から40歳が普通。
そんな私だったけど……、そろそろ、100歳に差し掛かる。
「どうしよう……」
私は頭を抱える。
たしかに私の見た目は美人だと思う。
でも、ハーフエルフなのだ。
ハーフエルフは純血種を尊ぶエルフからは嫌われているし、迫害の対象にもなっている。
私も小さい頃は、エルフに憧れだってあったし、エルフの村なら人間に苛められることもないと思っていた。
一人だけ耳が尖っているのは、やはり目立つ。
でも、人間よりエルフの方が酷かった。
エルフは、私がハーフエルフだと一目で見抜くと、石を投げてくるし、話もしてくれない。
そして、エルフは火の魔法は使わないし使えない。
何故なら森と共に生きる種族だから。
火は森を燃やすから。
「あー、あまりに苛められてムカついたから炎の魔法で森を半分くらい吹き飛ばしたのは不味かったかも……」
「お前なあ……」
酒場のマスターが呆れた声で私の呟きに突っ込みを入れてきた。
たしかにエルフの里があった森を半分吹き飛ばしたのは悪いと思った。
おかげで私は、二度とエルフの里に近づくことを禁止され、その結果、エルフたちからは完全に敵視され、同種族と結婚は事実上不可能に。
「分かっているから!」
マスターが何を言いたいのか分かっている。
少しは堪えろということだろう。
だけど、そんなのは苛めにあったことがない人間が言うだけの偽善。
いつか爆発するもので、爆発したら森が半分消えていただけ。
まぁ、そのおかげで軍からスカウトされたのは皮肉とも言えるけど。
「はぁ、どこかに私のことを大好きとか可愛いとか言ってくれる人いないかな……」
「いないだろ」
「煩いわね」
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