第37話
それに地震なんて言葉、この世界には存在していないと思う。
何せ、青銅石器の時代なのだ。
地震なんて概念すら存在しないだろう。
むしろ、アリサ先生が言っていた魔法の概念。
想像や空想が魔法を使う上で必要となったら、地震のメカニズムなんて教えたら、それこそ大量殺戮魔法が出来てしまう。
そんなことは教えられない。
異世界だからと言って、何でもかんでも教えたらいいわけではないのだ。
俺は一人、考えながら本格的な冬の到来が近づいてきて肌寒い中、上着を羽織ったところで、寝室に繋がる戸を開けて母親が居間に入ってくると「アルス!」と、母親が抱きついてきた。
「あの、今日は、これから魔法の修行が……」
「――ええ!? 待って! まだ、ダメよ!」
何がダメなのだろうか?
母親は、俺のことを強く抱きしめてくると、首元に顔を寄せると何度も深呼吸してくる。
「ああっ――。やっぱり息子は最高よね!」
母親が呟いた台詞に似たのを俺は前世で聞いたことがあったが、どこで聞いたか思い出せない。
それよりも、人の匂いを嗅ぐのをやめてほしい。
そういう、特殊性癖を隠さなくなったら、もう人としてダメだと俺は思う。
正直、普通の人から見たら引かれると思う。
俺は、アリサに母親が特殊性癖の持ち主で有ることを誤魔化すために、「お母さん! 僕はこれから早朝の修行があるので!」と言いながら離れようとする。
「大丈夫よ! 私も朝食の準備があるから!」
何が大丈夫なのか意味が分からない。
とりあえず、そういう人の迷惑になるような人の匂いを嗅いで悦に浸るような真似はよしたほうがいいと思う。
だけど、もし俺が言ったら母親は傷つくかもしれない。
――くそっ! どうしたらいい!?
「お義母様、アルスが困っています!」
俺がどうしたら迷っていたところで、アリサが母親に注意してくれた。
ただ、アリサが言うと角が立ってしまうわけで……。
母親はアリサを睨んだあと、目に涙を溜めて、涙を流しながら「ううっ。アルス、お母さんが嫌い?」と、聞いてきた。
「――え?」
いきなり母親が泣き出すなんて理解できなかった。
俺は、どうしたら……。
「アリサ……少し言いすぎ――でも……なくも……ないかな……とか……思ったり、思っていなかったり……」
アリサに少し言いすぎと言おうとしたら、アリサも泣きそうな表情をしたので、俺は何も言えなくなった。
もう、どうしろっていうんだ!
「お前たち、朝から何をしているのだ……」
父親が呆れた声色で母親であるライラの頭を軽くたたく。
「アルス。お前は、アリサ殿と朝食前に魔法の修練に行ってこい」
「はい……」
俺は父親の言葉に頷くとアリサを共だって家を出た。
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