第14話

 落ち込んでいた表情をしていた彼女は驚いた表情で俺を見てきた。


「魔法を教えてくれる方ですから先生です! それよりもですね!」

「は、はい!?」

「いつも、水汲みの仕事は午前中の時間を使ってしまうので、本当に助かりました! 本当にありがとうございます!」


 俺は、頭を下げる。


「ま、まって! 頭なんて下げないで! 貴方は貴族だから! 平民出身の私に頭を下げなくていいから!」

「そうですか……」


 アリサ先生の言葉を聞きながら、俺は頭を上げる。

 すると彼女は、驚いた様子で「で、でも……怒ってないの?」と聞いてきた。


 彼女が、どうして、そんなことを聞いてきたのか一瞬、理解できなかった。

 

「だ、だって……。貴方に、許可を取っていないのに仕事を奪ってしまったでしょう?」

「……それは、アリサ先生が魔法の練習時間を多く作ってくれようとしてくれたからですよね? そして、それは僕のことを思って行動してくれた結果ですよね? なら、感謝することはあっても恨むようなことはありません」

「――そ、そう……」


 俺の話を聞いたアリサ先生は、ホッとした表情を見せると一瞬、笑顔を見せてきた。


 その笑顔は、陽だまりの中に咲く花のように美しく思わず「かわいい……」という言葉が口からでていた。


「――えっ!?」


 アリサ先生は、目を丸くして俺を見てきた。

 昨日の、自己紹介のときに感じていた冷淡な雰囲気とは、まったく違う。

 そう、年相応の女性のように彼女の表情はコロコロと変わっている。


 おそらくだが、アリサ先生は、年齢的には20歳にも届いていないはず。

 俺が子供で神経を張り詰めずにいたからこそ、見られた表情なのかもしれない。


「…………わ……私が……かわいい?」


 彼女は、俺の言葉を反芻するかのように俺に語りかけてきた。

 俺は頷きながら答えることにする。

 昨日、彼女に助けてもらったのに拒絶するような対応をしてしまった。

 その罪悪感もあった。

 だから元気になってもらいたかった。


「はい、僕から見てもアリサ先生は、とても可愛いと思います!」


 そう、前世47歳の俺からしたら、20歳以下の女性なんて子供みたいなものだ。

 しかも、誇張なしでアリサ先生は、可愛いから褒めるに苦労はしない。


「その少し赤みが掛かった金色の髪も! 金色の瞳も! 少し尖った耳もアクセントになっていて! 笑うと、とても可愛いです!」

「――!」


 俺の言葉に、アリサ先生が顔を真っ赤にすると「私、今まで……そんな言葉、言われたことなかった。私を元気つけるためにお世辞で言ってくれたのは分かっているけど……とってもうれしい」と、俺に話かけてきた。


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